第三十一話 腹が減っては戦はできぬ
「今から俺たちは、一番隊と同じ北部に行ってニーカさ──団長の捜索を行う」
「団長代理はここにいなくていいのですか?副団長だけではいささか指揮統制に混乱が生じるのでは?」
ボルダンが、筋肉の割に真面目な質問をしてくる。確かにその可能性はあるだろう。
しかし、あの副団長なら問題なくその辺もやってくれるだろう。
あくまで可能性だ。
それに副団長が処理しきれない程となると、俺がいても意味がない。俺に情報を流されて、この騎士団に縛られてもいやだからな。
機密資料を見たんだ、逃がしてもらえるとは思うなよ!
なんて言われても嫌だからな。
早々にニーカさんを発見して、騎士団の仕事を返したい。
実務はほとんどやっていないが、いつかこっちにも仕事が割り振られそうでビクビクだ。
「それで、もう動きたいんだが何か質問は?」
「団長代理さん、私たちはどちらに従えばいいのですか?」
「それについてはボルダンに指揮は任せようと思っている。俺は視察のつもりだ。戦闘には表だって参加はしない。援護程度だ」
今回の作戦(作戦というほどのものでもないが)はアーテーの戦闘がどんなものか見てたらいいなとも思っている。ゴロツキ程度がいたらいいな。
北部の治安はそこそこいいが、そういった輩がいないわけではない。さすがに騎士団襲撃の犯人はやめてほしいが、ゴロツキ程度ならアーテーでも倒せるだろう。
ゼンに関しても俺と一緒で、緊急時以外は見守るだけだ。
ゼンは強すぎるからな。
「お任せを!我らアーテー部隊の底力見せてさせあげましょう!」
「ああ、期待してるよ」
ボルダンに指揮を執れるのか分からないが、まあ戦闘経験はあるし、きっとだいじょうぶだろう。何かあったら俺とゼンで止める品。
脳筋の部分が指揮を執っているときに働かないと嬉しいな。むやみに突撃令を出さないと信じよう。
俺は、ずっと座っていた席を立つ。
ここは俺の席じゃないからな。それに俺の家でもない。長居は無用だ。
可能なら俺は早々にここを出たいからな。
今は仲間? というくくりだが、いつ騎士団が敵に変わるか分からない。俺は今でも盗賊団壊滅の関係者だ。
「ボルダン、君たちは先に外に出ていてくれ。すぐにそちらに行くから」
「了解しました!君たち行くよ!」
そう言って一度頭を下げて扉の方を向くのだが、もう変えられない運命なのかバックブルバイセップスをして部屋から出て行く。
ちなみにそのバックなんちゃらというやつは、背中を向けて両手でガッツポーズのようなものを取る筋肉を見せつける動きだ。ボルダンは、どこでそんなものを知ってきたんだが。
アーテーの奴らがぞろぞろと出て行く。
未だにあの殺気にひるんでいるのか、誰もしゃべらない。リンカに関してはシャーミーに肩を貸してもらっている。
その結果、部屋は俺とゼンの二人だけになる。
「ゼン」
「何?私にしか言えないこと?」
ゼンは、二つ目にハンバーガーを出しながらそう聞いてきた。
お前まだ持ってたのかよ。どれだけ持ってるんだよ。
美味しそうにハンバーガーをむさぼっているゼンを視界に収めながら俺は、話を続ける。
止めてもやめる気はないだろうし、俺も慣れているので特に何も感じない。
「カタナを出してくれ」
「ふぁ?わふれふぁの?」
「言っていることは分かるが、食うのをやめてから話せ」
食うってのは今、口に入っているものをなくせって意味だったのだが、ゼンは手に持っていたハンバーガーを全て食べきってから話し始めた。
絶対俺の言った意味分かっていながら全部食べたな、コイツ。
「え、で忘れたの?」
「ああ、最初はこんな事になる予想は立ててなかったからな。それにあまり武装を人に見せたくなかったし」
「うーん、指揮官ならなんでも予想しておくべきじゃないの?」
「なぜわざわざ、そこにツッコむ。余計な事を言わすにカタナを出せば喧嘩にならないのに。なんだ、血の気が多くなったか」
「アハハ、そうかもね」
満足するまで飯を食べて気分がいいのか、変なテンションだ、コイツ。
「早く出してくれ。あまり時間がないのは分かってるだろ」
「ええ、朝からこの街に嫌な気配があって過ごしにくいったらありゃしない。おかげでたくさん食べちゃったじゃない」
それは、気配のせいじゃないと思う。
