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せっかく美少女に転生したのに不幸なまま終わってたまるか!  作者: 田舎師
3章 エルトリア巡見士
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亜人種自治区における産業の調査及び振興(3)

奇怪な鳴き声の主が、遠くの空を旋回しつつ遠ざかっていった。

鷲獅子(グリフォン)。鷲の翼と嘴、獅子の身体をもつ魔獣。


「行ったかな・・・?」

「うん・・・」


エルトリア王国南東部、亜人種自治区。

この森での生活も4日目。「鷲獅子(グリフォン)が出たら身を隠せ」というこの地の常識も身に着きつつある。

人間社会では勇猛の象徴とされ紋章などに用いられる魔獣も、ここでは現実的な脅威として存在しているのだ。


「あとどのくらい?」

「・・・どう?テロル」

「もうすぐ、つきます」


茶色の尻尾を振りながら答えてくれたのは、テロル君というコボルドの子供。プラたんの教え子だという。


コボルド。犬の顔と体毛、人間の身体をもつ妖魔。

ただしこの森に棲む彼らは他種族に友好的で、外見さえも変化しているためほぼ別種族と言っても良いほどだ。

私も実際に見るまで信じられなかったのだが、確かにこの子は飼い犬のように温和で愛らしい。


「ユイせんせい、つかれましたか?」

「ううん、大丈夫だよ。ありがとう」


テロル君はたどたどしい共通語で話しかけてくれる。彼なりに気を使ってくれているのだろう。

何故か私まで「先生」扱いなのは、プラタレーナ先生のお友達だから、という事らしい。




「つきました。ぼくたちの、むらです」


縦穴に藁の屋根をかけた住居、共有の倉庫、小麦畑に果樹園らしきものまである。

正直なところ私は驚いた。一般的にコボルドといえばゴブリンよりもさらに知的水準が低いとされており、これほど文化的な生活を営んでいるとは思っていなかった。


テロル君の説明によると、ここには60人ほどが住んでいるそうだ。


集落を歩くうち、次第にコボルド達が集まりはじめた。

犬の顔と体毛をもち二足歩行という点は共通しているが、毛色や毛並みはそれぞれ大きく異なるようだ。


「せんせいだ!」

「プラタレーナせんせいだ!」


プラたんがコボルド達に囲まれてしまった。子供だけではない、大人どころか老人?まで作業を投げ出し、尻尾を振り振り寄って来る。




先日エルフの集落では門前払いされてしまったため、今回は少しでも警戒を解いてもらおうとコボルドの子供を一緒に連れて来たのだが・・・これはこれでどうしたものだろう。

私の両膝には、遊び疲れて眠ってしまったコボルドの子供の頭が乗っている。大人達もすっかり気を許して農作業に戻ってしまった。


私は逆に心配になってしまった。あまりにも人が善すぎる。

私達人間の良き隣人になってくれる可能性は多分にある。だがもし交易を始めれば、海千山千の商人に騙され利用されてしまうのではないか。それどころか従順な労働力として連れ去られてしまうかもしれない。

幸いさしたる産業もないようだ、敢えて王都に報告することもないだろう。


「そうと決まれば・・・」


眠っている子のお腹に顔をうずめ、わしゃわしゃと撫でまくった。暖かい陽射しの匂いがする。

なんだか時間がゆっくり流れるような気がした。




「せんせい、またきてね!」


翌朝、私とプラたん、テロル君はコボルドの集落を後にした。

一体私は何をしに来たのだろう、そう思わないでもない。交易品を探すことも聞き取り調査もせず、素直で可愛らしい生き物を一日中わしゃわしゃもふもふと撫でていただけだ。


「・・・ユイちゃん、良かったの?」

「うん。これでいい」

「・・・お仕事は?」

「明日からやるよ」

「・・・ラミカみたい」

「それ言われちゃうと辛いなー」


これでいい。プラたん先生と一緒に、テロル君の里帰りに付き合ったということで。何よりもあの子達を人間の欲に触れさせたくない。

それに本当に私が求めていたのは、こういう旅だ。見知らぬ地で異種族と出会い、その文化に触れる。昨日は久しぶりに挿絵入りで日記を長々と書いたものだ。




フルシュ村への帰り道、私はすっかり満足してしまっていた。

おそらくそのためだろう、すっかり油断してしまっていた。


大きな影が静かに覆いかぶさろうとしていたことに、私は全く気がつかなかった。


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