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詩篇13 あらゆる中に潜むわたしのあらゆるもの

作者: 宮沢いずみ

 空はなんというか、ものすごくぼんやりとしていて、雲が溶けちゃったみたいに不透明で淡くて。

快晴! なんだけれども、快晴というのはもっと残忍であって、あの青々に突き殺されるくらいの攻撃性を秘めていて欲しく、だけど理科で習った「晴」は雲の量が八割以下の状態で「快晴」の場合は一割以下、ということは今わたしの上では多分おそらく快晴が繰り広げられているのに、このぼんやりは一体どうしたというのか。


 クレヨンの水色。あの色がぴったりな空。水色なのに、空。というか、本来水に色は付いていないから水色というのはおかしい。空色と命名し直す必要があると思います。それともこれは略ですか。空が水に映ったときの色を略して水色。ですか。

この議論は多分誰もが幼少時のどこかで耳にしたか考えたかした議論で、青信号は緑色なのにどうして青信号なのですか。という議論とほぼ同じところから発展しているように思われ。

 青々とした葉、というのはどう考えてもどこから見ても青ではなく緑であり、それはわたしの想像力が欠如しているのではなく、性格の問題なのです。


 雨上がりの匂いが好き。土も、アスファルトも、木々も、落ち葉も、全て洗われた後のあの匂い。今までの何もかもが偽物だったことを知らせるような。あの匂いをかぐと、しっとりと濡れるのです。全身がしっとりと。裸でね、完全な裸で、雨に洗われてみたいと思うのです。平等に洗われてみたいと思うのです。そして大声で泣いてみたいと思うのです。

 ブランコの近くに水たまり。昨日の夜は雨で、雨音の大合唱で、今日の朝はぼんやりの青で、わたしはとにかく精神といか感受というか、そういったものを無駄に垂れ流しにするのが嫌になって、散歩、というには乏しい、ただの練り歩きを、近くの公園まで行って帰ってくるというだけの単純な動きをし、ザブザブと流れゆく思考であったり空想であったりするものを、ちびちびと拾い上げて脳の中の箱に入れていたら、水たまりを見つけたわけで。

 水たまりには自己主張という能力が欠けていると思います。

と、その時手を上げて発言したくなったけれど、聞いてくれそうな人はひとりもおらず。ブランコや木の枝を映し、空を映し、土を透かし、鳥につつかれ、人に避けられ、犬に踏まれ、何の抵抗もせず、動かず、逃げようともしない、それでいいのですか。水たまりはいつも、全てに対して耐えている。雨の子はいずれ雨になるけれど、だけど今は。


 空はどんどんぼんやりさを増してゆくようで、飛行機雲までが、まったく切れ味なく、ぼんやり。それで本当に飛行機雲と名乗っていいのですか。


 水たまりの側には、高々とそびえ立つ大病院。この中には、痛や苦や悲、それから生と死と命という言葉と、それらの意味が詰め込まれていて、それはこんなに簡単に書けてしまう文字でも簡単に引けてしまう辞書に載せられた意味でもなく、もっと切羽詰った、言葉ではなく本物の感情がそこには混在していて、あちこちで飛び交ってるんだな、と思うととても怖い。高い壁一枚の表と裏で、こんなにも世界は違う。そういう場合、窓は一体どんな役割を果たすの。わたしの部屋の窓からは、隣の家の塀しか見えないけれど。

 

 そういえば、ヘンゼルとグレーテルは魔女を焼き殺した後あのお菓子の家に住んだんだっけ。彼らは森にパンを落としながら歩いたけれど、わたしは何を落としながら歩いているの。帰り道に拾うものはどこに。全てのものに。全ての存在に。感受はこんなにも、わたしの息の中に。出ては入り。、出ては入り。

感受はこんなにも、あらゆる中に

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