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霊異戦記  作者: 股切拳
第弐章  霊験の道
18/64

拾八ノ巻 ~五行相関の符術

   【壱】



 今、俺の目の前には、面・胴・籠手・垂れ・竹刀といった武具をフル装備した田島さんが、『動かざる事山の如し』といわんばかりに、微動だにせず竹刀を中段に構えている。

 その様は非常に威圧的であり、田島さんが巨体という事も相俟って、壁のようにも見えるのだった。

 しかし、そんな事よりも、俺にはこの対峙が始まってからずっと気になってる事があった。

 それは何かというと、目の前にいる田島さんを見れば見るほど、どこで防具を手に入れたのだろうか? と考えてしまうからである。

 何故ならば、どう見てもこの田島さんサイズの防具というのは、既製品ではないように思えたからだ。嫌、確実に特注だろう。需要が物凄く限られてくる。明らかに田島さんのような体型は少数派だからだ。

 それを裏付けるように、俺の目はもう一つの事実を捉えていた。それは田島さんの防具だけが妙に新しいからである。見るからに新調した防具なのだ。

 それらの事実を繋ぎ合わせていけば自ずと答えは見えてくる。

(謎は全て解けました。田島さん……貴方に合う防具が無かったのですね。心中、お察しします)

 なぁんて事を考えながら、俺は模擬試合で田島さんと対峙しているところなのであった。

 今回、この模擬試合をする事になったのは、言うまでもなく姫会長の指示だ。

 大会までもう一ヶ月を切った為、今月に入ってからは実戦で、剣道を覚えるカリキュラムを姫会長が作り上げたのだ。そういう訳で、今に至るという事である。

 だがしかし! 今の俺は田島さん以外にいる別の敵とも戦っていたのだった。そう……見えざる強敵と……。

 田島さんがフル装備という事は、当然、相対する俺もフル装備にしないといけないわけである。

 俺の装備する防具は、今まで幾多の戦士に愛用されてきたであろう、所々にシミや擦り傷のある、それはそれは物凄い一品であった。

 シミや擦り傷程度なら俺も問題は無かったのだが、そういう訳にはいかなかったのである。というか、薄々勘付いてはいた。この武具達の優れた性能に。

 そんな武具に敬意を表して、某シュミレーションゲームからの引用ではあるが、俺は名前をつけることにした。

 それでは紹介しよう。

 目録《 汗臭い甲冑・ヌメヌメする兜・むず痒い籠手 》

 この三品が今の俺の身体に装備されている。

 因みに、まだ『握りが臭い竹刀』という武具も存在するのだが、これはMy竹刀を購入すると同時に、俺自身の手で部室の未使用ロッカーの奥にて固く封印を施してある。幾多の戦士に愛用されたその名刀はロッカーの中で、まだ見ぬ武芸者ひがいしゃが来るのを待っている事だろう。合掌。

 まぁそういうわけで、俺は今、この武具に付加された力とも戦っているのだった。

 正直に言うと、これらの付加された力は、俺の中では呪いのカテゴリーに登録されている。

 某シュミレーションゲーム タク○ィクス・オ○ガでは、これら4品を全て装着すると、そのあまりの臭さから敵が近寄らなくなり、尚且つ、攻撃対象から外れるという冗談のような効果を秘めた武具であった。

 しかし、このゲームを製作した人達は大切な事を忘れている!

 何故なら、現実世界に於いて被害を最も受けるのは周囲の敵ではなく、密着させている装備者だからだ。これだけは譲れない。体験中の俺が言うのだから間違いない。

 そして、今問題なのは、これらの武具に付加された力たるや凄まじく、これを身に着けた状態では、もし周囲がラベンダーのお花畑であっても、花の清涼感溢れる香りを楽しむ事は、最早、不可能な事なのであった。

 武具を外した後は暫く鼻が利かない日々が訪れそうな気がする。フト、そんな暗い未来を想像するくらいに……。

 だが、俺に襲い掛かってくるのはにおいだけではなかった。

 俺が装着した面、つまり『ヌメヌメする兜』だが、これには臭い以外にも凄まじいスペシャルパワーが備わっていたのだ。まさか、こんな症状が現れるとは思いもしなかった。俺の予想の斜め上を行く性能である。

