第三十四話 両者の邂逅
力なくぐったりと倒れているアインを、ゼンは少し離れたところから視界に収めた。
体中から真っ赤に染まった血を川のように流し、ただそこにいるだけの物と化したアインを。
「アイン!」
ゼンは、溢れんばかりの声でアインに向かって叫ぶ。
しかし、アインは一瞬視線をこちらに視線を向けて気を失ってしまった。いや、死んでかもしれない。
そんな考えがゼンの頭の中をよぎる。
一緒に楽しく暮らしてきたアインが、ここで死んでしまったかもしれないと。
「コリア!アインを回収して撤退!私も後から行くわ!」
「わ、分かりました!!!」
ゼンは、怒号に近い指示をコリアに飛ばして戦闘を再開する。
アインが安全に後方に下がるにはとにかく時間を稼いでヘイトをこちらの向ける必要があるとゼンは考えたのだ。
コリアがそこいる事すら忘れて、ゼンは剣を次々と出し化け物にぶつける。
一瞬の隙もなく、早馬の如く繰り出される攻撃に化け物もそちらの意識を向けざるをえなかった。
「向きなさい!コッチを向いて私に牙を向きなさい!!!」
ゼンは、化け物を煽りつつアインの撤退の進捗状況を見る。
コリアはアインを背負って、走り出していた。もうまもなく路地に入るぐらいで、あと少しで撤退できるだろう位置にいた。
しかし、化け物は先ほどのゼンの攻撃によって攻撃性が増していてゼンの連撃に負けず劣らずの拳のより連撃を繰り出す。
剣の創造をやめたらその拳が己の体に触れそうで、撤退の瞬間すら与えない。
「チッ!邪魔くさいんだけど!!!」
ゼンは、意図的にというよりもただ思って事を口から溢す。
言葉を理解しているのか化け物はさらに攻撃性を増したように感じられた。
しばらく戦闘を継続し、ゼンの撤退への考えが薄まり始めた頃。
「アイン君が撤退してきて、コリアは今にも死んでしまいそうな顔をしてた」
声が響く。
苛烈な戦場に、凜とした気高き音が広がる。
ゼンは、その人物の接近を事前に察知して剣を打ち出すのは停止してた。
強烈なまでの力を放ち、その殺気だけか弱き者なら屠れそうな程の力を感じる。
「……エリス・ニーカ」
「やあ、ゼン君……であっているかい」
何気ない会話を繰り広げる二人。
だが、その片方は地を割る攻撃を避けている。
淑女たちが仲良くお茶会、なんてことをしていそうな会話とは裏腹に、二人の会話する風景は会話から想像できるものではない。
「ここは私に任せてくれ、君は撤退だ」
「撤退? 私に命令しないで」
「これは一瞬意識を取り戻した、アイン君からの指示だ」
「……チッ、あとは任せたわ」
ニーカの言葉に、シリウスは分かりやすく怒りながら加速する。
人間の目でも、化け物の目でも捉えられないほどの速度で機動をし、自分が請け負っていたヘイトを全てエリス・ニーカに移行した。
それを、待ってましたと言わんばかりにエリスも剣を抜く。
剣先を化け物に向けて、未だ秘めていた殺気を解放する。空間が止まったと感じる程の強い殺気に、ゼンは猫のようにその場を後にする。
「ばっかみたいな殺気ね、アイツにそっくり」
そうぽつりと溢しながら、ゼンは心情把握を起動させる。
アインたちの気配を見つけるためだ。ゼンはどこに集まっているのかは分からないので、位置を特定する。
アインの気配をすぐに発見できた。
どうやらまだ気を失っているようだった。
化け物の攻撃は直接受け身すら取らずに食らったのだ、ゼンはそのことをかなり心配していた。
周囲の人がいる可能性があるが、ゼンがはやる気持ちが抑えられず人間が出せるとは思えない速さでアインのところまで走るのだった。
☆☆☆
俺は夢を見ている。
と、思う。
確信はない。もしかしたら、あの世の景色を見ているのかもしれないし、これが現実でそれを認識できないだけなのかもしれない。
でも、とりあえず夢ということにしておこう。
目の前が真っ暗だ。
光がないから何も見えないのか、それともこの漆黒のように黒い夜で暗い景色が元々なのか、俺には分からない。
実は俺の目の前には暗くて見えないだけで何かいるようにも見えるし、何にもいなくて俺一人のような気もする。
すると、パッと目の前が照らされる。
明かりがついたというよりも、上から光が差し込んでいるかのように感じられる。
そこだけ強調させたいように。しかし、そこには何もいない。
何もいなかった。つい先ほどまで───
「ナール?」
そこには、ナールが立っていた。
無表情で、ただ呆然と立っていた。すると───
「え?ゼン?」
次にゼン立つ。
「ダルク?」
あっという間に人は変わり、次にダルクがそこには立っていた。
どうやら、俺と縁がある人物が出てくるようだ。
「母さん……」
次は母さんが現れる。
みな変わらず、無表情で俺の事を見つめている
そして、また新たな人が現れる。
「─────ッ!!!」
その人の顔を見て、俺は心臓が止まった。
絹糸のように透き通って、美しさを放っている白髪。それに負けないほど白く、雪を連想させるような肌。
俺が、最も関係を持っていたと言ってもおかしくないだろう。
それを見て、俺は何も考えられなくなっていたと思う。
いきなり過去形で悪いが、このときの俺の頭は真っ白だったので未来からの一種の回想シーンのように感じていただきたい。
俺はそのときその人物の美しさではなく、その人物によって心臓が止まった。
呼吸をする事すら忘れた。
これが夢で、おそらくその人物ですら本物ではないのだろう。
しかし、俺にはそれが本物に見えて、本物に感じられて、本物と思ってしまった。
「あ、あ、アナタ様は───」
それは、ニコリと俺に笑って見せた。困ったような、嬉しそうな笑顔だ。
『が・ん・ば・れ』
そんな動きを口がした。動いただけ、しかし俺はそう感じ取った。
彼女なら、きっとそう言うだろうな。「アナタなら、大丈夫だよ」って。
そのとき─────
「団長!団長!目を覚ましてください!!!」
新人の声がして、目を覚ます。
悪夢のような、昼寝をしたときにみる心地のよい夢のようなものから現実へと、俺は引きずり戻されたのだった。
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それではまた次のお話で会いましょう。




