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霊異戦記  作者: 股切拳
第参章  古からの厄災
41/64

四拾壱ノ巻 ~修験霊導の儀 三

 《 四拾壱ノ巻 》 修験霊導の儀 三



 言霊で擬似悪霊の殲滅を終えた俺は、立会人席の2人に向かい丁寧に頭を下げる。

 そして顔を上げ、2人に再度視線を向けるのであった。

 すると土門長老と一将さんの2人は、口元を引き攣らせて不自然な作り笑いを浮かべていた。

 俺は、そんな2人の表情を見た瞬間、午前中にあった前半儀式の内容を思い返す。

 またそれと同時に、『今の儀式で何か問題があったのかもしれない。やばい事にならなければ良いが……』などと考えるのである。

 まぁという訳で、俺自身も2人につられ不自然な愛想笑いを浮かべてしまうのであった。

 そんな中、一将さんが口を開いた。

「う、うむ。それでは、これにて言霊霊導の儀を終える。日比野君は引き続き、見極めの儀に移るので、必要な術具や武具を用意して、そのまま待機していてくれたまえ」

「はい、分かりました」

 返事をした俺は、結界の外に置いてある霊刀や、小物術具を収納した術具袋を取りに向かう。

 それらを装備した俺は、また結界中央へと行き、儀式が始まるのを静かに待つのであった。

 俺がそうやって暫く待っていると、一将さんが黒い巾着タイプの術具袋を手に持って、この結界の中へと入ってきた。

 結界内に入った一将さんは、そのまま俺の正面にくると儀式前の一礼をする。

 俺も礼を返す。

 そして一将さんは言うのである。

「ではこれより、最後の儀である見極めの儀へと入る。だがその前に、今一度、最終確認をしよう。日比野君の準備はもう万全かな?」

 念の為、再度、腰の術具入れと霊刀を確認すると俺は言った。

「はい、宜しくお願い致します」

 それから俺は丁寧に頭を下げるのである。

「そうか。ならば始めよう」

 一将さんはそう言うと、結界の後ろの方へ下がる。

 そして結界の端辺りまで下がると、術具袋から三個の霊石と、奇妙な形をした像や丸い玉の様な小さな術具を十個ほど取り出したのである。

 話は変わるが、沙耶香ちゃんの時は一個の霊石だった。

 また、その他を言うと、明日香ちゃんと詩織さんは三個。そして一樹さんが五個で、宗孝さんが六個の霊石だった。

 霊石の数を見る限りだと、俺は詩織さんや明日香ちゃんと同じ数の様である。

 恐らく、この霊石の数は、今までの儀式内容を見て算出した数なのだろう。

 フトそんな事を考えていると、一将さんは十個の術具を自分の周囲の地面に配置していた。その後、三個の霊石を足元に並べるのである。

 術の準備を終えた一将さんは、目を閉じて静かに霊力を練リ始める。

 これは勿論、今から行われる見極めの儀の為だ。

 そして、この最後の儀式である見極めの儀だけは、浄将以上の称号を持った修祓者が行使する【布瑠ふること】と呼ばれる言霊の術と対峙しなければならないのである。

 他の皆のも見てきたので、俺はもう何が起こるのかは分かっている。

 俺は一将さんの術に対抗する為、背中に背負う霊刀を鞘から抜いた。

 だが、まだ構えはとらない。

 霊圧を上げる一将さんを注視しながら、俺は霊刀を右手に持つと、空いた左手には火霊珠を忍ばせる。

 と、その時。

 一将さんはゆっくりと言霊を唱え始めたのである。


《――ひふみよいむなやここのたり、ふるべ、ゆら、ゆら、と、ふるべ――》


 途中まではヒフミ神歌と同じ術式の言霊が、一将さんの口から紡がれる。

 そしてリズムを変えた後半の言霊を唱え終えた、その時!