 そのスペシャルパワーとは、この面を被ると目がショボショボして涙が止まらないという事だ。まるで花粉症のような症状である。

 なんでそうなるのか理由は分からないが、恐らく、身体が何某なにがしかの拒絶反応を示しているのだろう。これは身体に良くないことだ。早く外せッと。

 そんな正直な反応をする体を鞭打ちながら、俺はこの厳しい状況を必死で耐えていたのだった。

 いや、耐えるしかないのだ。気を抜いた途端、天空の城ラ○ュタのムスカ大佐の様に『目ガァァァァ、目ガァァァァ』と、俺の取り乱す姿が容易に想像できるからだ。

 以上の事から、今の俺はとてもではないが、剣道をする以前の事態となっているのだった。

 大至急の改善策が必要な事案である。

 一応、数日前、西田さんに武具を洗う事は無いのか? と訊いてみた事があった。

 しかし、こんな答えが返ってきたのだ。

「防具の洗濯かい? そうなんだよ。凄いにおうだろ。俺も出来るならしたいんだけど、専門店じゃないとクリーニング出来ないんだよ。もしなんなら、今度、ファ○リーズを持ってくるよ。これで少しは臭いを緩和できる筈さ。ハハハッ」

 と、かなり軽い感じで西田さんは言っていたが、俺にとっては由々しき事態であった。

 今まで、こう見えても洗濯だけはシッカリとしていた俺は、潔癖症とまではいかないが、それなりに綺麗好きな性格をしているからだ。

 よって、こんな幾多の戦士の汗を染み込ませた防具類は、俺の脳内で衛生上良くないと判断しているのである。勿論、気分的にもだ。

 そういった事もあり、俺は何とかして洗濯しようと試みてみたが、やはり素人には無理だった。

 で、俺は仕方なくファ○リーズという一種の幻覚作用を装備者に与える妙薬を使用する事にしたのだ。

 因みに、このファ○リーズを俺は聖水と呼んでいる。但し、消臭持続時間は量に比例する為、使用するときは用法用量を正しく守らないと、試合中に聖水の効果が切れて大変な事態に陥る事になるので注意が必要だ。

 なんて事を思っていたが、まさかこんなに早く効果が切れるとは思わなかったので、今の俺はそれについてもショックを受けているのだった。計画失敗ッ!

 模擬戦が始まる前に沢山振り掛けた聖水の効果が切れた為、そんな風に嘆いていたその時! 田島さんが凄いスピードで面を打ちに踏み込んできた。

 俺はその刹那、ハッとして現実に戻る。田島さんは巨体に似合わず、中々に素早い動作だ。

 田島さんの練習風景を見ていて気付いた事だが、太った人というのは持久力に問題があるだけで、瞬発力というのは常人を凌駕している様に俺は感じたのだった。

 その為、田島さんの素早い踏み込みは、ある程度俺の中で予想が出来ていた。

 俺は頭上に振り下ろされた竹刀を何とかバックステップでかわす。

 そして、次の攻撃に備えて田島さんを見据えながら、竹刀を中段に俺は構えるのだった。

 オカルトに携わる前の俺ならば、恐らく、今の一撃はモロに喰らっていただろう。

 避けれたのは、暫く前まで連日の様に行っていた悪霊退治のお陰もある筈だ。それもあり、こういった戦闘行為に対しては、割と冷静に物事を見定められる様になっていたからである。

 そして、こういった身の危険を肌で感じれば、先程悩んでいた臭いだのは気にならなくなる。

 しかし、目がショボショボして涙が出るのだけはそういう訳にはいかなかった。これは確実に今の俺にハンデとして圧し掛かっているのだった。

 瞬きを何回も繰り返しながら、視界を確保できるように俺は努める。

 そんな事をしている内に、今度は胴を狙いに田島さんは切りかかってきた。

 俺はそれを不恰好ではあるがなんとか横に逃れて回避する。

 その時であった!

