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せっかく美少女に転生したのに不幸なまま終わってたまるか!  作者: 田舎師
3章 エルトリア巡見士
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メブスタ男爵家調査依頼(8)

魂喰い(ソウルドレイン)の【暗黒球(ダークスフィア)】とラミカの【光の矢(ライトアロー)】が、再び闇と光を撒き散らす。

互いを消滅させ合った残滓が【魔術障壁(マジックバリア)】に弾ける。


破壊魔術の撃ち合いは互角に見えるが、ラミカに先程までの余裕はない。




学生時代から気付いてはいた。ラミカは魔術の才能に溢れ、幼少から当然のように操ってきたためか、その魔術は丁寧さと効率に欠けるのだ。

この【光の矢(ライトアロー)】にしても、太く見えるのは魔力の強さだけでなく収束率が悪いからだし、無駄弾も多い。

体内に膨大な魔素を抱えるとはいえ無限ではないし、戦いが長引けば体力的な不安も出てくる。このままでは危ないだろう。


「我が内なる生命の精霊、宿りて輝け!【魔力付与(マジックエンハンス)】!」


愛用の細月刀に自身の魔力を宿らせ、意を決して駆け出した。

光と闇が交錯する渦中に飛び込み、黒いぼろ布のような異界の生物を切り裂く。だがこの圧倒的な存在に対して、効果は微々たるものだった。

小うるさげに出現させた、ただ1個の【暗黒球(ダークスフィア)】に弾かれて壁際まで飛ばされる。


「ユイちゃん!」

「・・・っ、こっちは大丈夫、だよ!」


男爵の私室、20歩四方あまりの部屋が闇に染まった。

闇色の球体が次々とラミカの【魔術障壁(マジックバリア)】に弾ける。反撃の【光の矢(ライトアロー)】を止めて防御に徹してしまったか。


「だめだよラミカ、弱気になったら!」

「んっ、でも・・・」


これほど余裕のないラミカを見るのは初めてだ。無理もない、魔術で後れを取った経験など無いのだろう。

そういえば私は格上と戦ってばかりだな、と変な笑いが込み上げてくる。苦戦慣れのおかげで頭を働かせる余裕ができた。


「万里を駆ける風の精霊、我が剣と共に舞い踊れ!【剣の舞(セイバーダンス)】!」


詠唱を済ませて細月刀を放り投げる。それを左の人差し指で操作すると、部屋の入口に突き立った。


「ラミカ、【魔力付与(マジックエンハンス)】!」

「えっ、うん・・・」


「天に(あまね)く光の精霊、我が意に従い彼の者を撃ち抜け!【光の矢(ライトアロー)】!」


闇を撒き散らしながらラミカに迫る魂喰い(ソウルドレイン)に駆け寄り、至近距離から【光の矢(ライトアロー)】を撃ち込んだ。

異界の者とて小賢しいと思っただろうか。私に向き直り【闇の矢(ダークネスアロー)】と【暗黒球(ダークスフィア)】を乱射する。武器もなく回避に専念しているとはいえ、一部は躱しきれずに革鎧を、身体を叩いて弾け、皮膚が裂け激痛が走る。


「ユイちゃん、いくよ!」

「早く!」


ラミカが投げた私の剣は、あらぬ方向に飛んで床を滑った。


一瞬の空白。異界の魔物も私達の間抜けぶりを(あざけ)ったのかもしれない。


でも舐めてもらっては困る。ラミカの運動音痴など織り込み済みだ。


「来い!【剣の舞(セイバーダンス)】!」


床に転がった剣は生き物のように跳ね、私の右手に収まった。先程までとは違い、天才魔術師の魔力を付与された細月刀(セレーネ)は目も眩むほどに白く輝いている。


真横に一閃。骨と皮ばかりの手を両断した。

真上からの斬り下げ。黒いぼろ布を真っ二つに裂いた。


「ラミカ、お願い!」


言い終わらぬうちに極太の【光の矢(ライトアロー)】が4本、5本、6本。身体を明滅させ、奇怪に跳ねるぼろ布を剣先に捕らえて壁に縫い付けた。

異界の生物は見る間に薄く小さくなり、やがて蒸発するように存在を消滅させた。




壁から剣を引き抜き、鞘に納める。


崩れ落ちた壁、かつて窓であった穴、原型をとどめない調度品。

光と闇の饗宴は終わりを告げ、室内の惨状が私達を現実に引き戻した。


当主テトリクスさんも全てが終わったことを悟ったのだろう、生命なき妻よりも虚ろな目で宙を見つめている。


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