16歳の学園生活(5)
「ユイちゃん、何作るか決まったー?」
「いま作ってるよ」
「どれどれ、見せて見せて」
「いいけど破かないでよ?」
卒業まであと150日。私達魔術科2年生は卒業制作に取り掛かっている。
その作品に制限はなく、魔術を研究または応用した成果物であれば良い。
魔術を常駐させた実用品や魔術師用の装備品が多いが、新しい魔術の論文など無形のものも含まれる。
「編み物?自分で作るんだー」
「うん。ありきたりかもしれないけど・・・」
「いいと思うよー。何を作るの?」
「それは内緒」
軍学校の工作室には各種素材や工具、簡単な織機まで揃っている。代金さえ支払えば貴重な素材も注文できるし、事前に伝えれば隣の職業学校で陶芸窯や鍛冶炉まで借りることができる。
市販の品に魔術を常駐させても構わないのだが、「術者の思い入れのある品であるほど効果が高く持続する」という魔術の特性を考慮して、やはり自作する者が多い。
「プラたんは何作るのー?」
「・・・マグカップ作る。可愛いやつ」
「それいいなー。私もそうしよっかな」
「・・・明日、窯借りる。ラミカも一緒に焼く?」
「うん。やるやるー」
何となく私も工作室で編み物をしながら2人の様子を見ることにした。彼女達なら何か面白いことが起きるかもしれない・・・と思ったわけでは決してない。
「プラたんのは猫かー。可愛いね」
「・・・ふふ。ラミカのはキツネ?」
「私も猫だよー」
プラたんは手先が器用なのか、粘土をこね上げて可愛らしい猫耳がついたカップを作っている。尻尾が把手になっているのも良いデザインだ。
ラミカの作品は・・・私はネズミを象ったカップだと思ったのだが、どうやら猫のようだ。天才と紙一重のラミカのことだ、きっと私の期待に応えてくれるに違いない。私は笑いをこらえてひたすら編み物を続けた。
「・・・できた」
「おー、さすがプラたん。やるじゃーん」
「・・・ふふ。ラミカもできたの?」
「とっくに出来てるよー」
「・・・たのしみ」
「ねー」
3日後。焼き上がった作品を持ち帰ったラミカとプラたんは、工作室で魔術を常駐させる作業に取り掛かった。
物体に魔術を常駐させるには「媒体」を組み込むのが一般的だ。高価な剣の中には柄尻に嵌め込んだ宝玉に【硬化】を常駐させて刀身を保護したり、【浄化】を常駐させて返り血が付着しないものもある。
「・・・荒ぶる炎の精霊、我が意に従い此に宿れ。【加熱】」
プラたんが猫型のカップに両手をかざすと、両目に嵌め込まれた猫目石が淡く光った。
「きれいだねー」
「インテリアにもいいんじゃない?」
「・・・ふふ。まだ、これから」
さらにカップに水を注ぎ、人差し指を向ける。猫目石がさらに怪しく輝き、しばらく待つと中の水がぶくぶくと沸騰した。
「おおー!」
「すごーい」
「・・・ふふ」
プラたんは得意気に長い耳をぴこぴこさせ、把手になっている尻尾を掴んで持ち上げ、中のお湯を口に・・・
することなく固まった。カップを左手に持ち替え、口に運び・・・再び固まる。
「どうしたの?」
「・・・飲めない」
「なんで?・・・あっ」
左手で把手を持ち口に運ぶと、猫耳が邪魔で飲めない。右手で把手を持って飲もうとすると、猫耳がちょうど目に刺さってしまう。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
プラたんがカップを振り上げ、床に叩きつけようとするのを必死に止めた。この子意外と気が短い。
「待って待って!落ち着いてー!」
「そう、横から飲めばいいんじゃない?横から」
「・・・やりなおし」
「そ、そうだね」
「・・・ラミカの番」
「おー。見て驚けよー」
ラミカの作品はネズミ・・・いや、猫型の大きなカップの底に赤いガラス球を嵌め込んだものだった。歪で適当な着色を施された見た目からして、私の期待と不安を誘う。
「荒ぶる炎の精霊、我が意に従い此に宿れ。【加熱】!」
「・・・」
「・・・なにこの魔力」
媒体はただのガラス球だというのに、宿った魔力は尋常ではない。それは警報のような赤い輝きを放ち、ぴしぴしと陶器の表面にひびが入る音がして、焦げたような匂いが立ち込める。
魔術科始まって以来の天才と噂されるラミカだが、出力の制御はあまり得意ではないようだ。これでは中級破壊魔術の【火球】並みではないか。
「これに水を入れますと、一瞬で—――」
「まってー!」
「・・・ラミカ、だめ!」
「我が内なる生命の精霊、来たりて不可視の盾となれ!【物理障壁】!」
・・・工作室に凄まじい爆音が響いた。
3人とも尻餅をついただけで済んだのは、咄嗟に唱えた【物理障壁】が身代わりに砕け散ってくれたからだ。
「・・・水蒸気爆発って知ってる?」
「ごめーん」
「・・・ラミカ、馬鹿」
「何やってるんです、あなた達!」
「ごめんなさい・・・」
私達は折り重なったまま、飛び込んできたベルタ先生に謝った。
ラミカの行動はいつも私の想像を超えていく。




