亜人種自治区における産業の調査及び振興(2)
今回の私のお仕事は、「亜人種自治区における産業の調査及び振興」。
つまりこの亜人種が棲む広大な森の中から有力な交易品を見つけ出し、付加価値をつけたり流通を工夫することで最終的に国益に結び付けるというものだ。
まずは交易の場となっているこのフルシュ村を拠点にいくつかの集落を回り、現状を把握する。
必ずしも人間に好意的とは限らない亜人種の集落を訪問するにあたって、必須なのが現地の案内人である。フルシュ村に住む旧友のプラタレーナ氏にそれを依頼し、快諾を受けた。王国歴228年112日現地到着、という内容の着手届を既に作成してある。
「プラたん、学校の先生になったんだね。すごいなあ」
「・・・そんなこと、ない」
「軍学校に行ったのも、先生になりたかったから?」
「・・・そう」
ここは人間の町でいう喫茶店のような場所だろうか。
細長い葉を編み合わせて屋根状にした空間で、注文したお茶などを切り株に腰掛けて頂くことができる。
「まずエルフの集落に行きたいんだけど、明日から案内お願いしていいかな」
「・・・いいけど・・・」
「?・・・プラたんはそこで生まれたんだよね?」
「・・・そうだけど・・・」
「あ、嫌ならいいんだよ。道だけ教えてもらえれば」
「・・・ううん、一緒に、行く」
軍学校時代は無口で無表情な子だと思っていたのだが、先ほど学校で見た彼女は表情豊かで楽し気だった。
私と再会した途端、元の硬い口調に戻ってしまったのは少し寂しい気もする。
「ねえプラたん、私には普通に喋っていいんだよ?」
「・・・先生だから、正しい発音、する」
そういう事か。真面目なプラたんらしい。
この村に住む種族は様々で、それぞれ声帯の造りが違うため、正確な共通語に触れる機会が少ない。私との会話が共通語の練習なのだろう。
自らが望んだ任務に就き、旧友と再会し、異種族との交流に胸躍らせたこの度の仕事は、だが最初から躓いた。
「何故です?集落に入ることもできないなんて・・・」
「我々は人間との交易など望んでいない。歓迎する理由もない」
門前払いとはこのことか。私達を阻んだ男性エルフの造形は噂以上に美しいが、その表情からは友好の欠片も見つけることができなかった。
巨大な樹の枝に抱かれたような集落を遠目に見上げて立ち尽くす私よりも、彼は後ろに隠れるプラたんに厳しい目を向けた。
「お前、プラタレーナだろう?来るなと言ったはずだが」
「・・・」
「ペルーシュの気持ちも考えろ。もう来るな」
「・・・はい」
言い返すこともなく、ただ悲しそうに目を伏せる友達の手を取って立ち去った。
「ごめんね。事情も知らずにお願いしちゃって」
「・・・ううん。もしかしたら、お母さんに、会えるかもって」
「わかった。いいよ、言わなくて」
「うん・・・」
人間と亜人種は、時に子を成すことがある。
だがそれは必ずしも、異種族間の愛情の結晶であることを意味しない。様々な事情から望まぬ子を宿すこともあるからだ。
プラたんは人間であろう父親の顔も名も知らないという。そういう事だ。
軽率だった。ハーフエルフだからエルフ族に顔が利くだろうと、安易な思い込みで大切な友達を傷つけてしまった。
ただプラたんの手を握って、道を引き返した。話しかける言葉もなかった。
だからこれは後で聞いた話だ。
フルシュ村の住民は、人間と亜人種の混血が大半を占めるという。
その多くが、親の名も顔も知らぬという。
双方の種族から差別を受けるがゆえに、身を寄せ合って生きるのだという。
それを憂いた彼女は、この村の子供達の将来のため、軍学校で正しい知識を学ぶことを決めた。
学びながら私と一緒にお仕事をしていたのも、村人が出し合ってくれた学費を返すためだ。
私の友達は、思っていたよりもずっと強くて大人だった。