 一将さんの両掌から、青白い霊力のほとばしりが走ったのである。

 その霊力は周囲に配置された術具へと放たれる。

 霊力を受けた術具は宙に浮き上がり、一将さんの周囲を円を描きながら回り始めた。

 すると、その一つ一つの術具からは、霊力の糸と思われるものが発生し、地面に置かれた三つの霊石に向かい伸びてゆくのである。

 霊力の糸が霊石に絡みつき白く発光する。それと共に、霊石からは青白い煙が立ちのぼるのであった。

 やがて煙は、人や動物の形へと変貌してゆく。

 今見た限りでは、どうやら人と犬と鳥の霊体のようだ。

 それらが完全に霊体として形成されると、一将さんの前に整列するような形で俺に対峙するのであった。

 そう……。この【布瑠ふること】という術は、操霊術なのである。

 俺はこれから、この三体の霊を消滅させないといけないのだ。

 そしてこれが、立会人による最後の見極めなのである。


 この見極めの儀で俺が使える術は、勿論、現代霊術のみ。

 鬼一爺さんから教わった、使い慣れた古の霊術はこの場では使えない。

 一樹さんや宗貴さんの儀式を見て思った事だが、障壁の符術や朱雀の法が使えないのは痛いところである。

 おまけに、一将さんの意思によって操られる霊体なので、今までの擬似悪霊の様に簡単にはいかない。

 一番の難点は、悪霊ではないので、破邪の符の様な霊力そのものをぶつける攻撃は効きが悪いというところである。

 その為、俺は色々と考えた結果、一樹さんのやり方を参考にする事にした。

 俺と同じく、霊刀を使うスタイルの一樹さんは、火霊珠といった術具を使って霊体を燃焼させ、一時的に霊体の動きを弱めていた。

 それから、一将さんの術具から伸びる霊力の糸を断ち切って、霊体を消滅させていたのである。

 今のところ、俺が取れる方法はこれしか無い。が、この方法は刀の扱いに長けている者のやり方であって、俺のように未熟な剣術では、何処まで通用するかは未知数である。

 そういった事もあり、俺はこの見極めの儀式に対して、かなり頭を悩ませているのであった。

 だが、明日香ちゃんや詩織さんも同じ数の霊体を相手しているので、俺も弱音を吐くわけにはいかない。

 そう自分に言い聞かせて、俺は今、テンションを上げているのである。

 因みに、こんな事を言うと言い訳がましいが、明日香ちゃんと詩織さんの2人は、俺と違って近接武器ではないので、間合いを遠く取れる分、やりやすかったかもしれない。

 ……まぁそれは兎も角。

 俺は気を引き締めると、対峙する霊体を見据えながら、己の霊力を高めるのであった。

 戦闘準備が万全になったところで、一将さんは一言だけ言った。

「参る!」と。

 その言葉を合図に、宙を舞う三体の霊が俺に目掛けて襲い掛かってきた。

 俺は迫り来る霊体を注視しながら、霊力を刀に籠める。

 と、その時。

 先ず、犬の霊体が右斜め前方から素早く、俺に飛び掛ってきたのだ。

 その霊体に視線を向けながら、左手に持つ火霊珠に霊力を籠め、俺は力を解放する。

 火霊珠が、俺の手の中で火の玉に変化する。

 そして俺は犬の霊体に向かい、火霊珠を投げつけたのだった。

 霊体は炎に包まれる。

 霊体に供給される霊力に干渉して燃える為、一時的に霊体の動きが鈍くなる。

 だがこの霊体は、一将さんの周囲を回っている術具から力を送られ操られている。

 その為、霊体そのものを攻撃しても一時的な効果しかない。

 霊体を消し去るには、十個の術具から伸びる霊力の糸を断ち切らねばならないのだ。

 俺は刀を中段に構えると、燃え盛る霊体に向かい刀を横に凪いだ。

 その瞬間。

 霊体の裂け目から、霊力が供給される糸が俺の視界に入る。

 俺は更に踏み込むと刃を下に返し、霊力の糸目掛けて袈裟に斬り下ろしたのである。

 すると霊体は跡形も無く消え去るのだった。

 だが安心する訳にはいかない。まだ二体いる。

 しかも、俺のすぐ傍に二体目の人型の霊体は迫ってきていた。

 その為、俺は慌てて中段に構える。

 だがその時だった!

 今度は鷹のような猛禽類の霊体が、左の上空から凄い勢いで急降下してきたのである。

 予想外の所からの攻撃だったので、俺は地面を横に転がりながら、それを避ける。

 だがしかし!