 俺は何故か分からないが、足元がグラつく。

 そして、両膝を突いて四つん這いになり、うつ伏せに倒れてしまったのだ。

「止め! 大丈夫か? 日比野君」

 審判役の西田さんは試合を一旦中断すると、倒れた俺に駆け寄ってくる。そして、妙に心配そうな表情で俺を呼びかけるのだった。

 面の格子越しに見えるそんな西田さんの顔を見上げて、俺はこう呟いた。

「す、すいません。なんか知らないんですけど、平衡感覚が突然おかしくなって倒れてしまいました。なんかグラッときたというか」

 その答えを聞いた西田さんは、乾いた笑いを浮かべてこう言った。

「ハ、ハハ、ハハ。やっぱりか? 日比野君で3人目だよ。その防具を装着した人は何故かこうなるんだ。まぁ原因は俺も分かるよ」

 と、西田さんはサラッと、とんでもない事を言う。

 それに続いて、田島さんも話し掛けてきた。

「日比野君、防具にやられたね。初めてこの防具を装備した人は皆こうなるんだよ。超臭いもんね。話は変わるけど、日比野君て結構反射神経いいね。避けるの旨いよ」

 俺は面を取ると、新鮮な空気を取り込む為に大きく深呼吸をする。

 そして言った。

「竹刀で受けてしまうと、俺と田島さんでは体重差がありすぎて逆にヤバイですからね。今の俺じゃ、とりあえず避けるしかないです」

「見かけによらず、意外と冷静だねぇ日比野君は。まぁ、でも防具には敵わなかったね。ハハハハッ」と、西田さんは爽やかに言う。

「西田さん、笑い事じゃないですよ。何なんですか、この防具は……。付加された臭いがとんでもないですよ。目から汁は出てくるし」

「ハハハッそうだよねぇ。今、部室にある全防具は、かなり何人もの汗が染み込んでいるし、尚且つ、クリーニングは何年も出されてないからねぇ」

 西田さんは顎に右手を当てると武道場の天井を見ながら言うのだった。

 そんな西田さんの説明を聞きながら、俺は強く抗議した。

「西田さん。俺、この防具を着けたまま試合は無理ッス。相手に集中するのは絶対無理ッス」

 と、野球部員のような言い方で、西田さんに俺の意見をハッキリと伝えたのである。

 西田さんはやや黙り込むと何かを閃いたのか、拍手かしわでを一回打ち、俺に言った。

「じゃあ、姫にもクリーニングの相談してみるよ。俺の防具も流石に臭うようになってきたからね」

「どうか宜しくお願い致します。西田様」

 と是が非でもそうして欲しかった俺は、物凄くへりくだって丁寧に頭を下げ嘆願したのだった。

 そして、頭を上げると俺は周囲を見回す。すると、姫会長が居ない事に気がついた。

 俺は不思議に思い、西田さんに問い掛ける。

「あれ? 姫会長は何処か行かれたんですか? 試合始める時には居たのに」

「ああ、姫かい? 姫は12日後にある大学祭の打ち合わせで実行委員会のところに行ってるよ。剣道愛好会もイベントをする予定だからね」

「へぇ、学祭になにするんですか?」

 俺が尋ねると、西田さんはやや遠い目をし、どこか思わせ振りな口調で言うのだった。

「……そ、それは姫から説明があると思うよ。今日はもう顔を出さないと思うから、明日聞くといい」

 そんな西田さんの仕草に、若干嫌な予感がした俺はそれ以上は聞かない事にした。

 その後はとりあえず試合形式の練習はやめる事になり、防具を外して素振りの練習をする事になった。

 そんな感じでこの日の練習は終えたのだった。



   【弐】



 ここはとある森の中。

 西の空を夕日が紅く染め上げる時刻の事である。

 そこは、何かを祭った小さな祠のある場所であった。 

 この場所は、森の中においてやや開けた場所であり、夕暮れ時とはいえ若干明るい。

 また、それほど人が足を踏み入れる場所ではないのか、祠の周囲はあまり手の掛けられた様子は見あたらない。その為、背の低い雑草や落ち葉などで周囲の地面は覆われていた。

 祠の周りには長い年月をかけて育った太い幹の木々が、お堂を囲うように真っ直ぐとに立ち並んでいる。その姿はまるで、祠を護るかのようであった。

 祠の大きさは一坪程の床面積で、神社をそのまま小さくしたような建物である。観音開きになった正面の小さな扉には黒い南京錠が設けられており、今は固く閉ざされていた。その為、中に何が祭られているのかは分からない。

 祠の外壁はだいぶ色褪せており、やや黒ずんだ剥き出しの柱や外梁は、建てられてから長い年月が経過しているのを感じさせる。屋根には地面と同様に、周囲の木々から落ちたであろう木の葉が、所々に降り積もっている為、祠は周囲の景色に溶け込むように寂しく存在しているのであった。

 今、その祠に向かい歩を進める一人の人物がいた。

 歳は30半ば位であろうか。やや痩せぎすの鋭い目をした男で、口と顎には綺麗に手入された髭が蓄えられている。頬のこけた輪郭をしており、その人相はやや相手を威圧するような雰囲気を持っていた。

 身長は190cm以上はあり、痩せてはいるが背丈が高い為、非常に大柄な人間に見える。服装は深い紺色のジャケットに黒いスリムジーンズといった格好で、この薄暗い空間に溶け込むような出で立ちであった。

