15歳の学園生活(10)
「必ず来てね。約束だよ?」
「何度も言わなくても大丈夫だよ。絶対行くから」
カチュアが私の両手を握ったまま何度も何度も念を押すので、最後は苦笑いになってしまった。黒塗り四頭立ての馬車に乗り込み、6騎の護衛を引き連れて遠ざかる彼女を見送る。
「本当に侯爵令嬢だったんだね、あの子」
「自前の馬車でお迎えとはな。・・・で、本当に行くのか?」
「そうだね。正式にお招きされちゃったし」
私の手にはカチュアからもらった招待状、それも封蝋にハバキア帝国ユーロ侯爵家の正式な印璽が押された封書がある。彼女の身分などすっかり忘れて「そのうち遊びに行きたいなー」などと口走った結果がこれだ。ちょっと近所の友達の家に行くような感覚で言ったのだが、国境を越えて片道8日の大冒険が予約されてしまった。
その前に私達も一度、実家のあるカラヤ村に帰らねばならない。軍学校の1年を終えた私達は50日ほどの春休みに入るのだ。
いや、帰らずに学生寮に滞在しても良いのだが、私とロット君には村でやるべき事がある。隣村出身のカミーユ君にも協力をお願いしたところだ。
一度部屋に戻ると、同室のラミカちゃんが荷造りをしていた。彼女には珍しく動きやすそうな私服を着て、愛用の牛の着ぐるみが抜け殻のように干してある。ぱんぱんに膨らんだ荷物の大半はお菓子に違いない。
「そういえばラミカちゃんの家はどこなの?」
「パラーヤってとこだよ。南の端っこ」
どこかで聞いたことがある地名だと思ったら、軍学校までの道中に出会った旅好きの老夫婦が目指していた町だ。確かエルトリア王国最南端の港町だと言っていた。
「いつか遊びに行ってもいい?」
「いいよー。おいしい物たくさんあるから案内するね」
「港町なんでしょ?船に乗ったことはある?」
「うん。お父さんが貿易商だから」
「へえ・・・いいなあ、楽しそうだね」
「そうでもないよー。揺れるし怖いし、あんまり好きじゃないかなー」
いつか私も船で異国に旅立つことがあるだろうか。この世界を隅々まで見てみたいという思いを叶えるには、必ず経験すべき事だ。
それにしても、どうやら私の友達は侯爵令嬢にハーフエルフに貿易商の娘だったらしい。魔術を専門に学ぶ場だけあって、もしかしたら一般人は私くらいなのかもしれない。
「それじゃ、そろそろ行こうかな」
「私も停留所まで行くよー」
ラミカちゃんと一緒に女子寮を出ると、ロット君とカミーユ君が待っていた。お待たせ、と声をかけて一緒に歩きだす。
成績は最低だし、いじめにも遭ったし、勉強と仕事と訓練に明け暮れて、15歳の青春を楽しむ暇など全くなかった。
でも良い友達と出会って、共に学んで、充実した1年間だったことは間違いない。この学校に送り出してくれた家族に感謝しなければ。・・・しかし。
精霊感知 12位/12人中
精霊操作 12位/12人中
総合魔力 12位/12人中
一般教養 12位/12人中
そう記された成績表が、確かに私が背負った荷物の底に沈んでいる。
その重さのせいか、私の足取りは他の3人と比べると少々重かった・・・。




