宴、或いは人生初のまともな食事
休みの間にストック書かなきゃ
そうだスミス親方の設定もしっかり決めとこ
あれ、なんで親方のステータス計算してるの俺?
もう夕方……だと……
シンです。いま酒場のテーブル席でおっさんに囲まれ、熊みたいなおっさんに接客されてます。普通ここは美人店主とか美少女看板娘が出てくるところじゃね? かつて異世界転生ものでここまで頑なに女性キャラを出そうとしない作品があっただろうか、いやn……ありそうだな、なろう作家とか変人率高そうだし(偏見)。
え? 合成? なんか魔法陣の上に「小鬼の戦士の証」と「兎の耳剣」置いてピカッで終わったわ。たまたまその生産経験値でヘイグさんが位階上昇してお祝いになりました。
天職で最初の職業が生産職なった者はその職業に関わるアイテムを造り出すと経験値が貰える。ちなみに生産職カテゴリなのに生産しない商人は取引額がそのまま経験値になるらしい。逆に魔物を倒しても経験値は一切貰えないんだが。位階20ごとに新しい職を追加しても変わらない。例えば鍛冶士が戦士を追加しても戦闘経験値は貰えないし、裁縫士を追加しても裁縫で生産経験値は貰えない。もっとも噂によると複数の職業を内包したハイブリッド職業なんて代物もあるらしい。調合士系と料理人系の複合の食医とか。
「おう、今日は俺とエリックの奢りだから遠慮するなよ。この居酒屋、店主の顔と口は悪いが腕は良いからな」
「顔が悪いは余計だボケェ! あとウチは一応宿屋だって何回言えばわかる!」
「冒険者区画ならともかく、職人区画であのクソ狭い部屋に泊まる奴なんざいねーよ。職人区画の宿屋の客は大半が商人だぞ」
「たまに金ケチった連中が泊まりにくるわ!」
たまにかい。内心で突っ込みつつ、ふと思う。金ケチった連中ということはここはいわゆる激安宿なのでは? しかもクソ狭いということは個室。今日は日も沈み風呂に入ってさっぱりしてこれから腹一杯人間の食うメシを詰め込む予定。果たしてそこからダンジョンへ行く気力が湧くだろうか。
「あのここ宿屋なんですか? 宿決まってないんですけど一泊幾らですか?」
その言葉を聞いた瞬間、熊みたいなおっさんは一瞬で俺に向き直り満面の笑みを……まるで罠に掛かった獲物を見つけた肉食獣のような獰猛な笑みを浮かべる。え、ナニコレ怖い。
「素泊まり一泊200セル、部屋は狭いがベッドはしっかりしているしシーツも清潔だよ。チェックアウトは昼までに、宿泊客は食事が2割引になるよ」
条件は悪くない、いやむしろ良い。だが怖い。このおっさん、絶対なんか企んでるよ。
「あー、シン。一応言っとくがこれはこいつの普通の営業スマイルだ。宿泊客の襲撃とか企んでないからな」
「まじでっっっっ!!!!」
「なんでそこまで驚くんだよぉぉぉぉっ!!」
驚愕する俺に嘆くように突っ込む熊みたいなおっさん、略して熊さん。いやあんたの笑顔怖すぎだから。ヘイグさんに言われなかったら絶対勘違いしてるから。あと宿の客少ないのは絶対部屋の狭さが理由じゃないと思う。それでも店が潰れてないのは、食堂に熊さんのことを知っている近所の顔見知りが食べにくるからだろう。
とりあえず宿泊を決め、宿代を先払いして鍵を受け取る。階段上がってすぐの201号室……他に宿泊客いないんですねわかります。
俺は定食とエール(やはりこれは外せない)を、スミス親方達は定食とラガーと単品のつまみをいくつか頼む。定食はパンと野菜スープに「深き緑の森」産の突撃猪のソテーに炒め玉葱たっぷりのソースがかかったもの。付け合わせの温野菜として人参とジャガイモがこんもりと盛り付けられている。このボリュームでお値段50セルとお得。ちなみに迷宮都市の穀物や野菜類は初級ダンジョン「反逆の野菜の農場」のドロップ品である。バルト郊外の犯罪者収容所にあるダンジョンで食材の安定かつ安価に供給する為、捕縛した犯罪者を契約魔法で奴隷化し、階層毎に24時間3交代で潜らされるらしい。野菜型魔物は兎レベルの経験値しかないらしく、犯罪者が必要以上に力を付ける心配もない。おかげで農家がほぼいないバルトでも安価な野菜を食べる事ができる。
ではいただきます。うん、パンは前世で食べたドイツのライ麦パンっぽい。少々硬くて酸味もあるが気にはならない。野菜スープも細かく刻んだ野菜を煮込む前に脂で炒めて塩と香辛料を効かせていて、優しい味わいというよりインパクトのある味になっている。そして肉、本来味は良いが肉質が硬い為、安物扱いされる突撃猪の肉が見事に柔らかくなっているではないか。たとえ筋切りしてもここまでは柔らかくならないはず。いやまて、玉葱のソース……シャリアピンステーキか! 玉葱に肉を漬け込むことで蛋白質分解酵素により肉を柔らかく仕上げたか! この店主、やりおるわ。
とまあ、唐突にグルメ漫画ごっこを脳内で始めるくらい美味い。今世で初めて喰ったわ。いや孤児院の食事はね……安物の野菜と豆を適当に切って大鍋にぶちこんで水で練った小麦粉団子を加えて塩ケチって煮込んだすいとんモドキだったから。
ここでエールをぐびり。炭酸はそれほど感じず、ラガーのようなキレよりも甘さと重さを感じる。なんだろう、ビール版どぶろく? 前世で飲んだ缶に入ったエールとは全く別物なんだが?
俺が食べ終わる頃には、スミス親方達3人はすっかり出来上がっており、頼んでもいないのに酒とつまみを押し付けてくる。いやそんなに食えないから。
3人が潰れてテーブルに突っ伏して寝息をたて始めたところで宴会終了。いつものことだと言う熊さんに任せて二階の部屋へ。
部屋は確かに狭い。ベッドが1台、そしてその半分程度の空きスペースしかない。清々しいまでに寝ることしか考えていない部屋だ。しかしシーツは清潔だし(あの布じゃない!)、ベッドはなかなかクッションが効いている。これはかなり良いベッドなんじゃないか? 試しに横になってみると、酒が入っていたこともあって直ぐに意識が遠のいていった……
コネクション「職人区画の顔役」スミス親方
スミス親方の好感度を一定値以上に上げることで利用可能になる。主に武器のオーダーメイド、腕の良い職人の紹介、職人区画で起きたトラブルの解決や調停、機嫌が良い時に奢ってくれるなどの利益が発生する。
スミス親方の好感度上げ方法(例)
例1:初対面での第一印象ロールに成功する。(隠しパラメーター魅力値依存、カルマ値が悪寄りだったり不潔にしているとマイナス判定)
例2:浴場で遭遇したとき風呂の素晴らしさについて語り合う。(熱目の風呂やサウナが好きだと上昇幅増大)
例3:職人区画に住む職人発行のクエストを受注し成功させる。(ヘイグ発行「小鬼のメダルを入手せよ」、ハーランド発行「薬草大量購入希望」etc.)
例4:宴会発生条件を満たし、宴会に参加する。(職人の納期のヤバい仕事を終わらせる、職人の位階上昇の場に居合わせるetc.)




