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第八話 買い物は危険がいっぱい

 あの後俺たちは、ゼンの今後について話し合った。


 その結果、ゼンは俺の部屋でしばらくは過ごす事になり、修理と同時に隣の部屋(父さんが使っていた部屋だ)をきれいにして使う事になった。


 合法的にベッドが使えるわ、とゼンは喜んでいたので問題はなさそうだ。

 一番の問題はゼンが納得するかだったので、その後の話し合いはトントン拍子に進んでいった。


 そして今は、夕食などが終わりもう寝る寸前だ。


「あはは、あの籠と比べるととても柔らかいわ」


 ゼンは、うれしそうにベッドの上で飛び跳ねている。


「下が揺れるからやめろ。この家はそこまで丈夫に作られているわけじゃないんだよ」


 誰かさんのせいでもう部屋がボロボロなんだ、これ以上壊されたら大変だ。

 ただでさえお金がないのに、消費を増やさないでくれ。


「分かってるわよ。壊して悪かったわね」


 棒読みで言われても、全く申し訳ないと思ってないことがよく分かるだけなんだが。

 本当に申し訳ないと思っているのな─────


「いつまで跳ねてんだよ!やめろよ!」


「ええ、だって楽しいし」


「謝罪するなら、まず言動を直せ、アホ!!」


「はあ?今私の事アホって言った!?」


「ああ、言ったさ。何度でも言ってやるわ!アホ!阿呆!あほ!」


「なんだと!!」


 俺とゼンは、ベッドの上で取っ組み合いが始まる。

 互いに拳、蹴りを受け流し、カウンターを繰り出す。


 見た目は子供のけんかだが、中身がガチだ。


 拳が二発、蹴りが一発互いに入ったところで組み合いが解かれる。

 俺もゼンも息が上がっており、疲れ切っている。


 俺は全力でゼンを殴ろうとしたせいで、ゼンはおそらく俺相手に手加減したせいだろう。

 所詮今の俺では、ゼンの全力を受けると一瞬で死んでしまうのだろう。


 まだ、今の俺では弱すぎるな。


「つ、疲れたわね」


「そう……ハア……だな……」


 ゼンよりも俺の方が圧倒的に疲れている。

 基礎から鍛錬し直しだな。


 今まで積み重ねていたものが、なくなっている事を実感すると悲しい気分になるな。

 その分の知恵と経験が残ってくれて良かった。


「なに一人で元気になってんのよ。明日、服買いに行くんでしょ。それまで悲しんでなさい」


 ちなみに補足すると、先ほどの話し合いで明日、こいつの服を買いに行く事になった。


「なんで、夜の間ずっと引きずってなきゃいけないんだよ」


 普通に嫌だよ。

 なんかすごい惨めじゃないか。


「いいじゃない、そのまま惨めに過ごしなさい」


 なんか、今日はこいつの毒舌が生き生きとしている気がする。

 まあ、俺のメンタルは鍛えられてるからこのぐらいなら平気だけどな。


「今日はって、私あなたと会ってからまだ数日しか経ってないんですけど」


「はは、確かにな」


 まだ会ってからそんなに時間は経っていなかったようだ。

 それまでにこの数日は、濃密だったのだろう。


 きっと、そうに違いない。


「じゃあ、もう寝るか」


 日はもう沈みきっているし、明日は出かける予定があるからな。

 早寝で悪い事はないだろう。


「そうね。せいぜい床に這いつくばってぐっすりと寝る事ね」


 こいつ、自分がベッドだからって調子に乗りやがって。

 

