第十五話 来たるはそれ
新人への教育を終えた俺は、スラムを離れて街に戻る。
厳密に言えばスラムも街の中だが、別と考えた方が難しくないのでそうしておく。
街は先ほどよりも少し人が減っていた。
まだ家に帰る時間というわけでもないのになぜだろう。どこかで集会のようなものでもあるのだろうか。
俺は、ゼンを探しながらそんな事を考える。
心情把握がないのにゼンの居場所が分かるのか、と質問に向けて解説をしよう。少し前にも言ったような言ってないような気がするが、思い出すのが面倒なので問答無用で解説に入らせてもらう。
ゼンは、見張りがいる状態でその辺を走っているのだが俺の指示の通りならどこかで見張りを倒しているはずだ。
殺しはしてないはずだが、どうだろうか。さすがに殺すのはまずいと分かってくれていると思ってはいるが……。
と言うわけで、おそらくだがゼンは一仕事終えてそこら辺の店で何かモノを買っていると予想できる。
予想というか、ゼンが街にいてすることはそれしかないのでそれ以外ありえないと言っても過言ではないのだ。
それだけである。
それ以上は何もないし、それ以下も何もない。
すると、街中を走っている俺の目に人混みが飛び込んでくる。
たくさんの人がそこには集まっていて、見た目はみな各々の物を着ているので集会という雰囲気ではなさそうだ。どちらかと言えば、ガヤガヤとしており騒ぎのようだ。
俺は、もしやと思いその人混みに進路を変える。
ただの野次馬に事を聞いても無駄だと予想して、俺は人混みの中を進み中心の様子を見る。
すると、そこには二人の兵士が倒れている。
重なるように倒れていて、上の兵士は鼻から血が出ていた。下の兵士は特に外傷は発見できず気を失っているだけのようだ。
「おいおい、嘘だろ」
しかし、そんな状況よりも大事なのは彼らがゼンの追っ手だと言うことだ。逃げるときに後ろから追ってきていた三人の顔は把握しておいてたので間違いない。
俺は、ゼンに人目に付かないようにというわけで路地と言ったのだが、なぜ人目に付くような場所なのだろうか。
俺は、ゼンの行動に頭を抱える。
騎士団にばれないようにしたかったのに、こんなに人が集まるようではすぐに騎士団にばれるだろう。なんなら、もうここに向かって来ているだろう。
いや、まあ、騎士団員を殴っている時点でばれないとでも思っていたのかと言われればもう何も言えないのだが、時間稼ぎが目的だったのでここまで派手にやるのは想定外だ。
俺とゼンが子供であることを盾にしてある程度は隠れられる算段だったのだが、いくら何でもここまで派手だと疑われてもおかしくない。
かなりの数の騎士団員がここに派遣されていると言っていたので、すぐにこの騒ぎも騎士団も耳に入ってしまう。
その前にこれを片づけるのは無理だとしても、急いでここから逃げた方がいいだろう。いくら何でも、この状況で何もしてませんじゃ通じない。三人ともやられているからな、そんなことを偶然で処理されるわけがない。
「ゼンを急いで探さなくては!」
俺は、急いでその場から離れてゼンの捜索に移る。
騎士団が動き出すより先に俺はゼンを見つけ、この街から出る。一人だけで逃げてしまいたいが、そんな非情なことはしなくない。
というか、現状どの手段を取っても最終的に行き着く結末は一緒だ。
なら、無理矢理アリバイでも作ってしまおうじゃないか。嘘はばれなきゃ、嘘にならんのだ。
「どこにいるんだよッ!やっぱり、身の危険を感じて路地に奥で隠れて──ッ!」
そんなゼンの心配している俺の視界に美味しそうにご飯を食べているゼンの姿が映った。
いや、まさかこんな状況をつくっておきながら飯なんて食べてないだろうという淡い期待を抱きながら俺は、そちらに歩みを進める。
そして───ッ結果
「あら、遅いわね。待ちくたびれたわ」
「すまなかった。少し急ぎの用があってな」
ゼンと溢れんばかりの怒りを覚えながら再開を果たす。
コイツには、どうやらキツいお仕置きがいりそうだな。数日飯抜きとか、月の代わりの人たちを呼んで─────