 また、肩より下に伸びた長い黒髪はストレートに伸ばしており、時折、木々の間を縫うように吹き抜ける風が、髪を靡かせてこの男の顔を覆い隠す事があった。その姿は形容しがたいほど不気味であり、今この場に相対する者がいたならば、畏怖の念を覚えたに違いない。


 その男は、祠に向かい静かに歩を進めてゆく。

 男は祠に辿り着くと、そこで一旦立ち止まり、周囲を見回した。

 見る者を射抜くかのような鋭い視線で周囲を一通り確認し終えると、男はジャケットの内ポケットから、銀色の小さな鍵を取り出す。

 そして、鍵を南京錠の鍵穴に差込んで解錠し、観音開きの扉を左右に開いたのである。

 祠の中は、この薄暗い周囲の影響もあってか、ヒッソリとしていた。

 中には木で作られた不動明王の古い仏像が、台座の上に安置されていた。その不動明王は大きく目を見開く憤怒の表情をしており、右手には大きな剣を掲げ、真っ赤に揺らめく炎を背負う姿をしている。

 また、仏像の手前には古さを感じさせる黒ずんだ木製の賽銭箱が置かれていた。

 男はその賽銭箱を両手で持って横にずらすと、その下にある薄っすらと切れ目の入った床板を取り外した。

 そこには小さな収納スペースがあり、その中には一通の白い封筒が納められていたのだ。

 男は封筒を取り出すと、床板を嵌めて賽銭箱を元の位置に戻す。

 そして、祠の扉を閉め、また南京錠を掛けたのであった。

 男はそこで、封筒を開封し、中の便箋を取り出した。

 するとその便箋には、無機質なワードのゴシック体フォントで、こう書かれていたのである。

 

 ―― 依頼書 ――

 

 眩道斎 殿

 以下の者の呪殺を11月4日迄にお願いしたい。

 尚、呪殺金額5000万はいつもどおりの受け渡し方法でお願いする。

 

 《 呪殺対象者 》

 

 光民党党首  鴉川幸雄 衆議院議員

                         陽 炎

 ―――――――――――――――――――――――――――――――


 男は不敵な笑みをこぼすと、封筒に便箋を仕舞う。

 そして、再度周囲を見回した後、今来た道をゆっくりとした足取りで戻るのであった。



   【参】



 愛好会で武具の洗礼を受けた俺は、練習を終えるとそのまま家路についた。

 因みに、防具を脱いだ後、鼻が暫く利かなかったが、時間の経過と共に色んな香りを嗅ぎ分けれるまで回復したのでホッとしているところだ。あのまま武具を装着したままだったらと思うと、やや背筋が寒くなってくる。

 しかし、あまりネガティブに考えてばかりもアレな為、とりあえず、今は忘れるように努力しているところだ。

 まぁそれはさておき、アパートに戻った俺は食事を終えた後、ここ最近の日課である符術の修練に取り掛かった。

 悪霊退治の変わりに始めた符術の修練ではあるが、妙に習得意欲が湧いてくる。やはり、俺も男だ。こういった魔法のような力には、小さい頃からやってきたTVゲーム等の影響もあり、ロマンを感じるからである。それに、以前の俺ならば完全に否定する立場であったが、今のような境遇に落ちいってからは、寧ろ積極的にそういった知識を学ぼうとする自分がいるのである。


 話は変わるが、世界各地にあるこういったたぐいの不思議な現象や説話等も、最近の俺は割りとすんなり受け入れるようになっていた。

 また、ネット上にあるオカルトや呪術関係のサイトを偶に覗く事があるが、それらの中に於いても考えさせられる記述も少しはあるのだ。

 今までの俺なら笑い飛ばしていただろうが、色々と経験してきた超常現象によって意識改革がされたからなのかもしれない。

 それともう一つ、真言術を教えてもらい始めて暫く経った頃から、俺の中で気になっていた事があった。それは、このある一定の霊圧にまで高めた霊力が音の波に反応するという性質の事だ。この理論を西洋の魔女伝説や、ルーン文字等の魔法や魔力にまつわる話に当て嵌めて考えると、全てがあながち迷信と言い切れない気がしたからである。

 以前、鬼一爺さんはこうも言っていた。『真言の術は人によって霊力変化の仕方がだいぶ違うんじゃ。原因は分からぬが、恐らく、その者の育った環境で違いが出るのじゃろう。霊力とは霊体の放つ力。即ち、魂の力じゃ。魂も身体の成長と共に育ってゆくからの』と。

