20歳の夢と現実
ブックマーク、評価、感想など有難うございます。
この後、数話を挟んで新章に入ります。
構想のため数日更新をお休みしますが、引き続きお付き合い頂けますと幸いです。
正直なところ、私は戸惑っている。
失望というほどではない。困惑、当惑、そんな言葉が当てはまるだろうか。
ロット君の長剣が唸りを上げて振り下ろされる。剣筋を見極めて丁寧に打ち落とすと、それは激しく地を穿った。
間髪入れず左からの斬り上げ。角度を測って受け流すと、それは宙に流れた。
力任せの横薙ぎ。間合いを測って空を斬らせると、彼は大きく姿勢を崩した。
「ちっ・・・!」
「・・・」
こんなつもりではなかった。
彼がエルトリア軍に入って3年。今やアカイア駐屯地で指折りの剣士になっていると聞いて、里帰りついでに軽い気持ちで訪ねたのだ。
話の流れで久しぶりに仕合うことになり、練兵所の一角を借りたのだけれど・・・
彼の身体は一回り大きくなっている。より大きく重い剣を、より速く振り回せるようになっている。でも。
雑な打ち下ろしを体捌きだけで躱す。
・・・駄目だよ、そんなに肩に力が入っていたら。
遠間からの横薙ぎを後ろに跳んで躱す。
・・・そんな間合いから打ち込んでも当たるわけないよ。
落ち着きなく辺りを見回している。
・・・人の目なんか気にしちゃ駄目だよ。目の前の相手に集中しなきゃ。
はっきり言ってしまおう、ロット君は弱くなっていた。これでは魔術抜きの私にさえ勝つことは難しい。
軍学校の卒業記念試合で「達人」カチュアを追い詰めた彼はどこに行ってしまったのだろうか。
私が強くなっているのは確かだ。任務中も訓練は欠かしたことがないし、鷲獅子、魔人族、魂喰いなどという魔獣や魔人との戦いで何度も死線をくぐってきた。
そして何より、カチュアの剣舞がいつまでもこの目に焼き付いて離れない。毎日毎日、彼女の剣筋を辿っている。
ロット君だって無為に日々を過ごしているわけではないだろう。しかし女性の一人旅さえできる平和な王国の中央部にあって、良き指導者も、競うべき好敵手もいないのではないか。
もう何度目かも覚えていない空振り。
大地を叩いた姿勢のまま、ロット君は動かなくなってしまった。
「・・・なあ、ユイ」
「なに?」
「俺、弱くなったのかな」
「・・・そう、かも」
「どう弱くなった?」
「ええとね・・・」
恵まれた体格を活かして身体能力に頼るのはいい。
でも技術をおろそかにしては、余分な力が隙を生んでしまう。今のロット君は力が入り過ぎて、技の起こりがわかりやすい。極端なことを言えば、剣を振り出す前に軌道が読めてしまうのだ。
「そうか・・・」
ロット君は私と剣を合わせるまで、自分は強くなったという自信に満ちていたようだ。
おそらくこの駐屯地では力任せでも通用してしまうのだろう。隙を的確に突いてくれる相手、誤りを指摘してくれる相手に恵まれず、雑な剣術が身についてしまったに違いない。
「剣速は上がってるよ。それを活かす体捌きと組み立てが必要だと思う」
「そうだな・・・」
呆然と立ち尽くす彼に、その言葉は届いただろうか。
私は振り返ることなく、そのまま駐屯地を後にした。都合が合えば一緒にカラヤ村に帰ろうと思ったのだが、今の彼と何を話せば良いのかわからない。
軍学校への道中、私とカミーユ君、ロット君が将来を誓い合ったのはちょうど5年前。
『私は巡見士に!』
『僕は将軍に!』
『俺は達人に!』
私は巡見士となって国内を巡り、カミーユ君は参謀として北部国境地帯を転戦している。
役職でも階級でもない「達人」への道のりは、もしかすると最も困難なものかもしれない。




