エピローグ
「ええ、寝てなさい。ぐっすりと寝て、後は私に任せなさい」
眠りにつくアインを、ゼンはしばらく見守ってから立ち上がる。
ゼンは特に眠気は感じていない。それは、彼女が人間ではないからとも言えた。
しかし、今の彼女はそんな事みじんも思っていないし、そのことを意識もしていない。
彼は、私が人間ではないと分かった上で私の事が怖いとも、どうも思って無いとも言わずに大嫌いと言った。それはゼンに対して人間としての感情を抱いているのと同等だとゼンは思っている。
心を読んでも、その言葉に嘘はないと確信し信頼していた。
だから、ゼンは彼のために動く。彼の仕事を少しでも楽にするために。彼の仲間として共にいる物ではなく、者として。
「はあ、こんな奴のために私が動く日がくるなんて。私のことをなぜあそこまで知っているのか、答えてもらってないのに、どうしてここまで信用してるんだか」
ゼンは、愚痴を溢しながら、部屋を後にする。
どれだけ信用していようと、彼女はアインに愚痴をこぼし続ける。それが悪いだの、これがいけないと。ボロボロと愚痴をこぼす。
しかし、その愚痴も彼女の前ではさすがに言えない。
「あら、ゼンちゃん。どこか行くの?」
一階に降りたゼンは、フィネルから声を掛けられる。
居るのは分かっていたので、降りる寸前に愚痴を止めている。
「ええ、少し街の方に用事が」
ゼンは、端的に答え離れようとする。
「なら、アインを連れていってください。女の子一人はいけないですから」
しかし、フィネルの話はまだ続く。
今のアインは、あまり体調が良くない。ここで動かすのは好ましくない。
「大丈夫です。私はそこまで弱くないですから」
ゼンは、そう答えて急いで玄関から外に出る。
フィネルに止められそうになったが、昼には帰ると言ってそそくさと家を後にする。
「しっかし、あのダルクは今どうなってんだろう」
今回、ゼンが一人で動いているのはダルクのことを見に行くためなのだ。
アインが、あれほど信用していたダルクについてもう一度しっかり見ておこうと思っての行動だ。
何もない道を、ぶらぶらとゼンは歩く。
ダルクの仕事場は西門だけと聞いている(勝手に心を読んだだけ)ので、そこまで行くのだが、アインもいないので暇なのである。
彼とは、一度で良いから戦ってみたいの思っているのだが、アインにばれたら怒られると思うので、ダルクには言わない。
それに、いい加減自分用の剣もほしいと思っている。しかし、なかなか良い物が見つからないし、思いつかないのでゼンの剣は即席で作った物になっている。
次また戦闘が起こったときまでには、自分用の武器を何でも良いから用意しておきたいと考えてはいる。
考えているだけなので、用意される予定は実際のところないのだが。あくまで予定として、ゼンは持っている。
そんな今後の事を考えていると、西門が見えてきた。
変わらず大きな門をしており、何回見ても大きい門だ、とゼンは感じる。
前と変わらず人が列を作っているので、ゼンはその最後尾に並ぶ。
全て抜かしてやりたい気持ちはもちろんあるのだが、以前アインに怒られたのでそんな事はしない。
私は、学習する子なのよ、とゼンは心の中で威張る。
そんな自分を哀れんだのか、少し元気がなくなったゼンは前が進んだので、少し前進する。
大きな荷馬車があるわけでも、大勢の人が居るわけでもなかったので、ゼンは簡単に前へと進んでいく。
そして、ちょうど自分の番が着たときゼンは、門番に税を渡してダルクのどこにいるのかも聞いておいた。
門番の顔を見ていた感じ、ダルクはいないようなので同じ門番なら分かるだろうと踏んだのだ。
その結果予想は合っていたようで、休憩室の方で今は休んでいるらしい。
門番の人にテキトーに感謝の言葉を口にして、ゼンは休憩室に入っていく。
アインのおかげで門番とは顔見知り程度にはなっているので、特に何も言われない。その辺、感謝はしてないがアインに恩は感じている。感じているだけだが。
少し小走りで、ゼンは休憩室に入っていく。
ゼンは、アインの作戦の後始末としてダルクと接触するのだった。
休憩室に入ったゼンは、椅子に座りながら机に突っ伏して居眠りをしているダルクを見つける。
ほんとに彼があれほどの惨状を作り上げたのか疑問に思いながら、ゼンはダルクを起こす。
「仕事中に居眠りとは良い度胸ね」
「……ん?ああ、嬢ちゃんか。ふぁ~……どうしたんだい」
ダルクは、大きくあくびをしながらゼンの用事を訊ねる。
見た目通りのだらけ具合で、ほんとに強者なのか疑ってしまう。というか、まったく信用できない。
「昨日の後、何にもないかなって」
「何にもないよ。しいて言うなら、すごく眠いくらいだな」
それぐらいのこと、見てれば分かるのだが、その辺はどうでも良いので無視する。
アインがかなり眠そう(というか、寝ている)だったので、予想はついていた。
ゼンは、ダルクの前に座り話を変える。
昨日の夜から行方が分かっていない、男の子についてだ。ゼン自身まったく気にしていないが、アインが気にするだろうから聞きに来たのだ。
「男の子、どこに行ったの?帰ってきたの?」
「いいや、帰ってこない」
「探さなくていいの?」
ゼンは、未だ眠そうに話すダルクに質問を続ける。
何か知っていると思ったが、何も知らないとは使えない奴だと、ゼンは思いながら話を聞く。
「探したいが、俺は門番だからな。ここから離れることは基本できないんだよ。言い方は悪いが、たかが男の子一人のためにこの街の上の方々は兵士なんて動員しないよ」
ダルクは、手をひらひらと振りながらそう言う。
