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「嘘でした。」俺の人生は。  作者: タクヤの表現
2/6

観察

 その日、男は大学の講義を受けるために電車に乗っていた。十時過ぎの落ち着いた車両は見覚えのある顔で埋め尽くされる。毎日のように同じ電車に乗り、同じ車両に乗る。それはどこか殺伐とした社会を生きていく中での安心材料にもなっていたのだろう。もう一通り観察を終えた乗客の顔をぐるりと一周し、偶然にこの車両に乗って来たであろう人物に目を向ける。男の趣味は人間観察だ。しかしそれほど科学的な思考はしない。その行動がどんな心理状態かを表すかを想像するより、その行動中の感情はどんなものなのかを妄想するのが、男の人間観察だ。


 その日、対象に決めたのは男と同じ大学生だろうが、どこか聡明な雰囲気を漂わせる女。整った容姿にゆるりとしたスカート、サラリとのびた美しい黒髪は男の目線を釘付けにした。窓の外を見ている女は何を考えているのかを妄想する男はいつにも増して気持ち悪い表情をした。その気持ち悪さが滲み出していることに気づかない男は、哀れなものだ。


(はぁ、どうしよう)


 女は悩んでいた。普段より悩みなど表情に出ない女にとって、悩み事があるという事態は大変に不安に駆られる日々なのだ。生理が遅れていることに疑問を感じ、妊娠検査薬に否定の感情を抱きながらも、その結果は肯定だった。少しの吐き気を辛抱しながら、窓の外に広がる都会の風景をほんの少し羨ましがる。


(俺も気持ち悪いが、彼女も気持ち悪そうだ)


 人間観察が趣味の男にとって、女の少しの表情の変化を見抜くのは容易い事だ。死角にチラリと見えるハンカチを持った左手が、この妄想の裏付けとしても充分な証拠になるだろう。

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