参ノ巻 ~始動
【 壱 】
あの御迦土岳での恐ろしい体験から2日後の話だ。
超危険な布都御魂剣を実家に置いておくのが怖くなった俺は、1日だけ実家に滞在して、翌日には高天智市にある自分のアパートに舞い戻ってきた。
因みにだが、刀は実家にあった幅の広い布を何重にもグルグルに巻いて、その上から丈夫な紐で亀甲縛りの如く、細かく縛った状態になっている。
家族は、俺の様子がいつもと違っていたので不思議がっていたが、俺は刀の心配の方が勝っていたので、それらは無視した。
本当はその日のうちに高天智市に帰りたかったのだが、色々と疲れていた事もあり、一晩だけ実家に泊まる事にし、翌朝、1番早いバスで俺は帰る事にしたのだ。
バスに揺られている間は、はっきり言って生きた心地がしなかった。
朝一とはいえ、多少は人が乗っていたからである。
それだけじゃない。周りの人が時折、布都御魂剣に目を向ける事もあったからだ。
そんなわけで、ヒヤヒヤもんの道中だったのだが、何事もなく自分のアパートに帰って来られたので、この時の俺は部屋に入るや否や、安堵の息を吐き、大の字になって床に寝転がったのであった。
話は変わるが、俺の部屋は、ワンルームで面積が15平方mと少し狭い。刀を隠せる場所もクローゼットくらいしかなかった。
その為、俺はクローゼットの奥に、渋々、布都御魂剣を仕舞う事にしたのである。
安易な隠し場所の為、不安はぬぐえないが、現状だと此処しかないので、もう諦めるしかないのだ。つーわけで話を戻そう。
朝から大慌てで帰ってきたので、流石に草臥れた俺は、剣を仕舞った後、エアコンのスイッチを入れ、蒸し暑い室温を下げる事にした。
そして冷蔵庫の中からキンキンに冷えた麦茶を取り出して一息入れ、少し気分も落ち着いた所で、鬼一爺さんと今後の方針について話し合う事にしたのだ。
「さて、鬼一爺さん。これからの事なんやけど、俺は如何して良いか分からん。だから、とりあえず、鬼一爺さんに任すことにするわ」
『まぁそうじゃろうな。我の方も、最初に教えねば成らん事はもう決めておるしの』
「へェ、そうなんだ。で、最初はなにするの?」
『今のお主は、まず霊力の扱いを覚えねばならぬ。符術や霊術等の全ての術の基本じゃ。これが出来ねば術は使えぬ。しかし、おぬしの場合は他の人達と違い、『幽現なる体』の負の部分を一刻も早く克服せねば成らぬ立場でもある。そこでじゃ、当面は符術と霊力を平行しながら鍛えて行く方法でいくつもりじゃ』
「ふ~ん……で、具体的にどうすればいいんだ」
『涼一、目を閉じよ』
俺は鬼一爺さんに言われたとおり目を閉じた。
『まずはお主に、霊力というものがどういうものかを感じてもらおうと思う。それが手っ取り早いからの』
「おう、わかった」
『では、封印石の前に立った時と同じ様に、大きく息を吸い、大きく息を吐く呼吸を繰り返してくれ。但し、今度は鼻から吸って、口から吐く様にじゃぞ』
昨日の嫌な出来事が、また脳裏に過ぎった為、俺は即座に訊ねた。
「ま、まさか……また俺に憑依するのか?」
『安心せい。幽現なる体に目覚めたお主には、もう憑依する出来ぬ。そんな事より、はよう始めてくれぬか』
「ああ、分かった」
鬼一爺さんに言われたとおり、俺は大きく深呼吸を始めた。
すると、呼吸を始めてから2分程経った頃からだろうか。
俺の鳩尾の辺りから下腹部にかけて、妙に熱く感じる様になってくると共に、何かが渦巻いている風にも感じるようになってきたのだ。
そして、それが次第に大きな波となって、体全体に広がっていくような、そんな不思議な感覚に捉われたのである。
鬼一爺さんの声が聞えてくる。
『どうじゃ、なにか熱いものが渦巻いてるように感じるじゃろ?』
「ああ、不思議だけど……確かにそんな感じがするよ」
『これが霊力の流れというやつじゃ』
「ところで、鬼一爺さんは俺に一体何をしたんだ?」
