表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/68

浴場での出会い

お風呂回だよ。サービスサービス♪

なお登場人物の男女比

ギルドから外に出ると既に日が沈んでいた。西の空はまだ明るいが、しばらくすれば暗くなるだろう。「小鬼の洞窟」内部では「小さき獣の草原」と違って、明るさの変化はなかったので時間感覚が腹時計だよりだったから少し遅くなったようだ。

ギルドの裏を抜けて通りを二本、職人区画と呼ばれる場所は工房もたしかに多いが、仕事終わりの職人達を相手に商売する酒場や食堂などもあり、意外にも人通りが多い。

俺が目的としている浴場もそんな職人達の需要に応えた施設の一つだ。外観は武骨というか実用一点張りのいわゆる石造りの豆腐建築、しかし一度中に入れば実用的でありながらもそこかしこに装飾が施されており、華美過ぎることなく簡素過ぎることなく居心地の良い空間を造り出す正に職人仕事の結晶がそこにあった。……たぶんここの区画の職人達が自分達用に作ったなこれ。外観が豆腐なのは外見が地味で中身に拘る江戸っ子の粋的な何かなのか、はたまた中身に拘り過ぎたがゆえの予算不足なのか。

ロビーから男湯の入口へ向かい受付で利用料金を……50セル!? 公営の公衆浴場が20セルだから倍以上するやん。これが補助金の差なのか。とはいえ安全(貞操的な意味で)には変えられない。中に入り脱衣場で服を脱ぐ。ん? 洗濯乾燥サービス? 入浴中に服と下着洗ってくれるの!? 15分で完了、魔法で乾燥までしてくれるの!? 服と下着セットで10セル、手間を考えれば安い、お願いしまーす。公営にはない私営の独自サービスだな。無精な独身の職人がターゲットなんだろうな。

さて、風呂は……っと! サウナあるやん! 当然のごとく水風呂付き! 別料金で垢擦りとマッサージのサービスあり!? 冷却の魔道具で冷やした果実水や酒も売ってるの!? ん?なんか騒がしいな。脱衣場で何か……泥棒? もう捕まった? 警備員までいるの!? なんか文明レベル違い過ぎじゃね? 利用料金高いのにも納得だよ!

頭と体を洗って湯船へ。なんで当たり前のように3種類の湯船が並んでいるんですかねぇ。普通の湯に薬草にハーブを使った湯、そして風の魔道具を使ったジャグジー。薬草とハーブの湯は日替りで配合が変わるらしく、今日は腰痛や関節痛なんかに効く調合のようだ。協力「ハーランド調合薬局」……CMかな? とりあえずは普通の湯にするか。その後サウナに行って水風呂、休憩してジャグジーの順番だな。

今更だがこの世界では入浴の習慣は一般的だ。なんでも何百年か前に疫病が大流行した時、医学者で治癒術師だったルシウスという人物が公衆衛生の大切さを王に上奏し、私財を投じて浴場を整備し手洗いうがいの指導を行ったらしい。結果、彼の住む町では病人が激減し、入浴や手洗いうがいの習慣が世界中に広まったそうな。「浴場の聖者」と呼ばれるようになった彼の生涯は伝記となっており、孤児院にも一冊置いてあった。彼はこんな言葉を残している。

「名前がルシウスだったからついカッとなってやった。今は……反省してない」

どう見ても転生者です。本当にありがとうございました。ちなみにこの言葉は、伝記を書く許可を取りに来た作家に、本人が絶対に載せることを条件にしたという伝説を持つ。転生者にしか解らない一発ネタを残すためになにやってんのこいつ。閑話休題。

風呂である程度温まったら水を飲んでサウナへ。ふむ、部屋が2つに分かれていて手前が低温、奥が高温になっているのか。迷わず奥へ。かなり人のいた手前と違って奥はガラガラで数人の人影があるだけだった。その内の1人、大柄でマッチョ親父が俺が入って来たことに気付いて声を掛けてくる。

