小鬼の洞窟
はい、そんなわけでやってきました「小鬼の洞窟」
ここは初級ダンジョンでも唯一、安全地帯が同じ層の中に複数あるダンジョンで、そのぶん身の安全を確保しやすいということで選んでみた。その反面、危険度は初級の中でもトップクラス。下層へ行くにしたがって同時に複数の敵に遭遇するようになり、さらに武器種に応じた役割分担を行って連携してくるようになる。ソロには危険なダンジョンだが……貞操の危険よりましだ、生理的に。
しかし、危険な代わりに実入りも大きい。経験値効率は危険度に比例してトップクラス、また質は悪いが金属製の武器をドロップするため、冒険者として自分を強化するには都合のいい場所である。……強くなれば、襲われなくなるよね(切実)。
一層目に出現する魔物は2種類。
1種類目はゴブリン。木の棒で殴りかかってくるだけのゴブリン。
2種類目はゴブリンノービス。ナイフで攻撃してくるゴブリン。ただのゴブリンより若干ステータスが高い。
ドロップは低品質魔石(小)、ゴブリンの腰布、謎の干し肉(原料不明で味は不味い。塩分が強い)、最下級ポーション(かすり傷なら治る)、そしてただのゴブリンが木の棒、ノービスがゴブリンナイフを落とす。ちなみに「盗む」で低確率で「小鬼のメダル」なるアイテムが手に入る。
1層では基本単独行動の魔物しかいないが、戦闘中に偶然移動してきた魔物に絡まれる可能性はあるので注意すべきだろう。
「小鬼の洞窟」はゴツゴツした岩肌の洞窟だが、何故か床は平らで歩きやすい。また、壁には所々松明が設置されていて、そこそこ明るくなっていて探索に支障はない。ちなみにこの松明、いつまでも燃え続けて消える様子のない不思議松明なのだが、残念ながら取り外して持って行くことは出来ない。取ろうとしても壁に根が生えたかのように動かず、切断しようと剣で攻撃しても傷一つ付けられなかったらしい。……たぶんゲームで言う非破壊オブジェクトなんだろうな。
おっと第一ゴブリン発見。向こうも俺に気付いたようだ。すかさず松明と松明の間の暗がりに入り込み「隠密」。俺を見失ったゴブリンはキョロキョロと辺りを見回し……背後から忍び寄った俺に喉を切り裂かれる。うん、「隠密」は使い手の敏捷依存で相手は感覚で抵抗する。今の俺のステータスならゴブリンにはまず発見できないだろう。もっとも一度発見された状態から「隠密」するには、視線を切るか最低でも視認しずらい状態にならなければならない。まあ、この環境なら比較的簡単なので問題はない。問題があるとすれば、精神値の消耗だろうか。推定だが「隠密」は5秒あたり0.1の精神値を消費する。つまり俺の精神値では最大でも500秒が限界で「盗む」を使えば更に減る。「索敵」も5秒0.1のコストで、曲がり角等の死角で不意打ちを受けない為にも使用は必須だろう。もっとも「索敵」は確認さえ出来ればいいので、発動して確認したら即キャンセルすれば消費は0.1だけで済むが。この層のゴブリンは脳筋思考なので、曲がり角での出会い頭でない限り不意打ちはない。たしか5層以下に出てくるゴブリンメイジは最下級のマジックポーションを落とし、低確率で精神値回復速度上昇効果のアクセサリーを盗めたはずだが……まだ無理だな。地道に経験値と金を稼いでいこう。
しばらく戦って気付いた。こいつら相手に「隠密」も「索敵」も必要ねぇ! 今の感覚値なら曲がり角の死角にいる特に息を潜めているわけでもないゴブリンは、簡単に存在に気付ける。そして今の敏捷値なら相手の挙動見てから背後に回り込んで首斬り余裕でした。
あれ? 盗賊強くない? なんで不遇扱い?
体力値低くても敏捷値があれば反応速度が上がって回避は余裕、攻撃速度も上がるから敵は回避しにくい。高い感覚値があれば動体視力も上がって見切りやすいし、高速で動く体の制御は器用値で行う。うん、合理的だ。やはり不遇扱いは納得できない。
まあ他人の評価なんかどうでもいい。いまさらパーティーなんぞ組むつもりはない。主に貞操的な問題で……あれ、むしろ不遇扱いだったおかげで危険回避してね?
更に戦い続けていると、「盗む」を使った瞬間に金色に光輝くエフェクト。おや、虹色じゃないの?
小鬼のメダル
種別:アクセサリー、錬金素材
効果:ゴブリン系種族が装備時幸運+3
武器合成時[対ゴブリン与ダメージ+10%up]
防具合成時[対ゴブリン被ダメージ-10%down]
ゴブリン達の宝物。ゴブリン系の魔物から低確率で盗むことができる。お守りであり手にしたゴブリンを幸せにすると言われている。だが逆に言えばゴブリンがこれを手放すことは不幸であるということでもある。
レアはレアでも微レアってとこか? 確か1%位で盗めるって情報だった。ちなみに1個150セルで売れるが……しばらくは「小鬼の洞窟」に通うんだよな。錬金術師の店に行って合成してもらうのもいいな。それよりも戦闘に余裕があるので2層に降りたほうがいいかもしれない。経験値も稼ぎもその方が良くなるはずだ。
初期職盗賊不遇は幾つかの理由があります。
1:そもそもこの世界はゲームと違い死に戻りなどないため、ワンミスが致命傷になりかねない体力値が低い近接戦闘職が嫌われている。
2:そのため防御は回避より受けて耐えるのが主流(初期職業では体力値が高い職業は大抵敏捷が低いため)、回避型は指導者がいないため独学か、低い体力値で受ける防御を行う。そして大抵死ぬ。
3:単に盗賊という名前が嫌われている。
そして主人公が何故強いかというと、
1:前世で廃人として鍛え上げたアホみたいな集中力と鋼のメンタル。
2:前々世の職業が暗殺者だったので魂が盗賊系職業の使い方を覚えており、体の動かし方がなんとなくわかる(創造神様、ジョブシステム流用したってよ)
3:異世界転生ではっちゃけて危機感が今一つなく、ギリギリを攻めた結果、頭おかしい数の魔物を狩って位階が上がった。