第十八話 接敵
「て、敵襲!」
遠くから、敵の襲来を伝える叫び声が聞こえる。
その声の必死さから、驚きの感情がこちらまで伝わってきた。
見張り役の人はかなりの肺活量のようだ。
実にいい、侵入者である俺にもしっかりと聞こえた。
「ダルクの戦闘が始まったようだ。こちらも潜入するぞ」
「ええ、分かったわ」
ゼンは、素っ気のない返事をして後ろから付いてくる。
静かなのはありがたいが、ここまで静かだと異変を感じるな。
敵拠点の裏側から入るが、正面でダルクが敵の注目を集めているので裏側に敵はほとんどいない。
囮作戦は、成功したようだ。後は、俺たちがアイツを殺すだけだ。
どこに奴らがいるのかは、ゼンの心情把握による索敵で確認していく。
もちろん、俺もできる限り自力での索敵もする。ゼンに頼ってばかりでは、いけないからな。
俺たちは、慎重に拠点の中を進んでいく。
いくら敵襲があっても、拠点の中をがら空きにするほど兵力がないわけではないらしく、何人か見張りとして小屋の前に立っていた。
それに、火が溢れんばかりにたかれているので少しでも明るいところに出てしまえば、一瞬でばれてしまう。
まあ、その分小屋などの影は人が目視で確認できないほど濃いのだがな。おかげで快適に進んでいける。
「ここの人たちは、自分の拠点を守る気あるの?」
さすがのゼンも、これには少し苛立ちを感じている(敵のことなのでこちらとしては、ありがたいのだが)ようだ。
盗賊の見張りなんて所詮この程度だろう。禄に訓練も受けていない有象無象だ。例えどれだけ巨大な盗賊団だろうと、所詮は盗賊でしかない。
「いいだろ。お前の方は見つかったのか」
索敵と言っても俺は目視で確認できる兵士、ゼンには隠れていると思われるゴルグの捜索を主に任せている。
奴は盗賊団のボスだ。おそらく他と違う思考だろう。
「ええ、見つけたんだけど……」
「だけど?」
「一つはゴルグで間違いないわ。でも、もう一つの心情が少し引っかかるのよ」
少し引っかかるか……ナールみたいに並列思考とかだろうか。
「ええ。いや、厳密には違うというか……」
なんだ、歯切れが悪いな。
もっとはっきりと言わないと。
「うーん……ナールとは比べものにならない程よ。12。12コ同時に思考しているわ。なんなら、その思考で協議すらしているわ」
頭の中で協議だと。自分で協議とは、本の世界かよ。
恐ろしいほどの思考力の持ち主……作戦の順調度……考えすぎだろうか。しかし、策士との戦闘は経験がたくさんある。疑って悪いことはないだろう。
「はっきり言って───気持ち悪い」
気色が悪い、ともゼンは続けていった。
それほどまでに心を読んだゼンからは、変異に感じられたらしい。
「分かった。ゼンは、そいつの心情を読み続けてくれ。ゴルグの場所さえ教えてくれれば。俺が案内する」
「了解、ゴルグとそいつは同じ場所にいるから警戒してね」
俺は、ゼンからそう注意を受けてから、目的地を聞く。
あの他より少し高くなっている建物に、彼らはいるそうだ。
俺は、誰にも見つからないように今までよりも慎重に進む。
敵のボスがいる所に近くなっていくにつれて、減らしたはずの見張りの数が増えている。なので、神経を磨り減らすしながら進む。
「ん」
「どうしたの?」
俺は、小屋に立てかけられた槍を一本見つける。
それをおもむろに持ち上げる。
重すぎず、軽すぎず。
それに槍先もそれなりに切れ味の良さそうな物だ。
「その槍がどうかしたの?特に、何もなさそうだけど」
その通りだ。この槍には、何の細工もされていない。
しかし、それでいい。
俺は、その槍を片手で持ち少し右を向いて構える。
「え。あ、アンタ何する─────」
ゼンが、言葉を言い切る前にぶん投げる。
槍を、空に向かってぶん投げる。
「えっ、えぇぇぇぇ!!!!」
ゼンは、俺の行動に思わず声を上げる。
ばれるからやめてくれ。
「何やってるの!?馬鹿なの!?」
「大丈夫だって。これも意味のある行動だから」
俺は、ゼンをなだめようとする。
しかし、ゼンの興奮は収まらない。
「何が意味のある行動なの!?アナタ、作戦を瓦解させる気!?」
うーむ、ここまで興奮されるとなだめるのが大変そうだ。
何か良い方法は…………。
「えいっ」
俺は、ゼンに対してデコピンをする。かなりやさしめのものだ。
くらっても全く痛くないだろう。
「何するのよ」
ゼンが、俺を睨んでくる。
瞳に憎悪を感じる。冷たいな、冷え冷えだ。
「落ち着いたか?」
「ええ、おかげさまで」
ゼンは、嫌そうにそう言う。
俺の前で、熱くなってしまったことを気にしているようだった。
「じゃあ、行く─────」
「やあ、俺のことを忘れないでくれているかな?」
後ろから、声が聞こえる。
その声は、聞き覚えのある、苛立ちを覚える声だ。
低く、深く、不快感を覚える。
どこまでも、信用できない声。己の欲望のままに生きる自由を殺しで感じる者の声。
俺は、ゆっくりと後ろを振り向く。
「よお、アインだっけ?まあ、いいや。少年よ、元気だったか?」
そこには、不気味に笑うゴルグが立っていた。
不気味だが、その心はゼンを介さなくても理解できる。
その心は、うれしさでいっぱいだ。
純粋で、単純で、どこまでもどす黒い感情だ。一点の光もない、ただ黒い。漆黒だ。
ゼンが、気配を捉えられなかった?
いや、少し遊びすぎていたために感じれなかったのだろう。そうだろう。そうなんだ。
「少年。今回は死んでくれるよなあ!!!」
ゴルグは、高揚を隠しきれてない声でそう叫ぶ。
俺に向かって、死を要求する。否、彼からすれば宣告に近いのだろう。彼からすれば、な。
「ああ、今回こそは殺してやるよ!!!俺の手でなァァァァ!!!!!」
互いに武器に手を掛ける。
そして、戦闘は始まる。互いに殺すことを目的とした殺し合いが今、始まった。
俺の前に出たとき、彼の命運は今決まった。
俺の邪魔をするのなら、それにはそれ相応の罰を与える。信賞必罰は世の常だ。
少し誤用かもしれないが、なんとなくの意味合いは伝わるだろう。
俺の邪魔をする、それは───決して許されない行為なのだ。
そんな俺を、ゼンはただ見ているだけだ。
静かに、見据える。
「アナタにとって…………私は何に見えるのかしら……」
そんな事をゼンが言った気がした。
しかし、はっきりと聞こえる前に俺とゴルグの武器がぶつかり、かき消されるのだった。
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