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エルトリア王国公職試験(3)

またこの夢だ。17年もこの身体で生きてきて、すっかり前世の記憶は薄れたというのに、最近になって毎晩この映像が浮かんでくる。


「3年間の実務経験って書いてありますからねえ。ちょっと厳しいですね」

「そうですか・・・」


就職氷河期。職業安定所の臨時第三駐車場に車を停め、入口の発券機のボタンを押し、2時間待ちでようやく空いた端末を操作して、印刷した求人票を受付に持って行った結果がこれだ。


部屋に帰ると履歴書がいくつも返送されている。証明写真を丁寧に剥がして新しい履歴書に貼りつけ、手当たり次第に郵送する。日銭を稼ぐアルバイトさえ面接に行くと数倍の倍率で愕然とする・・・。



◆◆◆



目覚めが悪い。全身に嫌な汗をかいている。

自分の身体を触って、ようやく自分が「俺」ではなく「私」であることを確認する。


寝不足なのかもしれないが、この30日ほど、私はずっとぼんやりしている。

名前を呼ばれても聞こえていなかったり、朝寝坊をしてしまったり、何もないところで転んだり。昨日などシエロ君にスカートをめくられてもしばらく気づかなかった。


目標だった公職試験を終えて、すっかり抜け殻になってしまったのだ。

自警団の早朝訓練以外で剣を持つこともないし、魔術もお湯を沸かすくらいにしか使っていない。教科書に至っては一度もページを開いていない。


ロット君もカミーユ君もとうに自分の道を歩み始めたというのに、私は未だ何者にもなっていない。

試験に向けて必死だったときは考える暇もなかったのだが、これに失敗すれば無職だ。高望みした末の就活失敗など目も当てられない。

でも結果が出ないうちは他の道を探す気にもなれず、気力も湧いてこない。不安に(さいな)まれてまた夢を見る・・・。




そして起きているときに思い出すのは、公職試験3日目の面接だ。


「ユイさんは中央部の出身だね。王都の印象はどうだね?」

「人が多くて、街も大きくて驚きました。周辺部では道に迷ったのですが、中心部に近づくにつれて道や案内板が整備されていると感じました」

「君は巡見士(ルティア)としてどのような活動をしたいかね?」

「貧富の差の是正、辺境部の生活の向上、異種族との友好的交流です」


予想できた質問に対して、用意してあった答えではある。

エルトリア王国は亜人種に対して寛容であり、国王ベルナート陛下は開明的と噂されている。それを考慮してのことだ。


ただ、確かにいくつかの政策がそれを裏付けてはいるが、国王陛下本人を見たこともなければお言葉を聞いたこともない。また、面接官が国王と志を同じくしているとは限らない。さらには私の答えが巡見士(ルティア)の職務に合致しているかどうか。


この受け答えがどのように結果に影響したのか、結果が届くまでわからない。面接自体には慣れているのが幸いだったけれど・・・。




今日もぼんやりと時を過ごしているうちに、西の空が赤く染まり始めた。ただこれを待っていたのだ。


5日に一度、アカイア市の行政官が郵便物とともにやって来る。

夕刻にそれを待ち構えて自分と家族宛ての品がないか問い合わせるのだが、もう3回ほど空振りに終わっている。


今日もまた空振りかなあ、と思いながらも聞いてみると、自分宛の封書を差し出された。

封蝋にエルトリア王国の印璽が押されている。いきなり心臓が跳ねた。




家に帰ってから開けようと思ったのだが、どうしても我慢できなくなった。

震える手でむりやり封書を開けたので、意匠を凝らした封筒がぼろぼろになってしまった。しかも中身が引っかかってなかなか出てこない。

やっと取り出した中身は、また封筒だった。少々いらつきながらまた封を開け、中身を取り出す―――




「◎▲※〇!! ×〇◆※――!!」

「あら、おかえり。もうすぐ夕食できるわよ」

「※〇■!! ▽▲※―――!!!」

「そうなの。よかったわね、ユイちゃん頑張ったものね」


お母さんに何と報告したか、私は覚えていない。

覚えているのはお母さんに抱きついてしばらく泣いていたことと、封書に書かれていた文字列だ。




『ユイ・レックハルト殿  上の者、エルトリア王国巡見士に登用する』




この日以来、私は変に具体的な夢を見ることはなくなった。

ようやく前世の呪縛から解き放たれ、「私」の人生が始まったのかもしれない。


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