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16歳の学園生活(10)

「卒業生代表、カチュア・ユーロさん」

「はい」


剣術科主席のカチュアが壇上で答辞を述べる。

私はそれを誇らしい思いで見上げていた。


「暖かい陽の光が降り注ぎ、この学舎も春の訪れを・・・」


ただ私は前世において、卒業式などというもので感動したことは一度もない。

退屈な無味乾燥の数年間が終わって次の段階に進むというだけで、(ふけ)る感慨も惜しむべき別れもなかったから。




魔術科主席はアシュリー。


「・・・という事もありましたが、そのような私を見捨てず・・・過ちを正してくださり・・・」


プライドの高い彼女が壇上で泣き出したところを見ると、やはり留学生としての重圧があったのだろう。

帝国からの留学生は余程のことがなければ主席とされるが、私に対する嫌がらせとそれに伴う学長からの叱責は「余程のこと」になる可能性があった。

ただ私も謝罪を受け入れたし、その後の彼女の努力、特に一般教養の成績や卒業制作は主席にふさわしいものだった。




アシュリーと一緒に嫌がらせをしていたエリンは、卒業式を終えると誰と話すこともなく去っていった。

ちょっと可哀想な気もするけれど、私が話しかけたところで慰めにはならないだろう。




カイナはアシュリーと一緒に泣いているが、未だに彼女からの謝罪の言葉はない。

表面的な友人は多いし多くの男子生徒と浮名を流したようだが、何だか底が知れない子のように思える。その涙も計算ずくかと思ってしまうのは、私の先入観のせいだろうか。




ラミカ。この子が同室で本当に良かったと思う。

席次はアシュリーに次ぐ次席。

魔術師としての能力は天才級だが、一般教養などの成績は下位だし卒業制作も適当だった。

もしかして留学生のアシュリーに主席を譲ったのだろうか。アホの子に見えて意外と周りに気を遣うところがあるが、本人に聞いてもまともな答えは返ってこないだろう。




プラタレーナ、通称プラたん。口数の少ないハーフエルフ。

2年間一緒に動力供給の仕事をしたし、休憩時間も一緒にいたけれど、あまりお互いの話をすることはなかった。

私よりラミカと仲が良かったのかな・・・と思っていたのだが、式が終わるなり私にしがみついて泣きだしてしまった。


「プラたん!?どうしたの?」

「やだ・・・もっと、一緒にいたい・・・」

「そうだね。楽しかったものね」


優しく頭を撫でると、感情を表す長い耳が垂れ下がってしまった。あまり表情に出さないだけで、私やラミカとの時間を大切に思ってくれていたのだろう。もう少し色々な話をすれば良かった、と後悔する。


「いつか会いに行くよ。プラたんが住んでる町、見てみたいな」

「・・・ほんとけ?約束だど?」

「ん?うん。約束する」


以前聞いた話では、亜人種が多く住む緑豊かな町らしい。その場所と名前を教えてもらい、いずれ必ず訪れると誓った。

最後に言葉が強烈に訛ったような気がするが、たぶん聞き違いだろう。




いくつもの別れを終えて校舎の外に出ると、正面に黒塗り四頭立ての馬車が横付けされていた。

その馬車に見覚えがある、それどころか乗ったことさえある。

帝国の軍服に身を包んだ黒髪黒目の女生徒は、たぶん私を待っていてくれたのだろう。


「お別れだね、カチュア」

「うん。ユイちゃんのおかげで楽しかったよ」

「私も。2年間、いろいろあったね」

「あったね。部屋に行ったらみんな着ぐるみ着てたりとか」

「夜中にどうしてもパフェ食べたいって連れ出されたりとか」

「宙返りに失敗して気絶したりとか」

「お風呂でお酒飲んで気持ち悪くなったりとか」

「【色彩球(カラーボール)】に乗るのに失敗して池に落ちたりとか」

「見てたの?」

「見てたよ」

「・・・」

「・・・」


私はどうしてこの子に惹かれたのだろう。

剣舞があまりにも美しかった、確かそれがきっかけだ。

可憐さと強さが共存する危うさも、なんだか放っておけないと思わせる。

万事控えめなくせに私にだけ遠慮がないのも、特別扱いされているようで愛おしい。


でも一番の理由は、私達がどこか似ているからだ。


彼女も決して両親と折り合いが良くはない。侯爵家の子女として、武門の娘として期待されてはいるが、カチュアという人間を愛しその成長を喜んでくれてはいない。


自分の価値を信じることができないから、全てを忘れて何かに打ち込む。だが時折思う、自分は逃げているだけではないかと。


でもここに自分と同じように、いやそれ以上に辛い思いをして努力を重ねる人がいた。

自分の全てをぶつければ、相手の全てが返ってくる。その相手を心から認めることで、ようやく自分の価値を信じることができる。

それができる相手に、お互い初めて出会ったのだ。


「また会えるよね」

「会えるよ、必ず」


「じゃあ・・・行くね」

「うん」




握り締めた両手を離して、彼女は馬車に乗り込んだ。

その姿がしだいに遠ざかり見えなくなったとき、とうとう目から汗が流れ落ちてしまった。


まだ肌寒さが残る季節だというのに、惜しむべき別れが多すぎた。


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