 ゼンがベッドで寝るため、俺は必然的に下に下ろされてしまう。

 ほかの部屋は空いてないので、俺は仕方が無く床で寝る事になった。


 それが、たった今俺を見下すような目で見ている理由だ。

 満面の笑みで、うれしさのあまり俺を両足で踏みつけるぐらいに─────


「って!痛えわ!」


「あら、気づいたの?うれしそうにしていたからやってたんだけど」


「してないですよ?全くしてないですよ?」


 一体何を言っているんだこいつ。

 俺が、Mのようではないか。


「え、違ったの?てっきり私……」


「なんだその手は。私驚きだわ、みたいな顔しながらやるんじゃねぇ」


 話していて楽しいが、気分を害す奴だ。

 信頼はできそうだが、仲良くはできなさそうな奴だ。


「気分を害すなんてひどい言い草ね」


 妥当な言われような気がするが。

 人を蹴っておいて何を言っているんだ。


 ダメだ。

 今日のゼンのテンションはおかしい。


「もう寝るぞ。おやすみ」


「もう、つまらないわね」


 俺は、ゼンのそんな小言を聞き流し、冷たい床で眠りにつくのだった。

 しかし、その床はどこか温かみがあるように感じられた。



               ☆☆☆



 ギーという扉の動く音で、ゼンは目を覚ます。

 覚まさなくても良かったのだが、アインが気配を消すように動いていたので気になったのだ。


 扉の音は出てしまったものの、廊下や階段での足音は全く出しておらず、やはり彼がただならぬ人間であることを暗に伝えていた。


「一体何をしに言ったのかしら」


 そう、アインたちに聞こえないように小声で言って、ゼンは起き上がりアインの後ろを追って部屋から出る……。

 ことはなく。


「ねむ」


 とだけ残して、再び眠りにつく。

 全く、話の進み方を知らない面白みのないだけの話だった。



                ☆☆☆



「ほら、早く歩け」


「まったく、服ぐらいアナタが買ってきてよ」


 俺たちは今、朝食を終え予定通りに服を買いに行く途中だ。

 家を出てすぐにこいつが駄々をこね始めたのだ。


「そんな事言う暇があるのなら、もっと速く歩くか走りやがれ」


 街までは10分で着くのだが、今は少し遠回りしている。

 これもゼンのことを思っても行動だ。


 この理由は、こいつはきっと知っていても鼻で笑うだろうな。


「聞こえてるわよ」


「ああ、そうか。もう街が見えてきたから、その心を読むの切っとけよ」


「はいはい」


 ゼンは、気だるげにそう返事をする。

 ちゃんと聞いているのだろか。不安になってくる。


 俺たちは、城門前に連なる列に並ぶ。

 かなりの行列だ。


「何これ、人多過ぎじゃない?」


 ゼンは、この行列を前に目を丸くしていた。


「この西門は、南門からの人も集まるからな。必然的に人が増えるんだ」


「なんで南門の人が来るの?」


「町の南は少しスラムみたいになっていて、危ないんだよ」


「へぇ、わざわざこんな石の城壁作ったのに内側が危険なのね」


「まあ、外敵からの攻撃は防げるから」


 実際、外敵に攻撃されているときに南から侵入されていたのが前世のことだが。

 今の俺が何かできるわけではないので、記憶にとどめておくだけにしておこう。


「よお、アイン。元気か?」


 そんな事を話していたら、前方からおっさんくさい声が聞こえる。


「ああ、元気にやってるよ」


「そりゃ良かったよ。で、そのお嬢さんは誰の子だい?」


 このおっさんは、『ダルク・オーグ』といい、このクリークの街西門の門番だ。

 西門でしか働いていないので、主に西門から街に入る俺とは顔見知りだ。


 歴戦の老兵でもなければ、隠れた武人というわけでもないただのおっさんだ。


「クリークの森で拾ったんだ。名前をゼンって言ってな、新しい家族でもある」


「捨て子か……大事に育ててもらえよ」


 そう言ってダルクは、ゼンの頭をなでようとする。

 しかし、ゼンはその手をはじき


「気安く触らないで」


 と、言い放った。


「す、すまん!おい、あやま──」


 焦った俺は、ゼンに謝らせようとする。

 この人がたいして面白い事が言えない、ただのしがない、残念なおっさんだとしても良くして貰っているのだ。


「ハハッ、良いじゃねぇか。ガキは元気が一番だ」


 しかし、ダルクはそんなゼンを笑いながら許してくれてた。

 ダルクの心が広いおかげで助かった。


「でも、俺はもっと身近な誰かに侮辱された気がするよ」


 ダルクを悪く言う奴なんているのだろうか。

 いい人なのは違いないので、そうそう悪口なんて言われないと思うんだが。


「それより、門で問題が発生してな。税は貰うから、先に行ってくれ」


「いいのか?俺より前にも人がいるだろ」


「良いんだよ。こういったときに優先してほしかったら、もっと親切にしろって事よ」


 ダルクは、笑いながらそう言った。

 そんな特例が許されるのかは知らないが、そういったことなら行かせて貰おう。


「分かったよ。はい」


 俺は、財布から銅貨を二枚取り出し、ダルクに渡す。


「よし、ちゃんと二枚あるな。じゃあ、付いてきてくれ」


「分かったよ」


 俺たちは列から外れて、ダルクの後ろを付いていく。

 列に並んだ人に視線がすごく気になるが、早く入りたかったら門番と仲良くなれよ。


 門の所には荷馬車があり、どうやら荷物に問題があったようだ。

 それに門番が割かれていて、税をとる人がいないようだった。


「あの荷馬車、そんなにやばいものが乗ってるのか?」


