エピローグ
マスクから送られてくる無味無臭の栄養を虚しく思いながらも、まだ人生を終わらせるつもりはない。時計の針はきっかり重なって止まっている。意味深な置物にさせてしまった自分の状況に申し訳なさを感じたから、微笑みをむけてあげる。
「どうしたの?何か面白かった?」
私の顔を覗き込みながら、彼は穏やかな声で聞いてきた。微笑みをむける相手を変えて彼の緩んだ口元を見る。彼はなんとお人好しなことか、結局十年も私に付き添った。
「何でもありません。それより、りあは元気ですか?」
「あぁ、今日も元気良く学校に行ったよ。」
「そうですか、よかったです。大変でしょうがしっかりりあを支えてあげて下さいね。」
「勿論だ。だけどそんな寂しい事言うなよ。俺にはまだ君と別れるつもりはないよ。」
「あなた。最後に聞いてほしい事があるんです。」
「最後か、なに?」
「私、幸せでした。あなたと結婚できて。・・・・ごめんなさい。」
「なんで謝るんだ、」
「幸せでした。・・・でも私はあなたを愛せなかった。・・・・・ごめんなさい。あなたを一生縛ってしまって。」
「・・・・・。」
「最後まで嘘をつき続けると誓ったのに、騙しきれなくて、ごめんなさい。りあのこともあなたばかりに押し付けてしまってごめんなさい。」
静寂の中には私の心臓の鼓動のリズムが響いている。
「俺は君を愛している。」
そう呟いた言葉はあの日とは違う。俺にとって君はかけがえの無いものになっていったんだ。
けれど俺はあの日と変わらない嘘をついた。