第二十四話 新人
かくかくしかじかと思案を巡らせていると、あっという間にスラムの目的地に着いた。
何を考えていたんだ、という意見が聞こえてきそうだが。ここは少し割愛させてくれ。決して考えるのが面倒とか、邪な理由ではないぞ。
それにしても、少し驚いたな。
目的地に着いたのだから新人いた。まあ、いておかしくないだろう。
だって俺がここで気絶させたんだし、いて当たり前だ。
なんならいなければおかしいのだ。しかし……
しかしだな。そのまんまの光景でいられると驚く。
何の事だと思った人もいるだろう。説明しようにも、説明は読んで字のごとくなのだ。
新人は、俺が気絶さえた時から全く動いておらず。
そのままの状態でそこに放置されていた。
ここまで誰も気づかないことに驚き、全く起きないこの新人にも驚き。
この新人だけでかなり驚かされた。
木の板がどこにもないのが不思議だが、あんな枯れ木のような物簡単に飛ばされてしまうだろう。
そう思っておいた方が、健康に良さそうだ。
「ここまで誰を触れてないと可哀想に見えてくるな」
俺は、ボソリと感想を溢して新人に近づく。
急に動き出して襲ってくるかと警戒もしたが、顔を覗いても全く反応がないのでしっかりと意識を──って、これは!
「コイツ───寝てやがる!!!」
最初は昨日から放置されているのかと思った。
気を失って、そんな彼を誰も気にしなかったのかと。
しかし、違った。
コイツはおそらく目が覚めたのだろう。俺にボコされてから、一度目が覚めて───寝た。
よく見ると、彼の鎧はホコリをかぶっている。
昨日のあの状態からずっと動いていない証拠だろう。
「取りあえず、起こすか……」
俺は、新人の頬をペチペチと叩く。
ここがスラムと言っても大きな声などを出すと注目を浴びるので、できるだけ静かに起こすことにした。
すると、新人は案外すぐに目を覚ました。
「んん……ん?あーー!!!」
「うるせぇ!俺の配慮を無駄にするんじゃねぇ!」
「痛い!」
せっかく物音を立てないように起こしたのに、その努力も無駄にしてくるやつだ。
「新人。騎士団に戻るぞ、準備しろ」
「え?なんで君がそんな事を?」
察しが悪いというか、考えが回らないというか。
なんとも動かしにくい人材だ。
この世界、上の者の指示を言葉で受け取るというのはあまり好まれない。
言葉にすると言うことは、その情報を公に出すと言うことでもある。誰がどこにいるか分からないからな。
だから、上の者ほど己の意志を目だけで理解してくれたりする者を身近におく。
その方が、作戦効率が上がる。
「黙って来い。それとも準備が必要か?」
「いえ!すぐに行けます」
「そうか。じゃあ、付いてこい」
俺は、それだけ言って歩き出す。
新人に配慮する気は無いし、しようとも思わない。
最初は、このぐらいの方が鍛えられるのだ。
主に精神的なものが、だが。
戦場で精神が崩れないことが一番だ。
戦場ではやる気だけでは何もできないが、やる気がないと何もできないものだ。
後ろを全く見ずに歩き出すと、後ろからパタパタと足音が聞こえてくる。
少し遅れて新人が付いてきたようだ。
「あ、あの君ってどんな人なの?」
「何だ、その質問。答えにくいな」
「すみません……」
しかし、どんな人──か……。
なんて答えるのが正解だろう。騎士団の関係者?それとも協力者?
いや、ある面から見れば敵対者とも言えるのだろうか。
考えれば考えるほど深く落ちていくような錯覚に陥る。何かでもあり、何かでもない。
俺は今回の出来事では、どの立場に存在するのだろう。
俺がいる場所は、ゼンのいる場所でもある。二人分の物事を背負わなければいけない。
簡単に決めることはできないだろう。
「知らないな」
「知らない……ですか?」
「ああ、俺はお前の敵にもなり得るし、味方にもなり得る。どちらでもあるから、どちらでもないんだよ。分かるか?」
「いえ、あまり……」
馬鹿正直な新人だな。
まあ、分かると答えて実は分かりませんでしたでは困るが、しっかりと分からないと答えるとは。
俺も少し意地悪だったかな。
わかりにくい言い方をしてしまった。
「新人、お前の一つ教えてやろう」
俺は、微妙になってしまった空気を打破するために話を変える。
「お前は、何を目的として戦っている?」
「私の目的ですか?」
「ああ」
新人は、少しうつむく。
軍人になったばかりと者ならあることだろう。憧れだけで入り、何を成すために己が動いているのか分からない。
──しかし、新人はすぐに顔を上げる。
「全てのためです──私の、王国民の、敵のためです」
新人は、はっきりと言い切る。
己が何のために戦っているのかを。
「新人は、上官に嫌われているだろ」
おそらく、コイツの性格と信念なら上官からは好かれないだろう。
きれい事すぎるからな。
嫌われるというか、使い潰されるというか。
なんとも可哀想な位置にいそうな奴だ。
「はい……、あまり良い印象は抱いていただけてないようで」
最初は、誰にでも敬語を使うことをやめるべきかな。
そんなのじゃ、なめられてしまう。騎士団としての威厳を全く感じない。どちらかと言えば、まだまだ幼い感じがにじみ出ている。
「まあ、気にすることないだろ。俺は好きだよ。それ」
「本当ですか?そう言っていただけるのなら、嬉しいです」
何でコイツは、年下相手にこんなに畏まっているんだろう。
いい子ではあるんだろうけど、いい子過ぎるよな。ほんと。
よく分からない年下の、自分を殴った相手に敬語を使い、あまつさえ従うとは。
田舎娘かコイツは。攫われるぞ。
あまり軍人には、向いてないような感じだが。
軍人になる理由は、人それぞれか。復讐もあれば、憧れもある。生活に困っていた人もいれば、なんとなくで入った奴もいる。
軍とは、来る者拒ます去る者追わずの場所だ。
もちろん、例外は存在するが。
そんな話をしていると、俺たちは街の中に戻っていて騎士団の拠点が視界に入ってきた。
かなり長話だったようだ。
「新人、お前の拠点が見えてきたぞ。精々上官にいびられないように立ち回ることだな」
「はい、頑張りま───ん?少々騒がしいような?」
確かに少々拠点の前が騒がしいな。
何か事件だろうか。それにしても、なんだかかなり焦っているように感じるが。
「行くぞ、新人。お前の出番かもしれない」
「は、はい!」
俺は、新人を連れて走り出す。
俺自身は騎士団員ではないし、別に参加する必要はないが街で問題なんか起こされたら生活に影響する。それに、人手が足りなさそうだし。
そんな感じで、俺は騎士団の抱える事件に片足、というか全身を突っ込むことにしたのだった。
昨日、家に帰してくれたお礼だ。まさか、昨日の事情聴取が本当に聞くことがなくて返してもらったとは思わない。ゼンの反応を見て、気を利かしてくれたのだろう。
その、お礼だ。
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それではまた次のお話で会いましょう。




