第二話 また会えたことに祝福を
俺は、ナールを部屋に通す。
その蝶についての詳しく聞いたところ、近くの森で銀色に光る蝶を見たらしい。
が、ナールの話だとしっかりとした出現場所や容姿が伝わってこない。
なんかとか、みたいなとか少し信頼性に欠ける単語が多発しているのだ。
実物を見なければなんとも言えないな。
とりあえず。
「ナール。その蝶、明日一緒に探してみよう」
「え?アインから誘ってくるなんて、珍しいな」
ナールは、驚いた表情をしながらそう言った。
その顔は、心の底から驚いているようだった。
そんなに珍しい事だろうか?
俺も遊びたい時は良くナールを……いや、思い返してみればナールがいつも俺の所に来て約束をしていたな。
「そうだな。思った以上に俺はお前の事を遊びに誘っていない」
しかし、これは俺が誘っていないのではなく俺が誘う必要がないだけである。
いつもナールが来ると同時に、彼が約束を取り付けてくるからな。
「そうだよ、でも良いな。行こう!行こう!」
ナールは、深く考えない性格なので助かる。邪な心とは言わないが、俺の考えがあるなんて少しも思っていない。
まあ、そんなところが危険なので不安になるのだが。
今日さえ終わればしばらくは暇だ。
時間もたくさんあるし、問題ないだろう。
「って!俺、用事あるんだった!」
ナールは、そう言って焦りながら立ち上がる。
どうやら、かなり急ぎの用事のようだ。ナールの特徴に忘れっぽいも追加された。
「じゃあなアイン、誕生日おめでとう!」
「ああ、ありが──って。もういないし」
ナールは、あっという間にいなくなってしまった。
嵐のようだな、なんなら嵐すら越えるほどだ。
俺の誕生日のついで感が凄い。
たまたま思い出したことのように言い放ち、去ってしまった。
「まあ、約束は取り付けられたし、大丈夫だろう」
この辺りなら危険な生き物とかはいないはずだからな。一人で動いても大丈夫だろう。
しかし、何をしようか。暇だな。
時間があるし、この体で剣でも振ってみようか。
この年の俺は、もう鍛えてなかったはず。
思い立ったが吉日と言う事で、俺はさっそく庭に向かった。
その途中で、服を干していた母さんと会う。
「さっきナールくんが、走って行ってけど大丈夫?何かあった?」
「いや、用事があったらしくて」
「そうなの。アインは、どこに行くつもり?」
納得した雰囲気を出して油断させつつ、俺のこの後の行動を予測するとは。
なかなか良い洞察能力だ。
まあ、普通になんでばれたのかよく分からない。
「すぐそこで遊ぶだけだよ」
特に隠す理由もないので、正直に話す。
庭ぐらいなら、何も言われないだろう。
「そう、怪我するようなことはしないでね」
「分かった」
俺はそう言って走り出す。
庭は、なかなか広い。
周りに家が無いから、スペースが余っている。
俺は、家から少しは離れた、ずっと残っている父さんの作業場から木剣を1本とる。
木剣と言っても、確かこの木剣には中に鉄が入っているのでかなり重量がある。
この仕事場は、父さんが亡くなってからもずっと残っている。
きれいに掃除されて、毎日残っている。
母さんがいつもこの小屋をきれいにしている。日々の日課のようだった。
それほど彼の事を思っているのかと思っているのだが、掃除をしている時の母さんはいつも不敵な笑みで笑っている。まるで、恨みを込めているかのように。
それで木剣を持った俺は、その重さに驚愕する。
これほどまでにも……木剣というものはここまでだったのか。中に鉄が入っているとこうなるのか……。
木剣をずるずると引きずりながら、俺は小屋から少し離れた所に行く。
木剣を壁にでもぶつけようものなら鉄入りの木剣だとおそらく穴が空くので、安全性を考えて離れておく。経験談ではない、断じて経験から来た行動ではない!
