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第三十二話 Hello

「痛いわ」


「そうだろうな、あんな顔から地面に突っ込んだら」


 ゼンは、鼻をさすりながらそう言う。

 鼻先は赤くなっていて、少し涙目にもなっている。かなり痛かったらしい。


 それに、転んだときにリンカが大爆笑したせいで己の誇りまで傷がついてさらに精神的に弱くなっている。

 やはり、口調から分かるように結構傷つきやすい奴なのだろう。


「最高ですの!本当にいい気味ですわ!」


 そんなゼンの事なんて気にせず、リンカはゼンに追い打ちをかけようとする。

 コイツら性格が似ている反面、仲が良いわけではなく逆に悪いよな。


 類は友を呼ぶと言うが、集まるからには仲良くして欲しいものだ。

 集まるだけ集まって、あとは大喧嘩なんてやめてもらいたい。同族嫌悪とか言う奴だろうか。


「お姉ちゃん、だからその口調をやめようよ~」


「黙ってなさい!」


「うぅ~」


 注意してくれるのは嬉しいが、それの効果が全く出ないのが悲しいところだな。

 気が弱いせいで、気の強いリンカに圧で負けてしまい言い負かされている(争いにすらなっていない)のが現状だ。


「いつかアイツに赤っ恥かかせてやるわ」


「そんな敵意むき出しの犬みたいな表情でいうな」


 殺す気満々だよ。

 殺人鬼とかになっていきそうだよ。


 そんな嬉々としているゼンを尻目に、俺は周囲の視線を移す。

 北部に移動した俺たちは、中央部にいた第四番隊に俺たちの事を伝えてから北部でニーカさんの捜索を開始した。


 闇雲に探すのではなく、歩いている人に話を聞きながらここまで歩いてきたのだが特に情報もなければ、ごろつきもいない。

 さすがに小金持ちが多いだけあって、治安はしっかりとしている。


 そのおかげで、前者の情報は関係ないが後者の人物については気配一つない。

 そういえば、気配で思い出したがゼンの言っていた嫌な気配とはこの辺にいるのだろうか。


 そのことをゼンに聞こうかとも思ったが、リンカと仲良くしていたので会話の相手をゼンから新人へと変更する。

 理由としては、視界の端にいたからだ。それ以上でも、それ以下でもない。


「おい、新人」


「はい……いい加減、名前で呼んでほしいと思っている新人です」


 名前で呼ばない限り俺はお前の事を貴族だと知らなかった押し通せると思っているので俺は名前で呼ぼうとしないのだ。

 様付けとか嫌だ、固定概念とでも言うのだろうか。一度下に見た奴を上に置くのはなかなかやりにくいものだ。


 だったら、ずっとそのままで良いじゃないということだ。

 他の言い訳として、ここは軍の世界であり貴族の階級は関係ありませんというのがある。


 そんな新人に対する呼称の問題はいいんだよ。


「新人、お前の仲のよい友達とかいないのか」


「お父さんみたいなノリですね」


 その通りだが、黙って答えてくれ。

 そう言うことを言われると恥ずかしくなってくるんだよ。


 新人は、うーんと言って少し黙る。

 そしてすぐに顔を上げてしゃべり始めた。


「学園の方に仲のいい人はいましたが───ここにはいませんよ。」


 新人は、心底つまらなさそうにそう言った。

 まあ、なんとなく分かっていたが、ある程度出来上がった空間には入りにくいか。


 会話に入ってはいるが、軽口を言い合う仲ではないことは見て取れる。

 この騎士団に誰か仲の良い奴がいて、そいつとだけ関わっているのかと思ったがそうでもなかったらしい。


 案外新人は、塞ぎ込みやすい性格とかだろうか。

 俺に対するツッコミを見ているとそんな気はしないが。


「じゃあ、今の俺は新人の初めての騎士団での友達か」


「と、友達なのでしょうか?代理ではありますが団長ですし」


「団長って言ったって、今だけだろ気にするな」


 もっと言ってしまえば騎士団員であることですら今だけなのだが、それは置いておこう。

 新人は色々と面倒だな。遠慮しすぎな気がする。


 やっぱり派閥が出来上がっているのも新人が遠慮気味になっている一つの理由になっているのだろう。

