エルトリア王国公職試験(2)
エルトリア王都フルート、王宮近くの練兵所にて行われる公職試験は2日目を迎えていた。
巡見士2名、一代限りの騎士若干名の募集に対して、受験者は約250名。承知してはいたが、かなりの狭き門だ。
1日目の一般教養試験はそれなりに出来たと思う。
「我が国の南端に位置するベリア半島の気候的特徴と特産品を2つ答えよ」
答:南からの暖流の影響で一年を通して温暖多湿、磁器、葡萄酒」
「エルトリア王国法第3条『貴族特権』に、附則『権利の一時停止とその条件』が定められるに至った事件の名を答えよ」
答:ルルイエ伯爵の反乱
軍学校での一般教養の成績はアシュリーに次ぐ2位。1年生のとき最下位だったのは独学で学んだ文字に間違いが多かったせいで、別に詰め込み学習が苦手なわけではない。
国内外を巡る巡見士には地理が重要と聞いて、地理や地方の歴史に関する書物を図書室でたくさん読んだ。そのあたりの自信はある。
問題は今日、2日目の武術試験だ。
既に午前中の2試合を終え、1勝1敗。もうすぐ最後の試合が始まる。
受験者同士の対戦を数名の試験官が見て評価するという形式なのだが、巡見士や一代騎士を目指す者のほとんどはは武術に長けている。歴戦の戦士に当たってしまえば苦戦は免れない。
それについて、フェリオさんの助言は「全勝しなくていい」というものだった。
「一代騎士は武力が重視されるけど、巡見士はそれほどでもない。必ず全勝するという考えは捨てた方がいい」
「ユイ君が得意にする【身体強化】の魔術は、身体にも負担がかかるようだね。1日に何度も使うものじゃない」
「試験官は意外とちゃんと見ているよ。目先の勝敗よりも試験に臨む姿勢、現在の実力、若ければ将来性などだね。印象が悪くなるような戦い方は避けるんだ」
つまり・・・先日村でフェリオさんと戦った時のような、周囲を巻き込んだ1戦限りの戦い方は論外ということだ。
「115番、ユイ・レックハルトさん」
はい、と答えて案内された試合場では、既に大柄な男性が待っていた。
隆々とした体躯に大剣、擦り切れた衣服。歴戦の傭兵といった風体で、にたりとしか表記できないような笑い方をした。
「お姉ちゃんも騎士になるのかい?こいつは参ったな」
「はい。そのつもりです」
平然と返した私は目の前の男を放置して、今日の試合を振り返った。
初戦は、資格を剥奪された元騎士の方だった。隙の無い構え、覚悟に満ちた目、充実した気力、明らかな強敵だ。切り札の魔術【身体強化・全能力】を使ってさえ分が悪いように思えた。
フェリオさんの助言通り、私はこの試合を捨てた。ここで力を使い果たしてしまっては全敗も有り得ると判断したためだ。
次戦は若い・・・といっても私より年上だろう、王都勤めの兵士さんだった。試合後に聞いたところでは、試験を受け続けて3年目だそうだ。故郷の彼女のために何年かかっても一代騎士になってみせる、と意気込んでいた。
この試合は技術で私が勝っていると判断し、魔術なしで勝利を収めた。
そして最終戦。私は心の目を対戦相手に戻した。
おそらくこの人は身体能力と経験において私に勝っている。構えは少し雑に見えるが、剣術のみで戦えば勝ち目は薄いだろう。でも。
「内なる精霊、生命の根源たる者よ。我が魔素を贄とし仮初めの血肉となれ。【身体強化・全能力】!」
「普く水の精霊、その体を分かち姿を変えよ。【素雲】!」
今日はこの試合のために魔力も体力も温存したのだ。過剰性能で構わない。
試合場に突然現れた霧が薄くなる頃には、大男が小柄な少女に腕を捻り上げられ、首筋に刃を当てられている光景が露わになってきた。
剣を収め、相手と試験官に向けて丁寧に一礼する。
これで2勝1敗、一応は及第点だろう。
これで狭き門をくぐれるかどうかはわからないが、あとはもう祈るしかない。