 そういった事も踏まえると、今の俺にはこんな仮説が浮かぶのであった。

 その人間の育った環境……つまり、育ってきた言語の環境で魂の性質も変るのではないかと。もしそうであるならば、人によって霊力反応の仕方が変わるのも説明がつくような気がしたのだった。それと同時に、霊力と魔力は呼び方が違うだけで同じものなのかもしれない、とも。

 但し、この理屈でいくと日本語圏で育った人間は、英語圏やその他の言語圏の『言霊の術』というのは使えないのかも知れないが……。

 まぁ、こればっかりは実際に各国の呪術等を調べてみない事には分からないので、あくまでも仮定の域は出ない話である。しかし、ここ最近湧いてくる術法理論の好奇心が俺の心を揺さぶる為、機会があれば検証してみたい事柄として、記憶の片隅に留めて置こうと俺は考えているのだった。

 また、こういった情報を得る為に最近の俺は、西洋のオカルト史や他国の古代王朝のオカルト話等も、ネットを使い調べ始めているのである。

 と、まぁその話は今は置いておいて符術の話に戻す。


 今の俺は『障壁の符』と呼ばれる符術を物にすべく、最終段階に入っていた。

 実はこの符術、一度の術行使に5枚の符を同時に使う為、その過程が結構ややこしいのである。

 そんな訳で、俺は各霊符を順に素早く発動すべく、霊力のコントロールをしている最中なのであった。

 因みにこの符術の目的は、外敵から身を守る為に術者の周囲に霊力障壁を張るという術で、簡易防御結界といった感じである。但し、持続時間は5分ほどだそうだ。

 そして、各霊符には一応名前と役目がある。これは良く耳にする名前で『木・火・土・金・水』と便宜上名付けられている。

 陰陽道に詳しい人はこれを聞けば直ぐに分かるだろう。陰陽の五行大儀と呼ばれるやつである。

 この五行には、『木』熱して火を生じ・『火』燃えて土を生じ・『土』甘して金を生じ・『金』滲れて水を生じ・『水』浸して木を生じる、という五行の循環相生あいいかすの関係と、『木』は土を剋し・『土』は水を剋し・『水』は火を剋し・『火』は金を剋し・『金』は木を剋す、という互いに対立し、侵しあう相剋そうこくという関係がある。

 その五行の性質を持つ符を五枚使って行使する術な為、便宜上この名前が符に付けられているのだった。鬼一爺さんの話では、この五枚使う符術の種類を別名、五行相関の符術と呼ぶそうだ。

 そして、相剋そうこくの順に符の力を解放すると術者を中心に五芒星を描く事となり、障壁が完成する。大まかな術のプロセスはそんな感じである。

 因みに、安倍清明が得意としていた術らしい。言われてみれば、安倍清明の話には必ずといって良いほどこの五芒星が絡んでくる。俺はその説明を聞き、腕を組んで唸りながら納得したのだった。

 しかし、言葉で説明すると簡単に聞こえるが、霊力を指先から圧縮して糸の様に放出し、各霊符を紡いで行く為、霊力制御と解放する符の手順との問題が術者に大きく圧し掛かってくる。

 その為、俺も今まで中々上手く制御できず、術を確実に発動するには至ってないのが現状である。それモドキは何回かあったが……。

 まぁそんなこんなで難しい術なのだが、今ようやく、俺は障壁の符術を完成させたところなのであった。

 眼前には、五枚の霊符が互いの循環相生あいいかす関係と相剋そうこくする力で宙に浮き、俺の周囲に五芒星と五角形の青白い光の結界が張り巡らされている光景が広がっている。

 この青白い光の波動は、そこ等辺の悪霊では太刀打ち出来ないほどの力を秘めているのは俺には分かる。これはかなり強力な結界術であった。

 俺はやや離れた所で眺める鬼一爺さんに確認した。

「じ、爺さん、これで成功だよな?」

 鬼一爺さんは陽気に頷いた。

『フォフォフォ。ようやく上手くいったようじゃな。しかし、苦労して覚えたこの五行相関の符術は、後の『浄化の炎』を進化させる過程において重要な役割をする術じゃ。『障壁の符術』は五行相関の基本的な術じゃからの。一回の成功で浮かれずに、これから毎日修練を積んで確実に己の物にするのじゃ』

「おお、そうだったのか。じゃ、浮かれてばかりもいられないな。ヨッシャ、それじゃあもう一度最初から始めるよ」

『その意気じゃ、涼一。術の修練は、地道にやっていくのが一番の近道じゃからの。フォフォフォ』


 まぁ、こんな感じで暫く符術の修練を続け、剣道愛好会から始まる激動の一日を終えたのであった――

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