「いや、確認に時間がかかっているだけだ。すぐに元通りになるさ」


 ダルクは、然程気にしてないようだ。

 そんなに楽観視して大丈夫なのだろうか?爆発物とかあったらどうするんだよ。


「ほら、気をつけてな」


「ああ、お前も気をつけて」


 俺は、ダルクにそう返して街に入っていく。

 ゼンは、ぺこりと頭を下げて俺の後を付いてくる。お礼ぐらいはできるようだ。


「とりあえず、お前の服を見に行くから中央まで行って商業区に向かうぞ」


「商業区って、どこにあるの?」


「商業区は、この街の北に位置していてそこで基本何でも買える」


 盗みが減るように、南から一番離れている。なので、家もたくさん建っている。大きな商家の人間とかの家だけどな。一介の農民や商人なんかが住めるほど安全は安くないのだ。

 それほどにもスラムは危険視されている。


「疑問なんだけど、なんでスラムが城壁の中にあるの?」


「それは……」


 さすがにこんな街中で言えるような内容じゃない。

 後にしてくれ。この街にも色々と問題はある。


 領主の失敗とかな。


「ん?」


 ゼンは、不思議そうな顔で俺の顔を見てくる。

 だから、今は──って、今こいつ切ってるんだっけ。じゃあ、心の中で思っても意味ないのか。


「後で教えてやるから」


「……そ、分かったわ」


 ゼンは、俺の様子で察してくれたようだ。

 ありがたいな。


「じゃあ、さっさと行くか」


 そんな会話を終えて、俺たちは本来の目的を達成しに行くのだった。



               ☆☆☆



「このぐらいあれば満足かしら」


 ゼンは、満足そうに手を腰に置きながらそう言った。満面の笑みで、誰かが後ろから見ても何か嬉しいことでもあったのかなと思えてしまう程に幸せそうな気配が漏れていた

 ゼンが満足したようで、とてもうれしいのだが。


「多くない?」


 俺は、ゼンが買った服を持たされて前が見えなくなっているのだった。

 荷物になったら嫌だと、少し多めに袋を持ってきていたが全て一杯になるまで詰め込まれている。上の方の服は今にも落ちてきそうだ。


 こんな量の服が買えるほど、財布にお金は入っていなかったはずなのだが。

 一体、どこからここまでの量買える金が……。


「そんな事無いわ。乙女の買い物はこんなものよ」


 そうなのだろうか?

 乙女の買い物を知らないから、なんとも言えない。


「そ、そうなんだな」


 俺には、それしか言えなかった。

 お前乙女じゃないだろという否定は、心の奥底にしまっておいた。


「とりあえず、急いで帰るぞ。昼過ぎぐらいの時間だ」


「安心して、早く帰れるように南門に向かって進んでるから」


 そうなのか、なら早く家に着く事が……ん?今なんて。


「私、偉いでしょ」


 ゼンは、続けざまにそう言った。


「おい、今なんて言った」


「え?私、偉いで──」


「違う、その少し前だ」


「ん~、南門に向かって進んでる?」


「そう、それだ!」


 やはり、南門に進んでたか。

 やけに曲がり角が遠いと思ったら、まっすぐ進んでいたのか。


 バランスを取るのに必死で、状況を把握し損ねるとは。

 いや~、俺もまだまだ───って!


「ゼン!心情把握をオンにしろ!!」


 俺は、とっさにゼンに指示を飛ばす。

 スラムに近い、もしくはスラムの中にいるとしたら───


「なんでアンタが、私の能力の名前を知ってるのよ!」


 俺の指示に、ゼンは気にしてほしくないところに気がつく。

 今、そんな事を気にする暇はない。


「早くしろ!じゃないと、この服全部捨てるぞ!」


「分かったわよ!分かったから、やめてちょうだい!」


「オンにしたら、俺たちに向けられている思われる悪意を見つけろ!!」


 俺は、間髪入れずに次の指示をゼンに飛ばす。

 スラムに入っていたとは、前が見えないことばかりを意識していた。横の景色を見ていなかった。


「悪意って言われても……あった」


「どこだ!」


「アンタの後ろ」


 そうして俺は、後頭部に衝撃を受け意識を失った。

 完全に俺の注意不足がまねいた事故だった。いや、俺がゼンにスラムの危険性を伝え忘れたのも悪かったな。



               ☆☆☆



 そして俺は、知らない部屋で目を覚ます。

 部屋は石レンガでできていて、一面は鉄格子になっており外、と言うより廊下が見えていた。


 俺が、体を起こすと隣にゼンがいる事に気づいた。

 ふてくされたような顔で、小さくなって牢屋の角に座っていた。体育座りと言う奴だ。


「起きたわね、行くわよ」


 ゼンはそう言って、立ち上がる。


「行くって、一体どこへ─────」


 俺が言い終わるより前に、爆音が鳴り響く。


「早くして、アンタのせいで今日中に帰れなくなるじゃない」


 ゼンは、そう言って鉄格子に開けた穴から外に出て行ってしまう。

 俺には、一体何が起こっているのか理解できなかったが、ここから出る必要がある事と夢ではないことを確信する。


「おい!待ってて」


 そうして俺たちは、謎の建物の脱出を目指し、歩き出すのだった。


 ここまで見ていただきありがとうございました。

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 もちろん、感想等も送っていただければ自分が大変喜びます!!


 それではまた次のお話で会いましょう。

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