 立ち上がろうと片膝を付いたところで、今度は人型の霊体が俺のすぐ傍まで来ていた。

 そして俺の右側から飛び掛るように襲い掛かってきたのだ。

 ――駄目だッ、この間合いじゃ刀も振れないし、避ける事もできないッ。

 そう判断した俺は、刀の柄から両手を離すと、空いた両掌に急いで霊力を籠める。

 俺は両掌が青白い霊光に包まれると、迫り来る人型の霊体を吹き飛ばすかのごとく、両掌を突き出したのであった。

 触れた瞬間、ドンッ! という衝撃が手に伝わってきた。

 人型の霊体は、俺の霊力が籠もった掌に押されて3mほど後ろへ吹っ飛ぶ。

 その隙に俺は足元に転がる刀を拾うと、八相に構え、吹っ飛んだ霊体へ向かい大きく踏み込むのである。

 そして、この霊刀の間合いになったところで、そのまま袈裟に斬り下ろすのであった。

 刀の軌道どおりに、人型の霊体は肩口から斜めに裂ける。

 俺はそこで更に踏み込むと、霊体の背中から伸びる霊力の糸を断ち切るのである。

 その瞬間、人型の霊体は消滅する。

 残りは後一体……。

 そう心の中で呟くと、俺は中段に構えて上空を舞う、鷹の霊体に視線を向けるのである。

 鷹の霊体は上空を大きく旋回をすると、急降下して俺の右側から襲い掛かってきた。

 この方向から来たのは、恐らく、俺が右利きだからだろう。

 こう来られると、刀は振りにくい。

 おまけにスピードが速いので、今の俺の剣術では刀を振るったところで、斬れるかどうか分からない。

 俺はとりあえず、あの動きを迎撃できる自信がないので、構えを解き、かわす事に専念した。

 鷹の霊体は失速する事無く、俺を目掛けて突っ込んでくる。

 その鷹の突進を横に大きく飛んで避けると、俺は霊体を注視しながら対応策を練るのである。


 ――参ったな……。

 俺の剣の腕では、あの動きを捉えるのは厳しいな。何かいい方法無いだろうか……。

 ンンッ? ……でも、ちょっと待てよ。

 良く考えたら、速いのは突進してくる動きだけで、霊体から伸びている霊力の糸は何も変わらんじゃないか。

 という事は……なんだ簡単じゃないか。よぉし!――


 上空に目を向けると、鷹は先程と同じく旋回するところであった。

 すると、また同じ様な軌道を描き、俺の右側から急降下してきたのである。

 俺は半身になると、刃を斜め上に向けて下段に構える。

 そして鷹の突進を待つのだ。

 俺は迫り来る鷹の霊体をジッと見据えながら、避けるタイミングを慎重に見計る。

 何故ならば、今度はさっきの様に大きく横に飛んで避けるのではなく、刀の間合いを考慮して避けなければいけないからだ。

 だが、霊体の突進スピードが速い為、近付くにつれて恐怖心に似たようなものが湧いてくる。

 それを必死に意志の力で抑え込み、俺は静かにジッと待つのである。

 そして霊体が4m近くになった、丁度その時!

 俺は構えをそのままに、後方に一歩、素早く下がった。

 また、それと共に左膝を地に着ける姿勢になる。

 そして俺の真正面を鷹が横に通り過ぎた、その一瞬。

 鷹の尾に伸びる霊力の糸に向かい、刀を右手だけで素早く斬り上げたのである。

 糸が断たれると共に鷹の霊体も消滅する。

 俺は、それを確認すると共にフゥと一息吐くのであった。

 するとそこで、布瑠ふることを行使していた一将さんが、大きな声で言った。

「それまでッ!」と。

 その言葉を聞いた俺は、ゆっくりと左膝を伸ばして立ち上がり、背中の鞘に刀を仕舞う。

 それから結界中央へと向かった。

 一将さんも同じく結界中央へと来る。

 俺達2人は其処で互いに向かい合うと、儀式終了の一礼をする。

 そしてこの瞬間、俺の修験霊導の儀は全て終了した事になるのであった。


 礼を終えたところで、土門長老は周囲にいる者達に向かって言った。

「さて、それではこれにて、修験霊導の儀は全て終わりとなる。各々は、結界の撤去と機器の片付けを行ってくれ。それが終わり次第、本殿の広間に集合じゃ」

【はい、分かりました】

 土門長老の言葉に皆が頷き、返事をすると、周囲にいた者達は早速、結界や術具機械の撤去作業に取り掛かる。

 俺もその仲間に加わらねば……。

 と思って足が向いたところで、一将さんは俺に言うのである。

「日比野君、ちょっと待ってくれ。少し話がある」と。

 俺は『何だろう?』と思いつつも、返事をした。

「えっ、あ、はい……」

「またで悪いのだが、土門長老と3人で話をしたいんだ。付いて来てほしい」

 それだけ言うと、一将さんは本殿へと向かって歩き出した。

 言われた通り、俺もそれに続く。

 その途中、土門長老も一将さんと合流し、俺達3人だけが先に本殿へと入って行くのであった。


 本殿に入った俺は、前を歩く2人の後を付いて行く。

 すると昼食前に案内された部屋へと辿り着いた。

 一将さんと土門長老は昼食前と同じ様に、俺を先に部屋へ入れると、周囲を念入りに確認してから部屋へ入ってきた。

 そして障子戸を完全に閉めたところで、先ず、一将さんが口を開くのである。

「日比野君、先ずはお疲れ様」

「あ、どうも、ありがとうございます。御2人も、お疲れ様でした」

 とりあえずそう答えた俺は、そこで言霊の儀式を終えた時の2人の表情を思い出す。

 それと共に、連れて来られた理由はそれか? と考えるのである。

 今度は土門長老が口を開いた。

「日比野君、鬼一法眼様はおられるかね?」

「はい、俺の隣に居ま……ン?」

 と、そこで、鬼一爺さんが少し霊圧を上げて2人に姿を現したのである。

 鬼一爺さんは、早速、土門長老に口を開いた。

(なんじゃ土門長老。なにか聞きたい事でもあるのかの?)

