15歳の学園生活(8)
「ロット、頑張れよ」
「ロット君・・・」
カミーユ君に続いて私もロット君と軽く拳を合わせたが、複雑な思いはまだ断ち切れていない。カチュアに対する思いや言葉の行き違いから気まずくなってしまい、しばらく二人で話すことは無かったのだ。
知り合って日が浅いのに公式には兄妹、という事情もそれに拍車をかけている。他人のように突き放してしまうこともできず、かと言って何事もなかったように振る舞うこともできない。
「ユイちゃん、上から見よう」
「あ、うん」
事情を知らないカチュアに促されて観覧席の最前列に並んだ。胸ほどの高さの鉄柵から顔を出すと、意外と大きくロット君の姿が見下ろせた。身長ではロット君が、身体の厚みでは相手の方が勝っているだろうか。
「2年生の・・・ケネスさんだっけ。強いのかな」
「私はわからない。見てみないと」
「2年生では真ん中くらい。ロットには・・・というより1年生にはちょっと厳しいんじゃないかな」
カチュアに代わってカミーユ君が答えてくれた。彼は知識だけでなく情報収集にも長けているようで、本当に剣術以外の部分に時間を割いていることが見て取れる。
「両者構えて・・・始め!」
軽く剣先を合わせ数歩の距離をとったかと思うと、すぐさまロット君が仕掛けた。力感あふれる動作で上段から打ち下ろし、反撃の横薙ぎを弾き返し、遠い間合いから再び打ち下ろす。私の目には長身を活かした力強い打撃に見えたのだが、隣でカチュアは首を傾げた。
「ずいぶん力が入ってるね。これはちょっと危ないかも・・・」
彼女が危惧した通り、打ち下ろしを綺麗に受け流したケネス先輩が大きく踏み込み連撃を仕掛けた。ロット君はそれを受け止めるのが精一杯で、反撃の隙もなく線の外まで押し出されてしまった。審判の先生が割って入り、一度試合が止まる。相手の武器が身体に触れるか場外2回で負けというルールらしい、これでもう退くこともできなくなった。
「ロット君・・・落ち着いて」
私は組み合わせた両手に力を込め、大きく息を吐き出すロット君を見つめた。改めて見ると記憶よりも一回り身体が大きいようだ。しばらく会わないうちに、私の知らないところで鍛錬を積んでいたのだろう。
試合が再開されると、今度はケネス先輩の方が先に打ち込んだ。ロット君が鍔元で受け止め、甲高い金属音とともに弾き返す。
先輩の攻勢にロット君は防戦一方に見えた。斜め下からの斬撃に身体を浮かされ、返す一刀を顔の前でようやく受け止める。続けざまに打ち込まれた剣を紙一重で凌ぎ、場外に押し出される寸前で身を翻して逃れる。見ている私の方が息が詰まりそうだ。
「うん・・・?」
「な、なに?カチュア、はっきり言って」
「あ、うん。ロット君、相手の動きが見えてきたね。これならまだ戦える」
カチュアが言うならそうなのだろうが、私にはぎりぎりで凌いでいるようにしか見えない。先輩が打ち込むたび、もう駄目だ、これは決まる・・・そう思うのだが、ロット君はことごとくそれを受け止め跳ね返す。これはたぶん、いや間違いなく、私の記憶の中の彼よりも数段強くなっている。
私はロット君に『あなたはカチュアに一生勝てない。達人になんてなれない』などと言ってしまったというのに、彼はめげずに腐らずに修練を積み重ねてきたに違いない。後でいくらでも謝るから、今は目の前の試合に勝ってほしい。地道な努力が報われてほしい。
歓声が上がる。とうとうロット君がケネス先輩の連撃を受け切り、全身の力を込めて押し返した。攻め疲れたのか先輩が肩で息をしている。
いつしか私は鉄柵から身体を乗り出していた。
「ロット君!がんばって!!!」
おう、と言ったかどうかはわからないが、ロット君が攻勢に出た。お返しの連撃で追い詰め、少々粗いが体重を乗せた打ち下ろしで崩し、最後は丁寧に払って相手の剣を跳ね飛ばした。
それほど熱の入った試合だったのだろう、競技場が歓声と拍手に包まれた。敗者のように膝をつくロット君に先輩が手を差し伸べ立ち上がらせると、もう一度拍手が起きた。
「ロット君!」
観覧席に上ってきたロット君の首に飛びつくと、彼はよろめいて床にお尻を着いてしまった。
「ごめんね、私、あんなこと言っちゃって。私の知らないところでこんなに強くなってたんだね」
「おう、少しは見直したか?」
「うん!ロット君なら達人にだって、何にだってなれるよ!」
カミーユ君がわざとらしく咳払いした。カチュアが不自然に目をそらす。
「えーと、二人は兄妹なんだよね?」
「え?」
なぜかお尻の下にロット君の下腹部がある。
兄妹だからといって、いや兄妹だからこそしてはいけない体勢だと気付いて、私は慌ててお尻をよけた。