そこから俺は適度に休憩を挟みつつ、日が暮れるまで素振りを続けた。
このときの俺は剣の鍛錬なんて行為は、微塵も行っていなかったので腕の筋肉がとても痛い。
体力の方はナールがいるので毎日のランニングで鍛える必要がなかった。
そのおかげで、この素振りにもある程度耐えれている。
木剣を作業場に戻した俺は、家の方からおいしそうな良い匂いがするのに気づく。
家に戻ると、台所で母さんが大きな肉を焼いていた。
俺たち貴族ではない者にとって肉、しかも生というものはとてつもない贅沢品だ。この一枚でも、金貨が何十枚も飛ぶ。
香ばしい匂いが家の中を包み込み、口の中が完全に肉の口になっている。溢れはしないが、よだれが大波を起こしている。
「アイン、今日はこれが一枚食べられるからね。今のうちに手を洗っておきなさい」
「はーい」
俺は急いで手を洗いに行き、ささっと洗って椅子に座る。
机の上にはナイフとフォークな並べられていて、雰囲気も抜群だ。
「はい、おまたせ」
母さんが、大きなお皿に肉を乗せ、やってくる。
焼きたての肉からは、湯気が立っている。見た目からもおいしさを伝えてくれる。
干し肉ではなく、きちんとしたステーキだ。
ステーキなんて、ほんとに久しぶりだ。
「肉……すごいな……。あっ。ありがとう、母さん!」
俺は忘れていたことを思い出したかのように、母さんに感謝を告げる。
買ってきたのも、調理してくれたのも母さんだ。感謝感謝。
「それは、食べてから言いなさい。ほら、食べるわよ!」
母さんは、笑顔で机にステーキを乗せる。
キラキラと太陽よりも輝いている肉が、机の上に置かれる。
「うん!」
その日の肉は、今まで食べたどんな食事よりも格別に美味しかった。
さすが肉だな。久しぶりの贅沢に舌鼓を鳴らした。
噛めば噛むほど出てくる肉汁、味付けがない代わりに感じられる肉そのもののうまみ、疲れた体に最高だ。素振りの疲れが体から消え去る。
きっとこんな食事は、しばらく無いだろう。
俺は、一口一口をかみしめながら夕食を食べた。
とても満足できる夕食だった。
それで、その後はすぐに寝た。
肉の余韻に浸っていたかったが、さすがに疲れた
いくら何でも子供の体でやり過ぎた気がする。
明日は、動けるだろうか?
これも大切な事だ。
やめるわけにはいかない。が、明日早々に動けなくなってはたくさんのところで支障が出てしまう。
今度こそ、みんなを守り抜くために……。
☆☆☆
翌朝、体中が痛い。
動くたびに体が痛み、朝食中もズキズキするので、やり過ぎたと少し後悔している。
このときの俺は、鍛錬というものからかけ離れた生活を送っていたの初心者向けの鍛錬をこなしていけば良かったと後悔している。
今日からは己の体と相談しながらやるとしよう。
体は痛いが、ナールと約束したので、虫取り道具を持ってナールに会いに行く。
そこまで離れていないので、さほど苦にならなかった。
ナールの家の扉をノックしようとしたら、中から先にナールが出てきた。
満面の笑みでうれしそうだ。
類を見ないほどの満面の笑みのナールは、いつもノックをする前に出てくる。
一度、なぜ来ているのが分かるの?と、聞いたら「なんとなく」と言われた。
野生の勘とかだろうか?
ナールの野生の勘こと気配察知能力は、とても高かった。
なぜ高いのか人体の専門家ではない俺では分からないが、本当に前から驚異的だった。
「おはようアイン、もう準備できたのか?」
ナールは、俺の驚きなど全く気にしないで話しかけてくる。
俺も慣れたものだったから、このときはもう気にしていなかった。そんな事を忘れていた今の俺は、大変驚いたがな。
「ああ、準備万端だよ。お前の方こそ、もう行けるのか?」
「おう!早速行くぞ!」
ナールはそう言って、走り出す。虫あみのようなものを全く持っていないような気がするが気のせいだろう。
ナールの方が、速いのであまり全力で走らないでほしいのだが、足の速さなんてナールが気にするわけないので、俺は筋肉痛の体に鞭を打ち、走り出す。
目的地は森だ。
深い緑色をした木々が生い茂る、ちょっと危険な森だ。
「なあ、ナール?」
「なに?」
「その銀の蝶って、本当に見たんだよな」
「ほんとだよ!見たんだって!」
道中そんな質問をしたが、ここまで言い切るって事は、本当に見たのだろう。
ナールは、嘘がつける程の知能はない。
銀の蝶……。
「よし、探すぞー!!」
「おう!」と返事をして、俺たちは森の中に入っていく。
☆☆☆
──夕方──
蝶は、まだ見つからない。
8・9時間ほど探したのだが、痕跡すら見つからない。
そこまで臆病な奴だったのだろうか。
もうちょっと積極的に動いてほしい。その方が見つかりやすいからな。
「ナール、そろそろ帰ろう。俺、帰りが遅いって怒られちゃうよ」
「え~、もうちょっと探したい、けど……」
まだ探したいようだが、あまり暗い中で帰ると何が出てくるか分からない。
今の俺に、ナールを守れるほどの力は無い。未だに筋肉痛がするし、盗賊なんかに見つかれば、二人とも殺されるか、奴隷として売られてしまう。
「明日また探そう、いくら何でも暗いって」
「……分かった。今日は帰る」
納得して無い感がすごいが、しょうが無い。
渋々という言葉がぴったりのナールと、俺は帰路につく。
安全を考え、ナールを先に家に送ってから俺は帰宅した。
日はほとんど沈んでいたので、さすがに遅いと怒られた。明日からはもう少し早い時間に帰って来なくては。
夕食を終え、部屋に戻った俺はベッドで横になる。
家にいる時間がなかったので素振りすらする時間がなかった。
明日もナールを手伝わなくては。
それに……早く帰れるように……いろいろと動いて……。
俺は、あっという間に夢の世界に連れて行かれてしまった。
この歳だと、すぐに寝てしまうな。
なんてことをこの体に思うのだった。
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それではまた次のお話で会いましょう。