「おお、鬼一法眼様。突然、お呼びして申し訳ありません」

 と言うと、2人は丁寧に頭を下げた。

 頭を上げると土門長老は続ける。

「実は、日比野君の言霊術についてなんですじゃ。……あれは一体どうやったのですか?」

(……どう、とな? 訳が分からぬのじゃが?)

 鬼一爺さんは、首を傾げながら逆に聞き返した。

 土門長老は、一呼吸、間を置いてから話し始める。

「……日比野君は、ヒフミ神歌を覚えてない。そして昼の言動を見た感じじゃと、恐らく、初めて使う術の筈。にも拘らず、あれだけの術へと完成させました。因みに、あのヒフミ神歌……普通の者ならば、道間殿の娘さんくらいのものですじゃ。日比野君ほどの威を秘めたヒフミ神歌を唱えられるのは、鎮守の森でも十数名ほど……。ですので、その理由が知りたいのです」

 新しく知った事実に、俺と鬼一爺さんは互いに顔を見合す。

 だが鬼一爺さんは、少し困った表情をするのである。

 何かあるのだろうか……。

 俺がそう考えていると、鬼一爺さんは渋々ながらも話し始めるのであった。

(土門長老。先程、この部屋に来たときも言ったが、涼一には我の教えた方法で己の音を探してもらった。それが関係しておるのぅ。言霊や真言の術というものは、勿論、高い霊圧を練れる事も必要じゃが、その他にも己に合った音程で唱えねば、真の力を発揮する事は出来ぬからの)

「や、やはりそうでしたか」

 鬼一爺さんの話を聞いた土門長老は、そう答えると納得した表情で大きく頷く。

 そして一将さんに視線を向けるのである。

 すると今度は一将さんが口を開いた。

「それならば、あの威力も納得できます。実は、我等が所蔵するいにしえの書物の中に、失われた秘術を使えた祖先は、広く世に知られるどんな術であれ、他の術者達よりも抜きん出ていたという記述がありました。要するに、一般的な術そのものの完成度も高かったという事なのでしょう。今の鬼一法眼様の話とそれを照らし合わせれば、日比野君のヒフミ神歌があそこまでの威を放ったのにも頷けますからな」

 一将さんの言葉を聞いた俺は、鬼一爺さんに目を向ける。

 鬼一爺さんは目を閉じて腕を組み、静かに頷いていた。

 どうやら、今言った一将さんの内容が正解のようだ。

 しかし、これでまた新たに、気をつけねばならない事が増えたようだ。それと共に俺は溜息が出る。

 とりあえず、俺は今の内容を整理すると、2人に尋ねるのである。

「という事は、これから言霊系の霊術を使うときは、威力を調節して使わなければいけない……という事ですよね?」

 だが、一将さんと土門長老は、互いに顔を見合わせ微妙な表情をする。

 2人の表情を見た感じでは、色々と悩んでいる様子だ。俺の言ったような単純な事でもないのだろうか……。

 暫くそんな感じで2人は考え込むと土門長老が先に口を開いた。

「日比野君の儀式は孫達も見ておった。じゃから、今からそんな事をすると、孫達も不審に思うじゃろう。とりあえず、訓練期間中は気にせんでもよい。問題はその後じゃな……。まぁよい、とりあえず、これは後で考えようかの」

 今の言葉を聞き、俺の中に、ある不安が残った。

 その為、土門長老に俺は問い掛けるのである。

「あ、あの、土門長老。……皆に、この事を聞かれたら、どう答えておくといいですか?」

 すると土門長老は天井を見上げて暫く考える。

 10秒ほどそうやって考えたところで、俺に視線を戻すと言った。

「そうじゃのぅ。とりあえず、この事について聞かれたら、『霊力や言霊を操る才能がある、と立会人の2人が言っていた』とでも答えておきなさい。多少の疑念は残るかもしれんが、そう言っとけば、一応、納得はするじゃろう。のう道間殿?」

 話をふられた一将さんは土門長老に軽く頷く。

 そして俺に言った。

「日比野君。とりあえず、訓練中はそう答えておきなさい。私達がそう言っていたと言えば、一応、大丈夫だろう。それに、日比野君一人だけで下手な嘘をつくと、余計に怪しまれるからね」

