メブスタ男爵家調査依頼(1)
王国歴228年、エルトリア王国の巡見士となって2年余り。この年はどうやら旧友に縁があるようだ。
プラたんの案内で亜人種自治区の調査を終えた私は、続いて王国最南端の地を踏むことになった。
パラーヤという名の港町、ここには軍学校時代の友人、ラミカがいるはずだ。
はずだ、というのはこの度の来訪を承諾した旨の返事以来、音信が途絶えているからだが、安否については心配していない。
彼女はもともと面倒くさがりの筆不精だし、私は直近の70日ほどを未開の地での調査と移動に費やしており、籍のある王都には戻っていない。もし手紙を書いてくれていたとしても、王宮の事務官が保管しているはずだ。
そして何より、あの子は軍学校始まって以来の天才魔術師だ。滅多なことなどあるはずもない。
海からの風が潮の香りを運んでくる。
港町らしい急坂を上りきったところで目的の建物を見つけ、乱れた呼吸を整えた。
「ここだ・・・ベラヌール家」
ラミカからの手紙には地図も書かれていたのだが、雑すぎてとても参考にできる代物ではなかった。なにしろ、海岸線と道らしき線が何本か引かれている先に「このへん」と記されているだけだから。
ただ「貿易商のベラヌール家」と人に聞けばすぐに教えてくれて、苦もなくたどり着くことができたのは幸いだった。
広い敷地を囲む石塀に鉄製の門、石と煉瓦を組み合わせて造られた2階建ての邸宅。学生時代から衣食住に不自由していなさそうだとは感じていたが、なかなかの豪商のようだ。
名前と用件を伝えて応接室で待っていると、豚の着ぐるみが扉を開けて入って来た。
「ユイちゃんだー!おひさしぶりー!」
「久しぶりだね!会いに来たよ」
「なんだよう。揉むなよう」
初めてラミカと会ったときもこうだった。着ぐるみが牛から豚に変わっただけだ。
あの時のようにお菓子の袋は持っていないようだが、お腹についた食べかすが今の彼女の生活を物語っている。
「巡見士になったんだってね。すごいなー」
「それはもう頑張ったもの。この前プラたんに会ったよ」
「へー。元気だった?」
「うん、後でゆっくりお話するよ。ご両親に挨拶していい?」
「あいよー」
生憎お父さんは仕事で留守との事だったが、紹介されたお母さんを見て驚いた。
「あの、お母さんですか?お姉さんではなくて・・・?」
「あらーいい子ね。お菓子あげちゃう」
ラミカと同じ紅茶色の髪と肉感的な身体は想像通りだったが、肌艶といい縦ロールの髪といい、どの角度からも20代にしか見えない。
「いえ、早速ラミカさんと出掛けますので」
「ほんとに行くのー?」
「ぜひ連れ出してあげて。この子ったら、放っておいたら家から一歩も出ないんだから」
「働きたくないでござるー!」
渋るラミカを引きずって、部屋で外行きの服に着替えさせる。
部屋の中で着替えを見張ることにしたのは、先程ある事に気付いたからだ。
「ちょっとラミカ、これどうしたの」
「やーめーてー」
やっぱり。私は下着からはみ出た大量の脂肪をつまみ上げた。
かつての天才魔術師は、怠惰な実家暮らしで見事に激太りしていた。