食べ過ぎるのはいつものお前だ。なんの変化もない、いつも通りだ。
「じゃあ、出すわよ」
「ああ」
そう言って、ゼンはあっという間にその手にカタナを出現させる。
その光景は、いつ見てもきれいだ。美しい輝きを放ち、見るものを圧倒させる。
周りの景色を視界に収めることすらはばかられるようなそんな気持ちにさせる。美しい景色とこちらの勝手で比べることすら禁忌にすら感じる。
そんな様々な感情を彷彿とさせるその光景を俺は、全身で感じつつゼンから手渡されたカタナを受け取る。
寸分違わず転送できていて、俺の手に馴染む。完璧だな。
「ありがとな。じゃあ、俺たちも行くぞ」
「そうね、私たちも一緒に行動するんだもんね、自分勝手はできないのか……」
「その通りだ。いつもの自己中はやめるんだな」
ゼンがこの程度で行動を変えるとは思えないが、まあその気持ちをうわべだけでも持っていてくれるならそれでいいだろう。
そんな実現しないだろう発言を交わして、俺たちは部屋を出る。
拠点は相変わらず静かで、それは廊下でも変わりない。
キシキシと廊下の床がきしむ音が鳴り、その中を俺たちは一言も発しないで進む。
別に話す理由もない、話すほどの仲でないわけではない。
ただ、互いの会話がないことを悪いことと感じていないのだ。これも一つの意思疎通のひとつだろう。
無言の時間ですら苦と感じない。
それほどまでに良好な関係が、俺たちの間でできていると俺は思っている。
入り口の見える扉まで行くと、そこにはボルダンが一人立っていた。
わざわざ俺たちの拠点の中で待っていてくれたようだ。脳筋なんだか、紳士的なものを持ち合わせているのかよく分からない男だ。
「ボルダン!遅れてしまない!」
俺は、そうボルダンに声かけて階段を降りる。
ゼンは、俺の後ろを黙ってついてくる。特にボルダンと話す気は無いようだ。
「いえ!大丈夫ですよ!この程度の待ち時間なんてことありません!」
なんだか引っかかる発言だな。何か長い時間待たされるような事があったのだろうか。
そういえば、俺が寝る前の日はもうちょっと高かった気がするんだが、もう昼時は終わっているようだ。ゼンの捜索にそんなに時間をかけていたのか。
ボルダンの横を通り過ぎ、俺は扉を開ける。
そこには、話をしている2人がいた。新人は相変わらす一人のようだ。やはりあまりなじめていないらしい。
まあ、貴族の子と平気で話せと言う方が難しいだろうな。
平民の印象としては、貴族は反感を買ったら殺されても文句は言えないからな。
そんな恐ろしい存在だ。
そんな印象を持っている存在と話したいとは、誰も思わないよな。
「それでは行く──」
「アインくん。あまり連絡なしの動かないでほしいのですが」
出発の号令をかけようとしたその時、扉が開きそこから声をかけられる。
「……アーノさん。すみません。忘れてました」
普通に忘れていた。
ここ最近は己の行動を人に伝えるなんて事しないものだから、連絡をする大事なことを忘れていた(そういえば母さんに今日遅れることも伝えていない)。
「いえ、大丈夫ですよ。叱りはしたもののこういった行動は慣れていますから。特に一番隊の誰かには大変困らされたものです」
「アハハ……」
ガフィールさん……一体どれだけ勝手に行動したんだろう。
アーノさんの目が笑ってないよ。
「それでは、そういったことなので行ってきますね」
「はい、私としては事務の仕事をしてほしかったのですが、団長が選んだということは団長と同じ波長を感じたからなのでしょう。同じ波長の者のやることは一緒ですね」
「……じゃあ、それでは行きますね」
「さあ!団長代理に続け!」
「「おーー!」」
俺の言葉が終わると同時に、ボルダンが号令をかける。
号令は俺がかけたかったんだが、ボルダンの方がアーテーの彼らなら気が引き締まるだろう。
「行くか、ほら」
俺は、続けと言っておきながら早々に歩き出すアーテーの面々の尻目に、ゼンに手を伸ばす。
ゼンは、俺の手払いながら──
「フンッ、こんなものなくても歩けるわ──ヒャアッ!」
転ぶのだった。
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それではまた次のお話で会いましょう。