「は、はい、分かりました。そう答えるようにします」

 俺は今の話を聞き、気が少し楽になった。

 またそれと共に、2人に迷惑かけてばかりだな、という罪悪感も湧いてくるのである。

 その為、俺は2人に深く頭を下げる事にしたのだった。

「すいません、一将さんに土門長老。色々とご迷惑をかけてしまい……」

「なぁに、そう気にせんでもええ。元はといえば、儂等が君を巻き込んでしまったのが原因じゃからの。ヒョヒョヒョ」

 土門長老は俺に気を使ってか、優しい口調でそう言うと陽気に笑うのである。

 そんな土門長老を見た俺は、不思議と自然に笑顔になる。

 するとそれに続き、一将さんも明るい口調で言うのだった。

「ハハハ、日比野君。君の事に関しては、我々に任せておきなさい。秘密を知った以上、我々も君を守っていかないといけないからね」

 2人には頭が下がりっぱなしである。

 今の俺には、鬼一爺さんの次に頼もしい人達なので、こればかりは仕方がない。

 そんな訳で、俺は再度、深く頭を下げるのである。

 と、そこで一将さんがファイルを開き、俺に言う。

「ところで、日比野君。君の儀式結果だが、一応、位階 従六位の浄士として鎮守の森には登録しておくつもりだ」

「えっ! い、いきなり、そんな高めの位階からですか?」

 自分が思っていたのよりも儀式結果が良かったので、俺は驚くと共に思わず聞き返した。

 因みに俺は、最下位の従八位だと思っていたのである。理由は、ぽっと出の若造だからだ。 

 そんな俺を見た土門長老は言う。

「まぁ通常なら修祓実績といったものも必要なんじゃが、そこは儂と道間殿でなんとかするつもりじゃ」

「そ、そうなのですか。また、御2人に御迷惑をかけてしまうのですね……」

 俺はまた申し訳ない気持ちになる。

「ヒョヒョヒョ、謝らんでもよい。これには訳があるんじゃよ」

「訳……ですか?」

 俺は首を傾げつつ尋ねた。

 すると土門長老は、笑みを浮かべながら答える。

「ウム。実を言うと、この修験霊導の儀というのが、一番、他の修祓者達の目に留まるのじゃ。そして昼も言ったが、位階 従六位からは五つの儀式が免除される。という事は、日比野君の秘密がばれるリスクを軽減させる事になるのじゃよ。そういう訳じゃから、気にせぬでも良い。ヒョヒョヒョ」

