誤用ざむらい、御用でござる! ~かたはらお菓子~
「さぁ、評定を始めるぞ」
大広間に会した一同。
どのもののふも百戦錬磨の面構え。
独特な意匠が施された武者鎧を身に着け、剣呑な面構えで戦場の地図を覗き込んでいる。
そこに、一人浮かない面持ちの男が一人。
誤用ざむらいこと、間知貝宇左衛門その人である。
「ふむ……この砦は栗部ぇに任せてはいかがか」
「奴では役不足よ、他の者に任そう。
貴様はどうであるか山野辺ぇ」
「せっしゃにはちと敷居が高ぅござる。
他の者に任せるのがよろし」
「うむ、では田沼どのに」
「奴は先日、寝返ったぞ。
ここ辺りが潮時だと言ってな」
「なに? あの確信犯め……姑息な!」
次々と評は定の場で口から吐き出される誤用表現。
間知貝は我慢できなかった。
「貴様ら…!さっきから聞いていたら何を言っている。」
突然、怒り出した間知貝を驚いたように見やる一同。
「言葉の使い方が間違っている!よく聞け―役不足は過小評価の意味合いの言葉だ!力不足という意味ではない…間違えるな。」
間知貝はさらに別の侍を睨みつけて言う。
「貴様もだ!敷居が高いというのはバツが悪くて行きづらいという意味だ!なんの勉強をしてきたんだ。」
さらに別の侍にも……。
「お前は!潮時の使い方ぁ!そっちのお前は確信犯と姑息!確信犯は正しいと思って犯罪を…」
「うるさああああああい!」
一人の侍が立ち上がって言う。
「おかしーのはテメェだろが!
さっきから聞いてたらよぉおおおお!
なんで三点リーダーとダッシュを二つ続けて使わねぇんだよ!」
「え?え?」
何を言われているのか全く理解できない。
他の侍たちも立ち上がって口々に文句を言う。
「え? じゃないっこの馬鹿!
感嘆符の後もスペース入れろコラ!」
「鍵括弧の文の最後に句点を使うな!」
「あと、地の文とセリフの間は改行して一行開けろ!
読みづらくて仕方がない!」
「え?え?読みずらい?」
「”ず”じゃなくて”づ”だバカ!
片腹おかしいわ!」
――ぷっつーん――
その時、間知貝の中で何かが切れた。
「それを言うなら片腹痛いだろうがああああああ!」
暴走した間知貝が殴り掛かると、途端に乱闘騒ぎに。
評定どころではなくなってしまった。
「あの人たち、まーたやってるよぉ」
「んなもん、当人の自由じゃんね。
突っ込みが追い付かないわ」
成り行きを見守っていた足軽たちが言う。
「お前ら、本当の突っ込みどころはそこじゃない」
「「え?」」
「これ、ラジオ大賞の応募作品だぞ」
「「あー」」