亜人種自治区における産業の調査及び振興(6)
小さな家ほどもある鷲獅子の巨体は、夜を待たずにすっかり解体されてしまった。
羽毛や骨さえも装具や薬として使うために持ち去られ、薙ぎ倒された木々と地面に残る血痕の他にその存在を証明するものはない。
村人の言葉からは人知及ばぬ存在として神格化されているような節もあったのだが、力を失ったそれはもはや捕食の対象でしかないようだ。
村の各所で肉を焼く煙が上がり、酒盛りが始まっている。弱肉強食は世の理とはいえ、なんと言うか・・・たくましい。
ところで私に切り分けられたこの肉は、一体どこの部位なのだろうか。
鳥肉なのか獣肉なのか判然としないし、噛み切れないほど硬くて臭い。
しかし味はどうかと聞かれると、非常に美味しい。食材はともかく、塩らしき調味料が良いのだろうか。
プラたんそっくりのエルフ、ペルーシュさんはやはり母親だそうだ。
森の住人であるエルフは例外なく魔術の才能を有し、自然現象に特化した魔術を使うという。
一緒にいた男性エルフと二人がかりとはいえ、鷲獅子を捕らえてしまうとは。人間の魔術師でその域に達する者は極めて稀だろう。
そのペルーシュさんとプラたんは、先程から切株の椅子に座って話し込んでいる。話の内容を聞くつもりはないが、その表情から互いに愛情を抱いていることが窺える。
プラたんとお母さんの再会を邪魔するわけにもいかないし、コボルドのテロル君もどこかに行ってしまった。
自然、他に知り合いのいない私とエルフの男性、エイルさんが取り残されることになる。先程から何度もお礼を言ったので、特にもう話す事はないのだけれど・・・。
「あの、お肉食べないんですか?」
「獣の肉を焼いて食べるなど、野蛮なことはしない」
「そ、そうですか」
慌てて後ろを向き、最後のひと欠片を口に入れて飲み込んだ。
肉を食べることを野蛮と言うなら、おそらく食べる動作や匂いも気になるだろう。
「じゃあお酒は?」
「わざわざ麦や果実を発酵させるなど理解できんが、嫌いではない」
その意味するところを理解し、近くの露店で麦酒を2つ買って片方を手渡した。
「先程はありがとうございました」
「何度も聞いた。もう言う必要はない」
「ペルーシュさんを連れて来てくれたんですね?」
「そうだ」
「あなたは彼女を娘さんに会わせたくないようでしたが」
「本人がどうしてもと言うのだ、仕方ないだろう」
「そうでしたか・・・」
ペルーシュさんは娘が会いに来たことを知ってフルシュ村に向かい、プラたんの不在を知ったところで鷲獅子との戦いを見かけたそうだ。
娘に会いに行くことは集落の皆に反対されたが、エイルさんが連れ出してくれたという。
「プラたん・・・プラタレーナさんに代わってお礼を申し上げます」
「何度も言う必要はない」
「ではお礼に、次に来るとき果実酒をお持ちします」
「・・・それは楽しみだ」
視線の先で、絵画のように美しいエルフの母娘が微笑んでいる。
鞄から日記と描画用の木炭を取り出し、手早く素描する。
隣に座るエルフの男性は人間どものように覗き込むような野暮な真似はせず、静かに麦酒を口に運ぶのみだった。