『我は今、お主の霊体に刺激を与えて霊圧を少しばかり上げておるだけじゃ。こうすれば、今のお主でも感じられるじゃろうからの。我も憑依は出来ぬが、刺激を与えるくらいは出来るというわけじゃわい。さて、この辺にしとこうかの』
鬼一爺さんが刺激をするのをやめた途端、俺の身体から熱く渦巻いていたものが徐々に終息していくのが分かった。
またそれと同時に、どこからこの流れが生みだされていたのかも、俺は何となくだが分かった気がしたのだ。
「鬼一爺さん。何となくやけど、どこから霊力が湧いてくるのか分かった気がした。霊力は、身体の中心から生みだされ、螺旋のように渦巻いて広がっていくんだな」
『おお、そうじゃろ。やはり、自分の身体で感じるのが一番わかりやすいからの』
「この湧き出る部分に意識を集中させて、霊力を操るのか?」
鬼一爺さんは首を振ると言った。
『まぁ、その方法だけでもいつかは出来るようになるかも知れんが、最初からそれだと要領が悪い。最初の内は補助する事も兼ねて呼吸法も一緒に取り入れてやるべきじゃな』
「呼吸法……。さっきみたいなのか?」
『あんなのは呼吸法の内に入らん。あれは、我が霊体に刺激を与えるのをやりやすくする為にして貰っただけじゃ』
「ま、鬼一爺さんがそう言うんならそれに従うよ。こっちは完全に素人だしな」
『今日はさわりの部分だけじゃ。明日から本格的にやってゆくからの』
「おう」――
この後、鬼一爺さんから軽く符術の基本も教えてもらった。
それでこの符術というのが、俺の中で目から鱗だった。
というのも、この類の呪符というものを、俺は今まで、胡散臭い紙切れ程度にしか思っていなかったのだが、鬼一爺さんが説明してくれた符術の理論は、俺が大学で学ぶ電気の理論に似ているところがあるので、俄然、興味が湧いたのである。
で、この符術だが、大雑把に言うと、一枚の符の中で霊力を使う回路を構築して結果を導く術らしい。つまり、回路図そのものが術式なのである。
そして、それらの中には、霊力そのものを一杯に溜め込んでおく電池みたいな役割の術式もあるそうなのだ。
この説明を聞いた時、符術は俺にピッタリな術のように思えた。なんとなく、電気理論と通じるところがあるからだろう。
因みにだが、符に漢字で色々と書いてあるのは、あまり術には関係ないらしい。寧ろ符の模様が、その符術の特性を表すそうである。
とまぁこんな感じで、色々と術の事をさわりではあるが教えてもらい、この日は終わったのだった。
【 弐 】
高天智市に帰ってきてから一週間後の話だ。
その日の午前11時頃に、突然、大学の友人であるヤマッチという奴から携帯に連絡があった。ヤマッチとはニックネームで、本名は山崎義孝という。
それで電話の内容だが、「暇なら、今から昼飯を食べに行こうぜ」という他愛ない話だった。
いつもの俺ならば、軽くOKと返事をしただろう。
しかし、今の俺は、映画6センスのコール少年以上に幽霊が見えてしまう体質になっていたので、断ろうと思っていた。
だが、鬼一爺さんがそこで『たまには外に出ろ』と言うので、渋々ではあるが、「行く」と返事をしてしまったのである。
そんなわけで俺は、白地のTシャツとジーンズという簡単な服装に着替えた後、待ち合わせになっている高天智中央公園に向かう事になったのであった。
勿論、同行者として鬼一爺さん憑きである。
外は炎天下で、気温30度以上はあろうかという暑さだった。
おまけに、路面のアスファルトからの熱気も容赦なく上がってくる。
この辺りは、都会の様なヒートアイランド現象は無いが、それでも暑いものは暑いのである。風でも吹いてくれればいいのだが、今のところ吹く気配はない。つまり、アパートを出て早々、帰りたい衝動に駆られるくらいの猛暑日というやつだ。
(はぁ……風でも吹いてくれりゃいいんだが……仕方ない、とっとと、待ち合わせ場所に向かおう)
高天智中央公園は、俺のアパートから、徒歩で大体15分くらいの所だ。
巨大な噴水が特徴の公園で、夜になると噴水がライトアップされて『幻想的な雰囲気を出す公園』として、何かの雑誌に載っていたのを憶えている。