なめているのかとキレそうになるが、その気持ちを抑えてゼンは質問を続ける。
「じゃあ、男の子の捜索の予定はないと?」
「そうなるな。俺にどうにもできないよ」
ダルクは、これで話は終わりだというように、再び机に突っ伏してしまう。
これ以上聞いても埒があかないと思ったゼンは、ありがと、とだけ言って部屋を出る。
「あの男の子明らかに、私たちを盗賊のところに誘っていたと思うのだけど……なんの情報も無いじゃ、そんなことアインに言えないし」
アインの様子から見るに男の子のことを信用している(自分の重ねているのだろう)ようだったし、アインの勘はあてにならないだろう。
しかし、アインなら案外分かっていたのではないだろうかと、ゼンはアインに期待を寄せる。
そんなこと今思ったところで何も変わらないかと、ゼンは思考を中止する、
アインに少しだけ期待しておくことにして、ゼンは街の中へと入っていく。
そこまでの量はないが、アインから盗ん──いただいたお金でご飯を買う。
屋台飯は高級食材ではないが、安くて美味しいのでゼンはかなり満足してた。
特に、串焼きのうまさと言ったら最高だった。
生肉の保存がそこまで効かないので、少し高めで一日の本数も少ないが他とは群を抜いて美味しい。
そんな串焼きを頬張りながら、ゼンは街中を歩く。
大きな盗賊団が近くに居たというのに、街は以前と変わらない風景を見せていた。
しかし、彼が言うにはこの方が良いらしい。
平和は良いことだと、彼は良く口にしていた。
ゼンは、どうせなら大きな事でも起きないものかと思いながら門に向かう。
街に中を歩いてみたものの、男の子はいないし、何も事件は起きなかったので飽きてきたのだ。
「最近、またあの森に熊が出たらしいよ。怖いわね」
「そうねえ~、討伐してくれないかしら」
なんて会話が聞こえるが、男の子とは全く関係が無い。
もっと、有益な情報をおばさまたちには、話してもらいたいと、思いながらゼンは西門に向けて進んでいた足を止める。
「う~ん、あ!良いこと思いついた」
少し大きな声でそう言って、ゼンは左を向く。
この先には南門とスラムがある。こちらに進めば何かあるかな、とゼンは歩を進める。
アインにこの行動について何か言われていた気がするが、頭の中から消しておく。
ゼンは、ウキウキしながらスラムへの中へと突き進んでいのだった。
☆
「何あれ!ほんとにスラムなの!?」
ゼンは、家に帰りながらスラムに対して愚痴をこぼす。
ウキウキでスラムを歩いたのは良いものの、何も出てこなかったのだ。ネズミ一匹出てこなかったので、ゼンはイライラしていた。
力強く地面を踏みつけながら、家へと帰る。
帰っている間にイライラはどうでも良くなっており、アインがもう起きているのか気になっていた。もし、起きていたら男の子について話そうかなと思っている。
家が見えてきて、ゼンは心情把握を起動する。が、アインはまだ起きていないようだった。
少ししたら起きそうだが、今回はアインに優しさを与えて、起こさないことにした。
家の玄関まで来たゼンは、優雅に扉を開ける。
「ただいま」
「あ、帰ってきた。お帰りなさい」
少し扉に足を引っかけたのは内緒だ。
「何か買ってきた訳じゃないのね」
「はい、ただの観光的なそれですから」
ゼンは、口元を手で隠しながらそう言う。
彼女的には、マウントを取っているのだが、フィネルの方は特に気にしていなかった。張り合いがなく、つまらなさを感じながら、二階に行く。
部屋に入ると、アインが起きていた。
起こしてしまっただろうかと思っていたら、アインが声を掛けてくる。
「どこか行ってたのか?」
「ええ、ダルクの様子を見に」
ゼンは、素っ気なくそう返す。
目的は他にあったのだが、それを悟られないようにするためだ。
その行動のおかげか、アインは何も言わずベッドから出てくる。
寝起きなので眠そうだが、朝寄りかは良くなってるように感じられた。
「ダルクはどうだった?」
アインは、体を少し動かしながらゼンにダルクの状態を聞く。
「アンタの同じで眠そうだったわよ。それでも働きには出てたわ」
「そうか、仕事熱心で結構だ」
アインはそう言って、部屋の扉に手を掛ける。
もう寝るのには満足したようで、あっという間に顔をシャキッとしてた。
さすが元軍人だろう。
眠っている状態から覚醒状態に即座に移行するのは慣れているようだ。
アインは、何も言わず部屋を出る。
彼のために動いてあげたのに感謝も何か、と少しゼンはアインの行動に腹を立てる。
彼の大事な人の状態をわざわざ調べに行ったのだから、少しぐらい感謝の言葉があっても良いじゃないかと。
優しくないアインに怒っているゼンは、ふと机へと目線を向ける。
すると、そこには何か書かれた羊皮紙が置いてあった。
『ありがとう』
そこには、そう書いてあった。
行くときにはなかったので、ゼンが家を出てから書いたのであろう。
「べ、別にアンタのためじゃないし……」
ゼンは、顔を真っ赤にしながらボソリとそう答える。
誰に向けてなのかははっきりしているが、その人にその言葉は聞こえない。
まだ何か書いてあるような気もするが、ゼンはその羊皮紙をクシャクシャにして、粉微塵に切り裂く。
彼女が、直接言わないことに怒っているのか、はたまた恥ずかしくてやってしまったのか。
「……馬鹿みたい」
ゼンは、そう言い残し部屋を後にする。
心なしか、その顔はうれしそうに見えたのだった。
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それではまた次のお話で会いましょう。