 今も、ボルダンは周囲の警戒と情報収集。リンカとシャーミーはゼンとしゃべり、唯一その他から遠慮されている俺が話しかけてやっと会話の成立だ。


 できている物を壊すのが怖い。

 そんな気持ちが新人のどこかに存在しているのだろう。厄介な気持ちだな。軍人なら少しぐらい貪欲にいてほしいな。


「新人も少しぐらい強気にでて─────ッ!」


 俺は、新人に向けていた視線を前方の角に向ける。

 ゼンやボルダンもそちらを見ており、みな警戒していた。


 体をべっとりと這うような気配、敵は前方に位置しているはずなのに全方向から視線を感じる。

 嘗めるような、体中を這い回すような気持ちの悪さに襲われる。


 そして、そこからゆっくりの巨体が現れる。

 この世のものとは思えないような形態を成していた。


 ドロドロとヘドロのようなものをまとっていて、それでいてしっかりと人型を保っている。

 それに高さは二メートルを優に超えている。大の大人が二・三人ぐらい身長がある。


「巨体だな」


 そんな感想がポロリと口から溢れる。

 思った事がそのまま出たわけだが、そんな言葉すら足りないようにすら感じる。


「巨体なんて言葉じゃすまないわよ。嫌な気配はコイツだわ」


 ゼンはコイツの気配を感じ取っていたらしい。

 てっきり盗賊団団長だったゴルグみたいな奴かと思ったが、アイツが比較の対象にならないぐらい───強い。


 見ただけで分かる、コイツはアーテーの彼らの相手になるやつじゃない。

 いくら見栄を張ったって意味がない、強者の前にそれは怠惰だ。己を認めないという怠惰だ。


「こんなの一瞬で切って差し上げますわ!」


 そう意気込んで、リンカは奴に突っ込んでいく。


「ダメだ!」


 その声にはリンカは止まらない。

 前にいる奴にだけに意識が、集中してお周囲の言葉が入っていない。


 やる気があるのはかまわないが、相手の事を知らないくせに突っ込まないでほしい。


「ゼン!」


「了解!」


 俺は、ゼンに声をかけ走り出す。

 ここはあまり広い通路ではないので前のいるボルダンたちが邪魔だ。


 地面を走った方が速いが致し方ない。

 俺は空を飛び、壁を走る。


 壁を走るのは難しいことではあるのだが、地面に落ちるより速く足を出し、右上に進む事を意識して走ればできたりする。

 まあ、それにはありえない肉体が必要だが。全身の筋肉を全て使えば行けるだろう。


 ゼンは、リンカの首根っこを掴み後方へと飛ぶ。

 しかし、その動きより速く奴からの拳がゼンに向かって飛んでくる。


 それを俺は間に入って剣で受け止める。

 大岩でもぶつけられてかのような衝撃を受ける。周囲への影響がないように受け止めたが、これは受け流した方がよかったな。


「グッ!」


 これは簡単にはいけなさそうだ。

 アーテーの全員を撤退させて───俺は思考を巡らせるがそれと中断させるように新たな拳が飛んでくる。


 それを俺はかろうじて避け、後方へと下がる。

 考えている暇はなさそうだ。間違いなくその場で的確な指示を出していくしかないな。


「アーテーは近くの住民に避難指示を出しながら中央まで撤退!四番隊に状況を伝えて一から三番隊に周囲の包囲をさせろ!」


「了解です!みんな!撤退だ!」


 ボルダンは俺の指示に即座に反応してアーテーの撤退を開始する。

 隊員も文句を言うことなく迅速に撤退を開始してくれた。これである程度暴れても問題ないだろう。


「ゼン!俺たちの仕事は遅滞戦闘だ!周囲の準備が整うまでの時間を稼ぐぞ!」


「稼ぐって、こんな奴に何分持つかわかんないわよ!」


「なら結構!長く持つ可能性もあるのだろう」


「このバカ!」


 そうして、俺たちは突如として小規模だが大規模戦闘(言いたい意味は分かると思う)に突入した。

 この化け物としか表現しようのない生物と。


 ここまで見ていただきありがとうございました。

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 それではまた次のお話で会いましょう。

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