まぁよく言うデートスポット的な場所であった。
因みにだが、俺は彼女がいないので、それの関係では行った事はない。
と、まぁそんな事はさておきだ。
話は変わるが、実は『幽現なる体』になってしまってから、この一週間。俺は極力、外出は控えるようにしていた。
理由は言わなくても分かるだろう。
勿論、幽霊が見える事と、あの刀の存在だ。
しかし今回は、閉じこもってばかりいるのを見かねた鬼一爺さんが、出かけるのを強く勧めてきたので、俺は重い腰を上げたというわけである。
またそれに加え、鬼一爺さんが『もし悪霊が出たとしても、我が追い払ってやる』と言ってくれたのも大きいだろう。というか、それが重い腰を上げた動機の1番の理由なのだ。
だって怖いんだもんよ、幽霊が……。
まぁそんなわけで、久しぶりに外に出てみたわけだが、この時の俺は、いつもよりやや強張った表情をし、よそよそしく歩いてたに違いない。
以前の俺ならば、街を歩いていても、あまりキョロキョロとするような事は無かったが、やはり、見えなくていいものが視界に入る為、どうしてもそうなってしまうのである。
霊の見えなかった毎日が、最近、懐かしく感じる今日のこの頃といったところだ。はぁ……1週間前に戻りたい……。
俺は現世と幽世に目を向けながら、連日のように行われる鬼一爺さんの霊界話を思い返していた。
数日前、鬼一爺さんはこんな事を言っていたのだ。
『現世と幽世は、近くて遠い世じゃ』と。
こんな体になってしまったので、嫌がおうにも理解せざるを得ない言葉であった。
今の俺の目に映る、世界の表と裏……これが、鬼一爺さんの言う『幽現なる者は、世界の理知る』という事なのだろう。
だが鬼一爺さんはその後、天国や地獄は存在しないような事を言っていたのである。なんでも、悪人だろうが善人だろうが、死ねば行き先は1つらしい。要するに、肉体を持つか持たないかで、住む世界が変わるのだそうだ。
なので、それを聞いた時、俺は少し拍子抜けしてしまったのである。
俺はそれから、「じゃあなんで、神や鬼の存在が伝承としてあるのか?」とも訊いてみた。
するとこんな答えが返ってきたのだ。
『人々の魂が放つ善と悪の思念が大地の地脈を駆け巡り、それらが威霊となり、格を持った霊として地上に現れる』と。
威霊とは別名、神霊とも呼ばれるそうで、それらが神や鬼として、人々の伝承に残ったというのが真相のようである。
というわけで、話を戻そう。
アパートを出てから約15分、俺はようやく高天智中央公園に辿り着いた。
というわけで、俺は早速、ヤマッチの姿を探すことにしたのだ。が、ヤマッチはすぐに見つかった。
公園東側にあるベンチで、偉そうにふんぞり返って座っていたので、すぐにわかったのである。
因みにだが、今日のヤマッチは、青いTシャツに黒のハーフパンツという出で立ちであった。中々に涼しい着こなしである。
そんなヤマッチの隣には2人の女性の姿があった。が、しかし……俺の目はそれに加え、もう1人の姿を捉えていたのである。
そのもう1人とは、勿論、幽霊の事である。
見た感じは、中年のおじさんのようだ。悪意のある幽霊ではない。多分、普通の幽霊なのだろう。この立ち位置からして、どうやら、3人の関係者のようである。まぁ流石に誰のかは分からないが……。
(幽霊憑きかよ……つか、誰に憑いてんだろ)
などと考えていると、ヤマッチが俺を見つけ、大きく手招きしてきた。
「オ〜イ、日比野ぉ。コッチだ、コッチ」
「あ、ああ、すまんすまん」
そして、俺は幽霊おじさんに若干ビビりつつ、ヤマッチ達の所へと向かったのである。
3人の前に来たところで、ヤマッチが口を開いた。
「おお、元気にしてたか? お盆に電話したけど、携帯通じんかったから心配してたんだ」
「ああ、実家に帰った時に気付いたんだが、実は携帯の充電器を忘れてきてな。ナハハハ……」
「なんだそうだったのか。日比野ってたまにそういう時あるよなぁ」