「おっ、奥に来るたー気合いが入ってるな坊主。見ない顔だがどこの工房だ?」

「あー、自分冒険者です。その、ギルド近くの公営公衆浴場は危険らしいので近づきたくなくて」

「「「ああ」」」

マッチョ親父とその近くにいた2人の計3人が、俺の顔を見て納得の声をあげる。

「危険じゃなくても近づきたくねーけどな。浴場でヤるなよな」

「絶対湯に白濁液混じってるだろあれ」

「浴場で欲情、ププッ」

嫌過ぎる浴場である。おやっさんには感謝しかない。うっかり行っていたら貞操以外でも心に傷を負っていたところである。あと最後の人はスルーで。

「まあなんだ強く生きろよ坊主。ああ、俺はスミス、この浴場の裏で鍛冶工房の親方やってる。金が出来たら注文たのむぜ」

憐れみと同情の視線を向けるマッチョ親父改めスミス親方。鍛冶師でスミスってまんまだな。

「あ、自分はシン。孤児院冒険者でド貧乏なんでしばらくオーダーメイドとか無理です」

「孤児院出身だったのか。俺はエリック、皮革加工工房やってる。頭良さそうだな、職業は魔法使いか?」

「あー、いえ実は盗賊でして」

チョイ悪親父系のエリックさんと話していると、残る痩せ型の親父ギャグの人が反応する。

「盗賊!! なら「小鬼のメダル」はないか? 品薄で困ってるんだ。あ、俺はヘイグ、錬金術師だ」

「あー、3つばかり持ってますけど」

「! 売ってくれ! 1つ300セルでどうだ!」

「え、いきなりギルドの買取価格の倍っすか。いいですけど」

「おっしゃっー!!」

俺の返事を聞くと、ヘイグさんは雄叫びをあげて立ち上がり、なぜかそのまま踊り出す、フルチンで。

「鬱陶しいわ!」「あべしっ!」

あ、スミス親方に殴られた。

「すまん坊主。こいつ上客からの依頼なのに素材がなくて困ってたらしくてな……」

「イテテ、いきなり殴ることないだろ。盗賊不遇のせいで「盗む」が必要な素材が本当に出回らないんだよ。だからまじで助かる」

「こっちもギルドより高く素材買ってもらえるんで気にしないでください……そういえば錬金術の合成の値段ってどうやって決めてるんですか?」

「ああ、素材の値段とその素材の合成に使う精神値の消費で決めることになっている。もちろん素材持ち込みならその分やすくなる」

「なら「小鬼の戦士の証」持ち込みで合成すると?」

「600セルだな……あるのか?」

「今日偶然に。工房はどちらに?」

「俺はスミスの工房に間借りして合成サービスやってるんだよ。このあと時間あるか? メダルも受け取りたいし5分で終わらせるぜ?」

もちろん俺に異存は無く、ついでにメシがまだということで奢って貰えることになった。なんかメダルの依頼が冒険者デビューする三男を心配した取引のあるお偉いさんからだったとかで、相当なプレッシャーだったらしい。うん、「小鬼の洞窟」で活動する新人には便利だよねあの効果。


たっぷり1時間、風呂を堪能して風呂上がりの果実水お値段10セルを楽しむ。同時に上がったおっさん3人組はジョッキで冷えたラガー(エールじゃない!)をあおっている。あれヘイグさんあなたこのあと合成……ま、まあいいか。洗濯した服と下着を受け取りロビーに出て……

「おい坊主、そっちじゃないこっちだ」

え、スミス親方、そっちはスタッフオンリーのバックヤードでは?

「工房は裏だって言っただろ、ここ通ったほうが早い」

そう言ってスミス親方は通路を塞いでいたチェーンを外して勝手に侵入する。え、ちょっと、いいの!?

「あー、ここもともとスミスの工房の炉の廃熱使った私設浴場だったんだよ。その後そこに集まった職人仲間が知恵と技術と資材と資金と労働力出し合って理想の浴場を創ろうってなってこうなったんだよ。つまりあいつがオーナーで、あそこの通路は工房直通」

この浴場、おっさんどもの拘りのDIYの結果だったのか。絶対奥さんに怒られただろこれ。

世の中アホなことをする奴がいるもんである(お前がいうな)。

お風呂回。肌色シーン増量。

嘘は言っていない。♪~(・ε・ )

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