少女の帰還(3)
「妖魔討伐の依頼に参りました。魔術師ルカさんを指名させてください」
アカイア市冒険者ギルドの受付で書類に必要事項を記入し、職員さんに手渡した。
「承りました。現在ルカさんは当ギルドからの依頼はありませんので、普段でしたらそろそろ見える頃です。お待ちになりますか?」
「はい。少し待たせてください」
奥の事務員さん達だけでなく、周囲からも好奇の視線が集まっている。
金糸で刺繍が施された深緑色の士官服、銀鞘の細月刀。いかにも高級武官という出で立ち、それが十代の女性とあっては目立つのは当然だ。好んでのことではないが、今回は注目を浴びる必要があった。
お茶を片手にしばらく待っていると、見覚えのある3人組が入ってきた。
受付で話を聞いたのだろう、こちらを振り返る。
「ルカさんですね?エルトリア王国巡見士、ユイと申します。妖魔の討伐依頼に参りました」
「ど、どうも・・・」
黒いローブの少女が頭を下げた。
私と同じ17歳のはずだが、小柄な体躯と細い手足のためかかなり幼く見える。ローブも汚れこそないが、かなり着古しているようだ。
「巡見士様直々の依頼とはなあ。運が向いてきやがったぜ」
後ろにいた禿頭の中年男が割り込んできた。さらに後ろの痩せた長身の男は無言。
「あなた方は?」
「こいつの仲間っつうか、保護者みたいなもんです」
「仲間?利用するだけの関係は仲間とは言いませんよ。ラゴスさん、ゲイルさん」
中年男は驚いて私を上から下まで見渡したが、思い出せないようだ。
自分でも2年前とは別人のような顔つき体つきになったと思うし、おそらく同じような事件を何度も起こしているのだろう。
「私の顔も名前もいちいち覚えてはいないでしょう、ならば自分の罪を数えて裁きをお待ちなさい。行きましょう、ルカさん」
少々強引に手を引いて、黒ローブの少女だけを連れ出した。
懐かしくはあるが感慨のない街路を歩きながら、振り返らずに話しかける。
「ルカちゃん、私のこと覚えてる?」
「はい・・・あの時は本当に・・・」
「まだあの人達と一緒にいるんだ」
「はい・・・」
「責めはしないよ。女の子が一人で生きていく大変さは私もよくわかる。でもこのままじゃ、利用されるだけでいつか捨てられてしまう」
「・・・」
角を曲がり、ギルドの建物が見えなくなったところで振り返る。
小さい。細い。目に力がない。私はこの3年で心も体も剣術も魔術も大きく成長したと思うが、この子はあの時のままだ。
「今日はそのために来たんだ。依頼自体は隣村のゴブリン討伐だから、順調なら3日ほどで終わる。その間に少しお話ししようと思って」
「でも・・・」
「私はね、あなたに今とは別の将来があることを伝えたいの。この仕事が終わって、またあの人達の元に戻りたければそれでいい。話を聞いてくれるかな」
「・・・はい」
怯えた目。私の言葉はまだ彼女に届いていないのだろう、常に様子を伺っている。
私にはその理由がよくわかる。そうしなければ生きてこられなかったからだ。