(ハハハ……幽霊が外に一杯いるので、出たくなかったから電源切っていました……とは、さすがに言えん)
俺はそこで、ヤマッチの隣にいる女の子2人に視線を向けた。
「ところで、こちらの方々は?」
「ああ、そうだった。この子達は高校の時の同級生だ。紹介するよ。左が中野亜衣ちゃんで、右の子が高田琴美ちゃん。2人ともこの間の同窓会で意気投合してね。それで呼んでみたんだよ、そしたら来るって言ってくれたからさ」
卒業してからまだ半年も経ってないのに何で同窓会やねん!っという、突っ込みを入れたくなる衝動を抑えながら、俺は2人に爽やかな挨拶をした。
「そうなんだ。はじめまして。中野さんに高田さん。俺、日比野って言います。宜しく」
「中野です。宜しくね。日比野さん」
中野さんは、小柄で可愛らしく、茶色く染めたショートヘアの子だ。
七分丈のデニムに黄色のTシャツをきており、活発そうな雰囲気をもつ女性であった。
続いて、もう1人の高田さんという子がニコヤカに挨拶をした。
「こちらこそ、あなたが日比野さんですか。この間の同窓会で山崎君から日比野さんの名前が出てきたんでどんな人だろう?って思ったんですよ」
高田さんは長い黒髪が特徴で、白いワンピースと七分丈のデニムといった着こなしをした子であった。
服装は中野さんと似ているが、言葉のニュアンスと雰囲気は中野さんとは対照的で、どことなく落ち着いた感じの女の子である。
まぁそれはともかく、『余計な事言ってないだろな山崎ぃ』と思いつつ、俺は訊いてみた。
「へぇ〜、例えば?」
「物凄い釣好きな人って聞きましたよ」
「ああ、なんだ。その事か」
いつもの適当なヤマッチを見ていたせいか、何か余計な事を言ったんじゃないかと少しドキドキしていた。が、杞憂だったみたいである。
と、その時。
丁度そこで、俺はヤマッチと高田さんの間にいる、幽霊おじさんと目が合ってしまったのだ。
これを見る限りだと、やはり、向こうにも俺の姿が見えているようである。とりあえず、話しかけるような事は止めておこう。触らぬ神に祟りなしだ。
まぁそれはともかく……。
「ところで、これから何処の店に行くんだ?」
「オウ、そうだった。2ヶ月程前にこの近くオープンした【エ・ブゥオナ!】ってイタ飯屋に行こうと思うんだ。結構旨いらしいぜ」
「ああ、そういえば。近くに出来たなそんな名前の店が」
俺も場所は知っていたが、店の中には入った事がない。
「じゃ行こうか。もうそろそろ昼になるし」
「そうだな」
そして俺達4人+2人は、イタ飯屋へと向かったのである。
この学園町にある高天智中央公園の辺りは、繁華街からは若干離れているところであった。
その為、飲食店とか飲み屋はやや少なめの地区だ。とはいっても、それなりにはあるが。
まぁ一応この辺りは、学園町という名前が付くくらいに、大学や小・中・高校等の教育機関、そして予備校等が集まる場所なので、こればかりは仕方ないだろう。
だが、学生はわんさかいる地区なので、学業系を対象にした店はかなり多い地区である。
その為、学習塾等も沢山あり、そこで夏期講習をする高校生や予備校生の姿が、今は所々に見受けられるのだ。
俺はそんな高校生達の姿を見ている内に、懐かしさのようなモノが込み上げてきた。まだ1年しかたってないのに、不思議なもんである。
そんな街並みに目を向けた後、俺は次に、鬼一爺さんへと視線を向けた。
すると鬼一爺さんは、沢山の人々や建物等に驚きながら、俺の頭上を飛んでいるところであった。
この爺さんは今、ある意味、浦島太郎状態なのだろう。まぁ分からんでもない。実際それに近いし。
それから、俺は幽霊おじさんに視線を向けた。
おじさんは今、高田さんの隣に寄り添うように憑いているところであった。
この位置関係を見る限りだと、どうやら高田さんに関係する幽霊のようである。とりあえず、余り触れないようにしよう。面倒事は御免だ。
それから程なくして、目的のエ・ブゥオナ!に到着した俺達は、早速、中へと入った。
エ・ブゥオナ!は白と黒を基調としたシックな感じの店であった。