「そ、そういう事だったのですか。それに関しては、御2人に従うほかありませんので、よろしくおねがいします」

 土門長老が陽気な雰囲気で俺に説明してくれた事もあり、俺も気楽な感じで儀式結果を受け止めた。

 そしてまた丁寧に頭を下げて、お願いしたのである。もう今日は、2人に頭を下げっぱなしだ。

 と、その時。

 一将さんが、腕時計に目をやる。

「さて、それではソロソロ向こうの片付けも終わっている頃だ。我々も広間へと行こう」

 という訳で、俺達はこの部屋を後にするのだった。


 俺達が広間に行くと、もう全員が集まっていた。

 広間入口の壁際に目を向けると、儀式で使った術具類がケースや鞄等に収納され、綺麗に整理されていた。

 勿論、床に描かれていた霊波遮断の術式も撤去済みである。

 そして、儀式の痕跡もなく綺麗になった広間中央では、皆が和気藹々とした雰囲気で賑やかに話をしている最中であった。

 俺もその中に混ざるべく、皆のいる中央へと向かう。

 するとそこで瑞希ちゃんと沙耶香ちゃんが俺に気付く。

 それと共に、俺の方へと歩み寄ってきたのであった。

 瑞希ちゃんは笑顔を浮かべると労いの言葉を俺にかける。

「日比野さん。お疲れ様でした。儀式の時はカッコよかったですよ。……少し、可笑しいときもありましたけど」

 続いて沙耶香ちゃんも。

「お疲れ様でございました、日比野さん。それにしても流石ですね、言霊の術には私もビックリしました」

「ハハハ、そうかい? さっき立会人の2人からも、霊力の扱いと言霊の才能が俺にはあるって言われたよ。いまいち実感が湧かないけどね」

 沙耶香ちゃんの質問に内心ドキッとしながらも、俺は早速、土門長老から言われた言い訳を発動した。

 俺の返答を聞いた沙耶香ちゃんは、ニコリと微笑むと言った。

「私もそう思いますよ、日比野さん」

 2人とそんなやり取りをしていると、他のメンバーも俺に気付く。

 その中の一人、一樹さんも俺に声を掛けてきた。

「お疲れ、日比野君。ところで、父上達とは何を話してたんだい?」

「立会人の2人からは、とりあえず、儀式結果についてと、その後の事を色々と教えてもらってました。自分には知らない事が多すぎますからね。ハハハ」

「ああ、そういった話か……。まぁ色々と大変だとは思うけど、頑張ってくれ。俺も力になるからさ」

 と言うと、一樹さんは俺の肩にポンッと手を置いた。

「ありがとうございます、一樹さん」

 俺が一樹さんに礼を言ったところで、宗貴さんと明日香ちゃん、そして詩織さんも俺の前にやってきた。

 そして宗孝さんが爽やかに言うのである。

「お疲れ、日比野君。しかし、君……特定の分野は凄いね。今も皆と君の儀式について話してたところなんだよ。ハハハ」

「ハハハ、そうだったのですか。実は土門長老にも同じ事を言われました」

 俺は後頭部を掻きながら、照れたようにそう答える。 

 すると今度は明日香ちゃんが、顎に手を当てた難しい表情で俺に言うのである。

「アンタって、霊力操作と言霊の術だけは突出してるわね。他の霊能は並か並以下なのに……変な奴」

 話の後半部分を聞いたときは内心『ほっとけ!』と思ったが、俺は愛想笑いを浮かべて返事する。

「アハハ、そうかい」と。

 続いて詩織さんも俺に労いの言葉をかけてきた。

「お疲れ様でした〜、日比野君。慣れない事をしたんで疲れたでしょう?」

 詩織さんは、非常におっとりした雰囲気の女性で、話し方も常にゆるくマイペースである。

 その為、詩織さんの周りだけ時間の流れが緩やかに感じるのだ。

 見た目も中身も100%癒し系の女性である。

 まぁそれはさて置き、俺は返事をする。

「はい、ちょっと疲れました。でも、これから一つ一つ覚えていくしかないですね。ハハハ」

 とその時であった。

 一将さんの大きな声が広間に響き渡るのである。

「お〜い、それでは全員集まってくれッ」

 その言葉を聞いた俺達は、一将さんと土門長老の前に行くと、横に整列する。

 一将さんは、全員集まったところで口を開いた。

「今日の予定はこれで終わりとなるが、明日からは本格的な訓練が始まる。そういった訳なので、皆が気を引き締めてこれからの訓練に当たるよう、よろしく頼む」

【はい】

 俺達は声を揃えて返事をする。

 とそこで、一将さんは隣にいる土門長老に視線を向ける。

 そして言った。

「それでは最後に、土門長老からお話がある」

 土門長老は一歩前に出る。

 すると、俺達の顔を左から順に見た後、口を開くのだった。

「オホンッ。え〜、今日の修験霊導の儀により、皆も参加者の基礎能力等が少しは分かった事と思う。日常生活における人間の能力というものは、人それぞれで千差万別じゃ。無論、それらは霊能力に関しても同じである。皆には、この儀によって得た事を明日からの合同訓練に是非生かして貰いたい。まぁそういう訳で、儂からは以上じゃ」

 土門長老は話終えると後ろに下がる。

 そこで一将さんが皆に言った。

「この後だが、今日は第一日目という事もあるので、参加者全員をもっと良く知ってもらう為に、簡素ではあるが我等のマンションにて親睦会を開きたいと思う。それでは一旦、解散だ。後、忘れ物がないように注意してくれ。以上である」

