第十八話 あと二日
作戦の開始の日は書類が届いた日───昨日から三日後だったので翌日となった今日から考えるとあと二日後になる。
それまでに俺はニーカさんにこのことを伝えるのと、アーテーの彼らを今回の作戦に誘っておかないといけない。
二日もあれば十分だと思うが、今日中に両方とも終わらせてしまおう。
ということで、俺は昇りきった朝日を尻目に寝間着から制服に着替える。
騎士団から支給された物だ。もらい物なのだが、はっきりと言ってしまえば粗悪品だ。
俺たちが私服としていた物の方がもっと品質も良い物だ。
様々なところにかかっている費用を削減した結果だな。日々の生活に財政の不安定さを感じるのは少し悲しい気持ちになる。
さっさと着替えを済ませ、俺はカタナを手に部屋から出ようとする。
が、その前にやることがある。
「ゼン。行くぞ」
ゼンを起こすことだ。
コイツは自主的に起きると言う事をしないので、俺が毎日起こす必要がある。
早く一人で起きれるようになってほしいのだが、なにせ今まで森で暮らしてきたせいで時間を意識した生活をコイツはしたことがないのだ。
朝、昼、夜と言った判断を付けていたが、別に朝になったら起きなくてはいけない訳ではなかった。そのせいで己の気の向くままに今まで過ごしてきた。こういった集団行動に近い物に拒否反応に近しいものが出ているのだ。
「私は寝てるわ」
「起きてんじゃねえか!!!」
俺は、ゼンを無理矢理ベッドから引きずり出す。
文字通り、ずるずるとベッドから引きずり出し床に落とす。
眠い眠いと言いながら、ゼンは芋虫のように前に進む。
前に進む意志があるだけましなのだが、歩いて欲しい。
「退化するな。足を使って歩け」
「これは退化じゃないわ。不要な足を取り除き、体の軽量化を図ったのよ」
「それで体は軽いですか?」
「そんな事はどうでもいいのよ」
どうでもいいって……お前から話し出した話題なんだが。
自分でテキトーに扱っているよ。
「この状態だと着替えられないの。着替えさせて」
はあ、とため息をついて俺はクローゼットから1着の服を手に取る。
「じゃあ、そのまま私───ブフォッ」
それも乱雑にゼンの顔目掛けて投げつける。
それぐらい自分でやれ。俺はお前の召使いじゃないんだよ。
「じゃあ、俺行ってくるから」
俺はそう言って部屋から出る。
ゼンを起こした瞬間から俺の仕事は終わっているんだよ。着替えをさせる義務は俺にはない。
昨日と違いもう騎士団員が起きていて、廊下の何人かの姿がある。
残念ながら嫌われているので挨拶は避けるが、いつかこんな遠慮をしないで済む日を期待して待っていよう。
それで、俺の最初の目的はニーカさんにこの件を伝えるのと、使いっ走りとして使いたいアーテーの彼らの指揮権を譲渡してもらうことだ。
これは特に滞りなく進むと思っているのだが。問題は、アーテーの彼らをどうするかだ。
やって欲しいことはたくさんあるのだが、彼らのどう説明するべきなのか俺は悩んでいた。
いくらニーカさんの指示でという便利な言葉を多用したところで不自然なところはでてしまうだろうし、ばれるまでそれでいい、という訳にもいかない。
貴族の周辺を探ってもらう以上、可能な限り説明しておかないと俺の求めていたものと違うものを持ってくるかもしれない。
それに、あまり貴族に感づかれてもいやなので、それ暗に伝えるというのも少し無理がある。
内容もよく分からない任務で周囲にあまりばれないように活動しろなんて、不審すぎる。
こうなるとやはり俺の一人の方がいいのではないかと思う。
俺とゼンだけで行動した方が、安全にそして必要な情報より深く得られるのではないかと。
そんな考えが俺の頭の中に浮かんでくる。
しかし─────
「ん?もう着いたのか。案外近いもんだな」
執務室の前に俺はもう立っていたので考えることをやめる。
いや、ここで考えを決めていた方が良いか。
ニーカさんには指揮権の譲渡の話もある。
もしも連れていかないのだったら、この話はしなくてもよくなる。
だったら、今のうちに決めておかなくては……。
と言っても、あまり時間をかけるわけにはいかないんだよな。
「だったら取りあえず連れていけば良いんじゃないの?」
「まあ、そうか。無理なら無理で自由にしてればいいな」
俺は、突如声がした方を見る。
あまりに自然だったもので普通に返事をしてしまった。
「……」
「……?」
「?じゃねえよ!!!なに普通に俺の独り言に入ってきてるんだよ」
「だって一人で悲しそうだったんだもの。惨めね」
そこにはゼンが立っており、しっかりと着替えを終えて俺を追ってきたようだった。
着替えるだけだったわりに時間がかかっていたような気がするが、この際別に良いだろう。気にするほどでもない。
「それにアーテーの部隊はアンタに指揮権があって、そのアンタの指揮権を団長がもっているようなもんだから、アンタの指示があれば動くでしょ」
言われてみればそれもそうだな。
表面上はボルダンが隊長だが、実際の指揮権は俺にあるので連れていくだけ連れていけば良いか。
「そういえば何で団長さんはアンタの事をそれほどまでに信用しているのかしら。現実的に考えればあって一ヶ月も経ってないのに偉く信用されてるわよね。自分の直轄の部隊の指揮を任せたり、騎士団の今後の左右する交渉の場に連れていったり。まるで自分の右腕だと言わんばかりの使い方よ」
「それは俺たちがとやかく言ったって分からないだろう。ニーカさんに考えがあるのかもしれないし、最初の会話で俺から何かを感じ取ったのかもしれないだろ」
ゼンについてばれそうになった時の話し合いはかなり子供とはかけ離れたものだったしな。
それで信用に値すると思ってくれているのかもしれない。それに、騎士団のために色々と尽力した実績もあるし。
「うーん。不自然なのよねえ」
「あんまり疑うのも悪いと思うぞ」
「だけど……、まるで親になったような雰囲気って言うか、誰かから何か吹き込まれているって言うか……」
「それの答えは少なくとも今でないだろ。ほら、行くぞ」
俺は、ニーカさんの事を信じられていないゼンを連れて執務室に入る。
ノックをして中から返事がしたのを聞いてから、俺たちは室内に足を踏み入れるのだった。
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