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せっかく美少女に転生したのに不幸なまま終わってたまるか!  作者: 田舎師
3章 エルトリア巡見士
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ハバキア帝国潜入調査(3)

帝都ミューズ。

この町を訪れるのは初めてだが、どこか暗い印象を受けた。


実際の風景が暗いことは確かだ。白い石壁もどこか灰色にくすみ、黒い石屋根は重く建物にのしかかるようだ。

灰色の空までもが低く垂れ込め、水滴にもなれない細かな水の粒が町を覆っている。


しかしこの重苦しさは、建物や空のせいだけではないだろう。

筆頭将軍でもあった皇太子ゲルハルトが帝位に就いて100日余り。前皇帝は幽閉されているとも、既に亡き者にされたとも噂される。

それらの噂話さえも、辻々に立つ兵士の耳を避けて小声になってしまう。




この帝都も滞在3日目。密偵の基本として毎日宿を変え、服装や髪形を工夫して印象を変えている。


私などは何度も散策してようやく少し街に慣れてきたところだというのに、同期のミハエルさんは今日、昨年帝国に併合された都市国家群の密偵を名乗る人を連れてきた。

フェリオさんもさすがに驚いたようだ。この人の観察力、情報収集力、人脈はちょっと理解できない水準にある。


「・・・という有様で、我々も数の上では十分に戦えるはずでしたが、1年と耐えられませんでした。新皇帝ゲルハルトの武勇、統率、苛烈さは聞きしに勝ります。悪く言えば暴虐の王、良く言えば覇王の器でしょう」

「なるほど・・・現在のゲルハルトの所在は?」

「エッカルト侯爵領への遠征を終え、帝都におります。新たに加わった軍を編成しているようです」

「新たに加わった軍とは?侯爵家の残存兵ですか?」

「妖魔の類です。種族を問わず能力次第で重用すると布告し、既に魔人族(ウェネフィクス)を将軍に登用したとか・・・」


魔人族(ウェネフィクス)!」


会話をフェリオさんとミハエルさんに任せて記録をとることに集中していた私だが、思わぬ言葉につい声を上げてしまった。6本の視線が全て私に集中する。


「あ、ごめんなさい。魔人族(ウェネフィクス)とは昨年戦ったばかりで・・・」

「この嬢ちゃん、こんななりして腕利きなのよ。魔人族(ウェネフィクス)を2人仕留めた奴なんて、他にいねえだろ」

「いえ、話をそらして申し訳ありません。続けてください」


話をそらしたのはミハエルさんなんだけど、と思いつつも、これ以上の脱線を避けるために口を閉ざした。


「次に前皇帝ユリアヌス2世陛下の安否ですが、未確認ではあるものの存命の可能性が高いと思われます。その根拠として・・・」


せっかくの記録だが、これは私が記憶にとどめるために書いているもので、読み返した後に破棄しなければならない。こんなものを持って捕まった日には「私は密偵です」という名刺になってしまう。

代わりに真新しい日記帳を購入して、当たり障りのない旅日記を書いてもいる。これが一般人である証拠になる訳でもないけれど・・・




「すみません、エルトリア産の組紐はありませんか?」

「あー、今はエルトリアからの物は入って来ないねえ」

「代わりに都市国家群からの物が多くなってきていますか?」

「そうだね、その壁に掛かってるのは全部そうだよ」


昼間には大きめの商店を見て回ったり、安価な品を購入して話を聞いたり、兵士に道を尋ねて反応を探ったり、世間話をしたり。今の私にフェリオさんやミハエルさんのような情報収集力は無いので、できる事といえばこれくらいだ。

それでも帝都の物流が滞ってはいないこと、穀物酒、絨毯、独特の色彩豊かな陶器など、都市国家群からの品が多く出回っていることくらいは見えてくる。


夕方になると私は宿に戻ることにしている。辻々に兵士が立っているだけに治安は安定しているが、見るからに真面目そうな私が酒場などで情報を集めていては不自然極まりない。そういう役目はミハエルさんに任せるのが良いだろう。




・・・そのミハエルさんだが、心配なことがある。

既に陽が沈もうという時刻なのに、正午あたりから動きがないのだ。


魔術を扱える私は、同行者2人の武器の鞘に【位置特定(ロケーション)】を掛けてその位置を特定し、連絡役を務めている。

これほど動きがないという事は何かを掴んだか、もしくはその身に何かあったか。


位置特定(ロケーション)】が示す座標を目指して路地に入り、いくつかの角を曲がって見たものは・・・




古い井戸だった。ミハエルさんが持っていた短剣の鞘はその底にある。




まさか。

早まる鼓動を押さえて、周囲の気配を探る。

遠くで子供が遊ぶ声は聞こえるが、どこからも視線や害意のようなものは感じない。

古井戸に近づき、嫌な予感をこらえて中を覗き込む。


予想した惨状はそこになかった。


井戸の底に光るものが沈んでいる。呼吸を整え、使い慣れた魔術を詠唱する。




「母なる大地の精霊、その優しき手に我を乗せよ。【落下(フォーリング)制御(コントロール)】」


幸い、水位は膝上くらいの高さしかなかった。

水の中から短剣の鞘を拾い上げ、中に入っていた油紙を取り出す。


「お嬢ちゃん、びっくりしたかい?」


と書かれた紙を丸めて捨て、それに包まれた2枚目を開く。


「生存確認。火近し、2人で戻れ」


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