 一将さんの言葉が号令となり、俺達は早速、私服に着替える。

 それから持ってきた荷物を最終チェックすると、この神社を後にしたのであった。



 ―― それから五日後 ――



 今の時刻は午後10時頃。

 時折、やや強めの南風が吹き付ける所為か、3月になったばかりとはいえ、いつもと比べると今夜は暖かい気温となっていた。

 そんな生暖かい南風を浴びながら、俺は空を見上げる。

 空は満月が浮かんでおり、その月明かりが周囲の景色を薄気味悪く浮かび上がらせていた。

 ぐるっと周囲を見回すと、建設中の大きな建物や何かの倉庫、そして十数軒の民家が月明かりに照らされ、視界に入ってくる。

 フェンスで周囲を囲まれた工事現場には、中津総合病院 新築工事という大きな看板が掛けられていた。

 どうやら、あそこに見える大きな建物は病院になるようだ。勿論、今は無人で工事機械も動いていない。

 だが、吹き付ける風の影響で、ガチンッとかキンッとかいう金属同士の衝突音が、時折、聞こえてくる。

 その為、無人の筈の工事現場自体が、得体の知れない不気味な建物に見えてくるのである。

 また、やや離れた所に見える民家の窓からは、幾つかの明かりが漏れているのが確認出来る。

 それらの明かりは、この薄気味悪い雰囲気を少しだけ和らげる役目をしており、俺はそれが視界に入ると少しホッとした気分になるのだった。

 とまぁそんな訳で、俺は今、高天智市の隣にある中津市のとある廃工場に来ている。 

 此処は、中津市の中心市街地からやや外れた所にある地区で、建物がそれ程密集していないところだ。

 因みにこの工場は、操業停止してからかなりの年月が経っていそうな縦長の建物である。しかも結構な長さだ。

 入口部分に視線を向けると、機械の部品みたいな物や割れたガラス等が散乱しており、非常に雑然とした光景が目に飛び込んでくる。

 建物の壁には安全第一と書かれた看板が掛けられており、またその隣には、何とか鉄工所と書かれた、名前部分が錆びて読めない看板が掛けられていた。

 どうやら操業時は鉄工所だった様である。

 と、その時。

 そんな風に周囲の様相を眺めている俺に、もう一人の同行者が声をかけてきたのだった。

「日比野ッチ、人払いの結界も施した事だし、早く工場の中へ行くわよ」

 今日の修祓同行者、明日香ちゃんである。

 合同訓練が始まってからは、毎日日替わりで、夜の修祓パートナーが変わるのだ。

 明日香ちゃんは俺と同じ修祓霊装衣を着ており、手には懐中電灯を持っている。

 腰には明日香ちゃんの修祓武具である、紫色の縄の両端に霊石や槍状の刃物が取り付けられた武器が装備されていた。

 聞いたところによると、羂索けんじゃくと呼ばれる武具らしい。かなり広い間合いを取れる武具だ。

 しかし、他の術具類が見当たらないので、俺は返事をすると共に問い掛ける。

「それはいいけど。ところで明日香ちゃん、修祓準備はもういいの? 随分、身軽そうだけど……」

 すると明日香ちゃんは、憮然とした表情で答える。

「当たり前じゃない。私はアンタよりも、この業界に長くいるんだから、抜かりはないわよ。アンタこそ、ちゃんと準備はしたの?」

「まぁ、それに関しては大丈夫だよ。霊刀以外の必要な物は、この術具袋に入れてきてあるからね」

 俺はそう言うと、腰に装備したウエストポーチ状の術具入れを指差した。

 それを見た明日香ちゃんはそっけなく言う。

「あっそ。じゃあ行くわよ」と。

 それだけ言うと、明日香ちゃんは廃工場の中へと入って行くのであった。

 やっぱり、まだトゲトゲとした感じがあるなぁ……。

 などと思った俺は、フゥとやや溜息を吐きながらも懐中電灯を手に取る。

 そして懐中電灯のスイッチを入れると、明日香ちゃんに続くのだった。


 廃工場の中に入った俺達は、真っ直ぐに工場内を進んで行く。

 工場内は明かりが無い為、懐中電灯を頼りに進んで行くしかない。

 俺は足元や天井等を重点的にライトアップしながら歩を進める。

 中は思ったとおりの惨状で、操業時の金属残骸が其処彼処に転がっていた。それらは全てが赤く錆びているので、パッと見は土の塊と見間違うくらいである。

 また、周囲の壁に目を向けると所々に穴が開いてるので、月明かりと風がその穴からお裾分けするかのように入ってくる。そして、それと共に工場内の埃が舞い上がるのだ。

 そんな訳で俺は、口と鼻を左腕で覆いながら、前に進むのである。

 因みに、修祓依頼の内容は、工場内に住み着いた悪霊を全て祓うことだが、何体いるのかまでは分からないとの事であった。

 まぁ人的被害もそれほど酷い状況では無いみたいなので、とりあえず、俺達だけでこなせるであろうと、土門長老や一樹さんが判断したわけである。

 恐らく2人は、俺の霊的感知能力をこの間の儀式で知ったので、その辺は大丈夫と思ったのだろう。いや、そうとしか考えられん。

 実は、この廃工場の外には一将さんと土門長老が待機している。

 一将さんが車を運転をして俺達をこの現場に連れて来たのであるが、ここに向かう前に土門長老が「日比野君。明日香はまだ一人で修祓をした事がない。じゃから頼んだぞい」と俺に小声で耳打ちしてきたのである。

 確実に、何かあったときはよろしく頼む、といった感じだったので、先ず間違いないだろう。

 という事なのであるが、勿論、俺はもう既に何体の悪霊がいるのかを把握している。

 工場奥に3体とその手前上方に4体の計7体の悪霊が、俺に内蔵された高感度悪霊探知レーダーで捉えているのである。

 その為、前を歩く明日香ちゃんに、俺は悪霊の数を告げるのである。

「明日香ちゃん。この奥に3体と、その手前上方から4体の負の霊波が感じられるから、気をつけてね」

 すると明日香ちゃんは立ち止まり、やや怒った口調で答える。 

「そんな事、言われなくても分かってるわよッ。私の事を心配するより、日比野ッチの方が気をつけた方がいいじゃない? この間の儀を見た感じじゃ、実戦儀式は言霊以外は大した事ないみたいだったし」