「やめなさい。あの作品はこんなのに出るほど安くないわ」
「お前ファンか!?」
「まず、この世界にその作品はないのよ!」
そんな、とてつもなく関係のない話を盛り上がらせて俺たちは現実から逃げようとしているのかもしれない。
現実逃避なんて許されるわけがないので、俺はゼンの手を掴み、そうそうにこの場からの避難を開始する。
俺が腕に触れる瞬間、ゼンが少しこちらを見たような気がしたが気のせいだろう。
ぐだぐだと文句を言うゼンを無視して、俺は颯爽と街中を走り出す。
途中でゼンの腕を放して、勝手に進み始めさせてもらったが後ろに付いてきていたので問題ないだろう。
さすがの人の手を掴みながら走るのは、できなくはないがやりにくい。
「しかしゼン」
俺は、後ろを走るゼンに向かって話を始める。
それと同時に、ゼンが俺の話を聞くために俺と併走する。その方が聞きやすいと判断したのだろう。
「なに?ご飯代の事なら私がちゃんと払ったわよ」
「そんなことどうでもいいよ。それよりも見張りのことだ」
「げっ」
げって……。やばいことだと自覚してるのかよ。いや、してない方が問題だがしてるのならそれなりの対処しておいてほしかった。
ここまできたら、もみ消すなんてほぼ無理だろう。それなりの権力がなければ、この状況から何もありませんでした、とシラを切るのはむりだ。
「俺言ったよな?路地でやれって。確かにあそこは路地とも言えるかも──くどくど、くどくど──だからな、俺が言いたいのは──」
「長いんですけど!?あんたが話す分だけこの街の道は馬鹿みたいな長さになるのよ!?」
「そんなこと言い出すなよ!カットされてるから長さは読者に──ッ!!!」
メタメタしい会話を再びしている俺たちを謎の激しい、それこそ針の雨に降られたような気配が襲う。
全身に針が突き刺さるような感覚を思わせる気配が駆け巡り、俺は急停止する。いや、急停止してしまった。体が、止まってしまった。
脳が反射的に止まれと命ずる前に、全身が止まることを判断したのだ。
それほどまでに、一瞬の気配を恐れてしまった。
俺が止まったからなのか、それとも俺と同じように止まってしまったのか分からないが、俺の停止に合わせてゼンも止まる。
「ゼン───今のは?」
「何でもないわ。すぐに行きましょう」
俺の質問にゼンはあくまでシラを切る。先ほど話したように、何もありませんでしたと。
何も知らないとあくまで部外者を突き通る気のようだ。
「ゼン、言え。あれは放置していい奴じゃないだろう」
「それはできないわ。絶対に」
俺の命令口調に臆することなく、ゼンははっきりと無理だ、嫌だと言い切る。
頑なな意志を俺に見せつける。どうやら俺の譲る気は無いようだ。
「じゃあ、俺はあそこに行くぞ。あれは間違いなく危険なものだろう?」
「そうね、その通りよ。だから行ってほしくないのだけど」
「それは無理なお願いだな。俺は俺のとって邪魔だと判断したモノを生かす趣味はない」
あの気配から、安全で友好的なモノを想像することは不可能に等しい。
敵としか認識できないし、現に俺は今先ほどの気配の発信者を敵としてみて話している。
あれも放置して良いモノだとは到底思えないし、できるなら今すぐに潰した方が───潰さなければならないとすら思う。
ナールに何かあってからでもう手遅れなのだ。
「……そうよね……分かったわ。私もついて行く」
「そうか。なら安心だな」
俺は、少し冗談めかしてそう言う。
少し先ほどのいざこざで空気が悪くなっていると感じたからだ。
しかし、そんな俺の配慮とは裏腹にゼンは真剣な眼差しで俺の事を見据えて。
「少しでも気を緩めたら死ぬから。絶対に私のそばを離れないでよ」
そう。
俺の目をしっかりと見て。
彼女は───俺に警告を発した。
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それではまた次のお話で会いましょう。




