メブスタ男爵家調査依頼(9)
「・・・私からの報告は以上です」
「ユイ様、この度は真にお世話になりました」
ユッカペッカ君と共に王都での釈明を終えた私は、男爵家に戻りアロイスさんへの報告を終えた。
魔人族や魂喰いの出現といった誤算はあったものの、今回の件は概ねこの人の筋書き通りに運んだのだろう。
騎士アロイスさん。魂喰いに生命力を吸われたのか、細身の身体はさらに痩せ、髪も一部が白く変わっているが、その声からは十分な知性と力強さを感じた。
結論から言えば、メブスタ男爵家はユッカペッカ君が家督を継ぐことで存続を許された。前当主テトリクスさんは男爵領近くの孤島で監視付きの余生を送ることになるだろう。
当主自らが邪法に関わり使用人を害するなど取り潰しもあり得るほどの事件だったが、嫡男たるユッカ君自らが解決に乗り出し、事の顛末を迅速に報告したことが評価されたようだ。
邪法の使い手たる魔人族が死亡しているため一部推測を交えているが、私が国王陛下に報告した内容は次の通り。
男爵夫人エンデさんが事故死したのは3年前。
年若い妻の死に衝撃を受けるメブスタ男爵テトリクスの元に老魔術師が現れ、死者を蘇らせる術があると告げた。ただしそのためには、身代わりに若い女性の犠牲が必要であった。
老魔術師は夫人の遺体を【保存】の魔術で保存し、異界の生物【魂喰い】を召喚して、使用人の魂を夫人の遺体に移し替えたと思われる。ただしその術法の詳細は、我々が使用する魔術とは異なる系統であるため不明である。
夫人の様子に違和感を覚えた嫡男ユッカペッカ及び騎士アロイスは調査を進め、件の魔術師を捕らえるべく準備を整えるとともに、証人として巡見士ユイ氏に協力を求めた。
ユッカペッカは協力者らと共に、魔人族であった老魔術師及び魂喰いを討ち果たし、自ら謹慎を申し出る当主に代わってユイ氏と共に王都にて釈明した・・・。
この報告を見る限り、ユッカ君の行動は完璧だ。吟遊詩人がこぞって英雄譚を作り上げるほどに。
だが実際に調査を進め、戦闘要員でもあり証人ともなる私を指名し、作戦を立案し指揮したのは全てアロイスさんだ。
男爵とユッカ君の盾となるべく魂喰いの前に立ちはだかったことから、忠誠心も申し分ない。ただ気になることが一つ。
「アロイスさん、あなたは有能で忠心篤く、男爵家になくてはならない人です。ユッカ君があなたを信頼するのも当然です」
「・・・突然どうしました?」
「ですが、ユッカ君のことも信用してあげてください。彼は陛下の御前にて、見事に後継者たる責務を果たしました」
お世辞ではない。国王と重臣が居並ぶ中、彼は多少言葉に詰まりながらも無事に報告を終えた。
ろくに自分の意見も言えなかったあのユッカ君が、と驚いたものだ。
「心得ました。肝に銘じましょう」
もしかすると私が言うまでもなく、この事さえアロイスさんの掌の上の出来事なのかもしれない。
彼は後処理のため領地に残り、私とユッカペッカ君を王都へ送り出した。ユッカ君に責任を果たさせるため、敢えて自分の手元から離したとも考えられるのだ。
そしてもう一つ、これも彼がお膳立てしたのだろう。
「待って、ユイさん!」
館の入口で別れの挨拶を済ませ、歩き出した私をユッカ君が呼び止めた。
「ん?」
「そ、その、僕・・・」
アロイスさんがしきりにユッカ君を促していたのも、一緒に王都に行かせたのも、多分このためだ。
軍学校時代もカミーユ君がおかしな事を言っていた。確か私ならユッカ君を説得できるとか、親近感がどうとか。
いくら私が鈍くてもこれだけ状況証拠が揃えば、彼が私に好意を持っていることくらいわかる。でも。
苦労と努力の甲斐あって夢を叶えつつある二度目の人生だ。貴族の若君と結婚して幸せに暮らしました、めでたしめでたし。という結末は御免蒙りたい。
「王都でのユッカ君、格好良かったよ。またね」
ユッカ君の言葉を遮り手を振って、私はメブスタ男爵家を後にした。
事後処理にずいぶん時間を取られてしまったが、ようやくラミカと夕食の約束を果たすことができる。
「パフェはご飯だよー」
不意に学生時代の彼女の言葉を思い出し、私は笑いをこらえて海沿いの坂道を下っていった。