正面玄関にある大きな看板には、イタリアの国旗をモデルにした緑・白・赤の背景の上にE buona!と書かれていた。
モロにイタ飯屋という外観である。
店内はイタリアンらしく、シックではあるが、丸いデザインを取り入れたセンスの良い様相をしていた。
また、オープンしてからそんなに経ってないこともあり、壁やテーブルに装飾品等は真新しく光り輝いているのである。
つーわけで、全体的に清潔感が漂う店であった。おまけにトマトソースの良い香りもする。
あと、照明などはわざと暗めにしているのか、やや店内は薄暗い感じであった。
エアコンも隅々まで効いており、外と比べると、別世界のような室温だ。もうこれだけで、生き返った気分である。
まぁそれはさておき、店内に入った俺達は、まず空きテーブルを探した。
すると奥の方に、丁度4人用のテーブルが空いていたので、俺達はそこにしたのだ。
テーブルに備え付けられた椅子に腰かけたところで、ここの女性スタッフがオーダーを取りにやって来た。
そこで、各々が自分の食べたいものを注文する。
スタッフが去ったところで、ヤマッチが俺に話かけてきた。
「結構良い店だな。まぁそれはともかく、この間の同窓会でさ、亜衣ちゃんや琴美ちゃん達のグループと一緒に、キャンプをしようって話が持ちあがったんだよ。それで、日比野にも声をかけておこうて思ってな。どうだ? 結構そういうの好きだろ日比野って」
「へぇ〜、キャンプかぁ……。いいなぁ」
今までの俺ならば、この提案に迷わずイエスと答えただろう。が、今の俺は事情が違うのだ。その為、またも選択に迷いが出るのである。
俺はそこで、鬼一爺さんの方にチラッと視線を向けた。
すると鬼一爺さんは首を傾げていた。
恐らく、キャンプという耳慣れない単語が分からないせいだと思う。
まぁそれはともかく、俺はヤマッチに言った。
「で、スケジュールとか場所とかはもう決まってるの?」
「一応、9月の第一週位に予定してるんだ。場所は高天智市のとなり中津市の『中津の森キャンプ場』って事で話が進んでる。そのへんて何も予定はないだろ?」
「まあ、予定は無いけど……。あっ、スマン。ちょっとお手洗いに行ってくる」
そして俺は、鬼一爺さんに相談を持ち掛ける為、トイレに直行したのである。
店の奥にあるトイレに来た俺は、誰もいないのを確認してから、小声で鬼一爺さんに話しかけた。
「オイ、鬼一爺さん」
『ンン、どうしたんじゃ、涼一?』
「実はさっきの話なんだけど、気になることがあってさ――」
とりあえず俺は、キャンプのことや幽霊の事、そして部屋に置いてある刀の事等の心配な点を説明する。それらを踏まえ、鬼一爺さんの答えを求めたのである。
鬼一爺さんは言う。
『なるほどの。問題は布都御魂剣じゃな。余り長くああして置く訳にもいくまい。一応じゃが、一つ方法がある』
「マジか?」
『うむ。今、お主に教えている符術の種類の中に、物を空間に保管する術があるのじゃ。余り大きな物は保管できんがの。それを使えば、この問題は解決できよう』
話を聞く限りだと、凄い術と言う感じに聞こえる。
俺は驚きと共に、ある懸念もあったのでそれを問いかけた。
「へぇ〜、すごいな。そんな事もできるのか。でも、今の俺にそんな事出来るのか?」
『割と基本的な構成の術じゃから大丈夫じゃろ。じゃが、もう少しお主が精進するのが前提じゃがな』
とりあえず、俺でももう少し頑張ればできるかもしれない術のようだ。
俺は言う。
「ま、まぁそれは分かってるよ。とりあえず、行ける目処は立った訳か。じゃあヤマッチに、そう返事しておこうかな」
と、結論した俺は、トイレを後にしたのである。
鬼一爺さんと会談を終えて席に戻った俺は、ヤマッチに大丈夫だと返事をする。
ヤマッチの方も、詳しいことが決まったらまた連絡をするという事でこの話はおわった。
そして、幾分か気分が楽になった俺は、頼んだ旨そうなカルボナーラがやってくると、久しぶりの外食を堪能したのだった――