地獄の三角関係
とうとう出してしまった……掲示板で思いつきで出してしまっただけのあのキャラを……
いや難産で書いては消し書いては消しを繰り返してたら天啓の如くネタが降りて来たもんでつい。気が付いたら一気に書き上げてましたわ。
ギルドで換金を済ませて外に出ると、日はまだ高く日没までは暫く余裕が有りそうだった。どうせ熊さんの宿が満室になることは無いだろうから、部屋取る前に風呂でも行くかなー、と思って歩き出したところでギルドから出て来た冒険者と目が合う。見覚えのあるイケメン王子様フェイス、ヴァイスだ。
「や、やあ。昨日ぶりだね」
? なんか動揺してる? いや、よく考えればあんなことやらかしたら気まずいのも当然か。とは言えこちらは気にしていないし、被害者とも言える彼が自分を責めるような真似はして欲しくない。俺は気にしていない事を示すべく、笑顔を浮かべて対応する(間違ってる! その対応は間違っているから!)。
「ああ、ヴァイスさん。そちらも仕事終わりですか?」
「!?(可愛っ! いかんいかん)あー、なんか敬語だけどタメ口でいいよ? 同じ冒険者だし歳もそこまで離れてないよね?」
「いや、一応年上の先輩相手だったんで……んじゃお言葉に甘えて、よろしくヴァイス」
「(ヤンチャっぽいのもアリだな)ああ、よろしくシン。」
俺の差し出した右手に、ヴァイスは少しはにかんだような笑顔を浮かべて握手を返す。……妙に色っぽいなこいつ。女だったら惚れてたかもしれん(嫌ぁぁぁっ!)。
ふと視線を感じてその方向に顔を向ける。そこにはなにやら衝撃を受けたような表情をした一人の美少女。うん、むさ苦しい冒険者ギルド前には似つかわしくない美少女だ。栗色のふわふわしたショートボブ、どこか小動物を思わせる愛らしい顔立ちと小柄で華奢な体つき、着ているのはゴスロリっぽいフリルを多用した……なんだろう、魔法少女の衣装が一番近い表現か? 歳は俺に近く、どことは言わないが一部の体の発育は絶壁的だ、もとい絶望的だ。だがそれがい……何でもない。ぼくロリコンじゃないよ。いやまて今の俺は12歳、ならばこの年齢の子はむしろストライクゾーン、何の問題もない。つまりちっちゃな子が好きでもロリコン扱いにはならないわけだ。なんてこったい最高だぜ! ……まあ実はそこまでロリ好きじゃないんだけどね。ふつーにお姉さんとかもいけます。可愛ければ何だって良いじゃない、男だもの。
で、その女の子なんだが、衝撃を受けたように固まり、髪と同色の栗色の瞳をもつ目は大きく開かれ……突然ぼろぼろと大粒の涙がこぼれ出す。え、何、泣かれた?
「ヴ、ヴァイスさん。やっぱりその子が新しい恋人なんですか!? だから僕が邪魔になって……」
「ちょ、違うから! 彼とは(まだ)そういう関係じゃないから! だからそういう(警戒されそうな)こと言わないで!」
あ、僕っ子なんだこの子……じゃない! なんかめっちゃヤバい勘違いされてんじゃん! てかこいつこの可愛い子捨てたのもったいない俺によこせ。
「とにかく落ち着いてエミリオ」
「やだ! 前にみたいにエミリアって呼んでください!」
……あれ? なんか今、幻聴が聞こえた気がする。エミリオって男性名だよね?
愕然として固まる俺に、修羅場状態の二人。そんなものが人通りの多いギルド前で注目されないはずがなく……
我に帰った俺達は慌ててその場を離れるのだった。
場所は変わって冒険者通りの酒場、その個室(パーティーでの打ち合わせなんかで需要があるらしい)に俺達は避難していた。
えぐえぐ泣くエミリオ君(まじで男だった!)の話を聞くと、彼は元々男なのに女の子が興味を持つ様な事に関心があり、恋愛対象も男性だった為、周囲からは気持ち悪がられ、親兄弟からは矯正の為の躾と称した虐待を受けていたらしく、耐えきれずに数ヶ月前に家出して迷宮都市にやって来たらしい。んで、当時悪霊女に取り憑かれていたヴァイスに強引にものにされたそうな。最初は怖かったが女としての自分を求め、女物の服を買い与えてくれるヴァイスに、初めて自分の中の女を認めてもらえた喜びから次第に惹かれていったと。あとイロイロとヴァイス無しでは生きられない体にされてしまったと。
そしてそれを聞いて物凄く気まずそうにしているヴァイスからも、エミリオ君に聞かれないようにこっそり事情聴取。なんでも取り憑かれていた当時、エミリオ君を見た瞬間に何故か「リアル男の娘キター!」という謎の言葉が頭に浮かび、衝動的に襲ってしまったそうな(まあ犯人は奴だろう……っていうか、もしや奴は転生者?)。その後も女の子を相手にするように接したり、女物の服をプレゼントしたり、メス扱いで調教したり(おい)、明らかにおかしい行動を取っていたのだが、アレを退治した事で自分の行動の異常さに気付き、ペット扱いしていた愛人達(全員男)との関係を精算、エミリオ君以外は全員別れる事になったらしい。……何が恐ろしいってペット扱いされてた愛人達はその境遇に一切違和感を感じていなかったっていうのがね。大体アレを退治したぐらいの時間に初めて違和感を感じたってんだから間違い無く原因はアレなんだろう。洗脳系か? やはり経験値に応じたヤバい奴だったんだろう。
まあとにかく。
「性同一性障害ってやつだな」
「「なにそれ」」
うん、まあそんな概念ないよね?
「解り易く言うと心と体の性別が一致せず、自分に違和感を感じてしまう状態? 君の場合は男の体に女の魂が入っている感じかな? たまにあるらしいよ」
「僕以外にもいるんですか!?」
「話に聞いただけだけどね」
なんかこんな変な奴は世界中で自分だけじゃないかと思い詰めてたらしい。……多分君より変な奴は幾らでもいると思うよ。そして大抵の変人は悪霊女より無害だ。
しかし問題は前世と違って性同一性障害に対する周りの理解が無い事、そして体の性を一致させる治療法が無い事だ。
「なんか大昔に性別を変えるポーションが迷宮から出た事があったらしくて。それで僅かな望みに賭けて迷宮都市に来たんです」
だが昔すぎてどこで取れたか記録に残っていないと。取り敢えずヴァイスに責任取らせて探させようか。
「僕!? いや、まあいいけど。でもさすがにノーヒントはねぇ」
「やっぱり無理がありますよね……」
「何処から出たか分かっても、宝箱から実際に出るかは神頼みだしね……」
神頼み、ふとその言葉に俺は胸元のタリスマンに触れる。金属製のメダルが少し震えた気がした。
運命神「出番? 出番なの!?」




