第三次カラヤ村防衛戦(4)
ロット君が障壁の横から飛び出した。石礫が集中し、かざした盾を打ち鳴らす。
小ぶりの盾では全身をかばい切れず肩や足の皮膚が裂けるも、委細構わず猛然と距離を詰める。
「おらああっ!」
渾身の体当たりは、しかしゴブリン魔術師が作り出した【物理障壁】に阻まれた。
でも彼の役目はここまで。背後に隠れていた私がロット君の背を借りて跳躍し、障壁を飛び越えて頭上から打ち下ろす。
静かな洞窟に響く金属音。振り下ろした刃は妖魔の頭に届く寸前、新たに作られた障壁に弾かれた。
「あっ・・・!」
思わぬ衝撃に、剣を取り落としてしまった。親友に貰った細月刀は地面に一度跳ねると、はるか下の地底湖に吸い込まれていった。
「天に遍く光の精霊、我が意に従い彼の者を撃ち抜け。【光の矢】!」
続くルカちゃんの魔術も【魔術障壁】に弾かれる。
「そんな・・・」
淡く光る【障壁】の向こうで勝ち誇ったゴブリン魔術師が、肉片が挟まった歯を剥きだしにやりと笑う。
頭上にかざした長刀に魔力を集中させ・・・急速に抜けていった。その胸から刃が飛び出している。
左手の人差し指をくるりと回転させる。呼応した刃がくるりと回り、鮮血が吹き出した。
ルカちゃんが稼いでくれた十数秒の間に私が詠唱していたのは、【剣の舞】の魔術だった。剣を取り落としたのも、失敗に見せかけた演技だ。
黒衣に包まれた身体が傾き、橋から転がり落ち、数舜の後、激しい水音が上がった。
左手の指で弧を描くと、愛用の細月刀が私の手に戻ってきた。
刀身を丁寧に布で拭って鞘に納める。手荒な扱いをしてごめん、と贈り主に心の中で謝りながら。
このゴブリンは2種類の魔術を同時に、無詠唱で、しかも高い威力で使うことができる。
同種の魔術の打ち合いでは押し負け、正面からの物理攻撃は【障壁】で無効化され、魔術と物理の同時攻撃さえ防がれてしまう。
私が選んだ戦術は一昨年の魔人族との戦い同様、相手を格上と認めた上での奇襲だった。
「ルカちゃん、怪我はない?」
「はい・・・ありがとうございます」
「ごめんね、ロット君。酷い扱いしちゃって」
「盾にするか踏み台にするか、せめてどっちかにしてくれよ」
この日夕刻。カラヤ村自警団は魔人族とゴブリン魔術師の死体を回収し、油をかけて焼き尽くした上で土葬した。
この場にカミーユ君がいないのが惜しい。彼ならば魔人族について豊富な知識を披露してくれたに違いないのだが、ロット君によると新人訓練の疲労と筋肉痛で動けないそうだ。
だから学生時代に少しでも鍛えておけば良かったのに。さんざんロット君の首から上を馬鹿にしていた彼だが、カミーユ君の首から下も凡人以下のようだ。