「ハハハ、そんなに怒らないでよ。とりあえず、お互いに気をつけようって事さ」

 俺はそんな明日香ちゃんを宥めるように、愛想笑いを浮かべて爽やかにそう答える。

「フンッ、行くわよ」

 だが明日香ちゃんは、そんな俺を無視して前へ歩き始めたのである。

 なんか知らんが、明日香ちゃんとは上手くいかんなぁ……。

 やっぱ、天目堂での一件が、まだ尾を引いてるのかも。

 まぁいいや。とりあえず、あまり刺激しない様にしよう。

 そんな事を考えながら、俺も歩を進めるのである。


 それから暫く進むと、上方から俺達に迫る赤い半透明の悪霊が現われたのだ。

 悪霊の接近を確認した俺は、即座に明日香ちゃんに言う。

「上だ! 明日香ちゃん」

 そう告げると共に、俺は背中の刀を抜くと中段に構える。

「イチイチ言わなくても分かってるわよッ」

 明日香ちゃんはそう言うと、武器には手を掛けず、利き腕をやや前に出して猫足立ちの構えをとるのであった。見た感じは空手の構えのようだ。

 見極めの儀式の時は、腰の武器ばかりを使ってたので分からなかったが、結構、堂に入った構えに見えるので、普段は体術がメインの修祓法なのかも知れない。

 俺はフトそんな事を考える。

 まぁそれは兎も角、今は悪霊である。

 俺は斜め上の前方から襲い掛かってくる2体の悪霊を見据えると、刀に霊力を籠めた。

 霊力が流れた刀は、白く発光する。 

 そして刀の間合いに入ってきた1体を一刀の元に斬り伏せるのである。

 それから一旦、後ろへさがり、もう一体への迎撃体制を整える。

 今度は俺の左真横から悪霊は襲い掛かってきた。

 俺はすぐさま左側に90度向きを変えると、迫り来る悪霊に向かい袈裟に斬り下したのだった。

【ギャァァァ】

 という断末魔の悲鳴と共に、悪霊は消滅した。

 悪霊が消滅したのを見届けた俺は、明日香ちゃんの方へ視線をむける。

 すると明日香ちゃんの方も、悪霊を倒し終えたところのようだ。

 俺は明日香ちゃんに声を掛ける。

「流石だね、明日香ちゃん。腰の武器を使わずに体術のみで祓うなんて」

「あ、当たり前じゃない。アンタの変な踊りと一緒にされても困るわ。つ、次、行くわよ」

 明日香ちゃんは、やや照れた様な仕草をしつつもそう答えた。

 そして工場の奥へと足早に進み始めるのである。

 俺は今の明日香ちゃんを見て、とりあえず、こう思った。

 どうやら、あまり素直な性格ではないようだ、と。

 そんな事を考えながら背中の鞘に刀を納めると、俺も奥に向かうべく歩を進めるのであった。


 更に奥へ進んで行くと、左右の壁際に大きな物体が視界に入ってきた。

 俺はそれらに向かって懐中電灯の光を当てる。

 すると大きな物体は、どうやら加工用のプレス機械の様である。

 それらは錆びや油にまみれており、使い物にならないのは容易に見て取れる状態であった。

 そしてその周辺に、悪霊が2体漂っているのである。

 因みに悪霊は、まだ俺達の存在に気付いていない。

 明日香ちゃんは、機械の周囲に漂う2体の悪霊に目を向けると、俺に言った。

「日比野ッチは手を出さなくていいわ。2体だけのようだし、私一人で十分よッ」

 それを言うや否や、悪霊に向かって走って行くのである。

 俺は慌てて明日香ちゃんに言う。

「ちょっ、まだ外にも1体……って聞いてねぇな。フゥ、仕方ない」

 俺はとりあえず、外にいる1体の悪霊に意識を向け、術具入れから破邪の符を一枚取り出した。

 それから少し明日香ちゃんに近寄り、戦況を見守るのである。

 明日香ちゃんは凄い勢いで悪霊に飛び掛り、霊力の籠もった蹴りと掌底打ちで、あっという間に悪霊2体を殲滅する。

 悪霊2体をあっさり祓った明日香ちゃんは、霊圧を下げると俺に向かって言うのである。

「さあ、帰るわよ。日比ッ!?……」

 と、その時。

 明日香ちゃんの頭上から、1体の悪霊が襲い掛かってきたのである。

 予想外の所から現われたので、明日香ちゃんはやや焦った表情をする。何故ならば、今からじゃ霊圧を上げても間に合わないからだ。

 だが、さっきから3体目の動きに注意していた俺は、急ぎ明日香ちゃんに近付く。

 そして用意しておいた破邪の符を取り出し、悪霊へ向けて秘めた力を解放したのだった。

【シャァァァ】

 符の霊力をモロに浴びた悪霊は、悲鳴と共に消え去る。

 それを確認した俺は、明日香ちゃんに言った。

「大丈夫? 明日香ちゃん」と。

 だが明日香ちゃんは、そんな俺を見るなり、怒った口調で言うのである。

「し、知ってたわよ。ま、真上にもいるって事くらい。べ、別に日比野ッチに来てもらわなくても、私一人で祓えたんだからッ!」

「そ、そんな怒らなくても。お、落ち着いてよ」

 何で逆ギレされるのか分からないが、俺はとりあえず、宥めるように言った。

 だが、そんな俺を無視するかのように、明日香ちゃんはクルッと回れ右をして、出口の方へと歩き始める。

 そして俺に顔も向けず、言うのである。

「これで終わりなんだから、帰るわよ」と。

「フゥ……」

 俺はやや溜息を吐きつつ、明日香ちゃんの後を追う。

 その途中、俺は考えるのだ。『今時の女子高生って難しいなぁ』と……。

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