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15歳の学園生活(7)

カラヤ村やアカイア市ではとっくに雪が積もっている季節だが、ここジュノンの町は標高が低く温かい海流が流れ込むため滅多に雪が降ることはない。それに魔術を応用した動力球から熱や水が供給されている学校と寮は快適そのものだ。


その快適な学校の2階にある多目的室には、魔術科2年生による卒業制作の品々が展示されている。


『【浮遊(フロート)】常駐の羽と【風操作(ウィンドコントロール)】併用による自由飛行』

『【冷却(コールド)】常駐による低温維持グラス』

『瞬唱魔術【閃光の矢(フラッシングボルト)】の開発』


その作品は様々で、魔術を常駐させた実用品や魔術師用の装備品、新しい魔術の論文など無形のものまで含まれる。

特に制限らしいものはなく魔術を研究した成果物であれば良いとの事だが、魔術を常駐させる品を自作した者が多いのは「術者の思い入れのある品であるほど効果が高く持続する」という魔術の特性を意識してのことだろう。


「・・・?」


それら作品群とは別に、どうもさっきから気になって仕方ないことがある。窓から見える正面広場のベンチに、所在なげに座っている生徒がいるのだ。剣術科の1年生だったと思うが名前が思い出せない。

普段なら気にも留めないところだが、剣術科は今日から3日間、全生徒参加の卒業記念試合が行われているはずだ。あんな所にいていいのだろうか。


「ユイちゃん、カミーユ君の試合が始まるよ」

「あ、うん。いま行く」


私はカチュアに呼ばれて競技場に向かった。彼女も試合が組まれているが、圧倒的な実力を誇る留学生であるため2回戦からの出場らしい。

観覧席から吹き抜けの競技場を見下ろすと砂岩の床に長方形の線が4組描かれており、それぞれで試合が始まっていた。


「カミーユ君!」


観覧席から声をかけると、小柄な女の子のような男の子がこちらに手を振った。表情は明るく緊張の欠片も感じさせない。間もなく試合が始まり、すぐに終わった。


「・・・終わっちゃったね」

「・・・うん」


カミーユ君は先程と同じように明るく手を振った。開始数秒で剣を叩き落とされたため、その手には何も持っていない。彼は何事もなかったように観覧席に上がってきた。


「やあ、ユイちゃんも来てくれたんだ」

「・・・もうちょっと抵抗というか、何とかならないの?」

「そんなの無駄だよ。僕が剣を抜くようなら、もうその戦いは負けだ」


自分は参謀志望だから剣術など最低限で良い、というのが彼の主張だが、私の見たところその最低限すら満たしていないのではないだろうか。他の教科の成績は知らないが、これで剣術科を無事に卒業できるのかと心配になってしまう。


「おい、ユッカの奴いたか?」

「いや、見当たらん。どこ行ったんだあいつ」


ばたばたと剣術科の生徒が走り抜けていった。それで思い出した、さっき広場のベンチに座っていた生徒。確かカミーユ君と話していた時に一度会っただけだと思うが、ユッカペッカ・メブスタという珍しい名前だけが妙に記憶に残っていたのだ。


「あれ、まだ見つからないんだ。もうすぐ試合なのに」

「さっき見たよ。広場のベンチにいた」

「あー、そうなんだ」

「急いで呼びに行かなきゃ」

「んー・・・そうだね。ユイさんならまあ、可能性はあるかも」


カミーユ君は妙に歯切れが悪い。私は首を傾げてカチュアを見たが、彼女も困った顔で黙ってしまった。試合に遅れれば不戦敗になってしまうというのに、この二人の様子は何だろう?とにかく私達は急いで階段を降り、広場に向かった。


「ユッカ君、もうすぐ試合が始まるよ」

「・・・行かない」

「不戦敗になってしまうよ?」

「いいんだ。どうせ出ても負けるんだから」

「それならそれで、棄権するって運営の先生に言わなきゃ」

「うるさい!ならお前が言ってきてくれよ!」


確かにこれは面倒くさい。カミーユ君が一応説得を試みたものの、頑なな拒絶に遭って早々に諦めてしまった。代わりに私が押し出される。え、なぜ私?一応言ってはみるけれど・・・。


「ユッカペッカ君だよね?ユイだけど、覚えてるかな」

「・・・・・・」

「体調悪いの?じゃあ棄権しようよ、一緒に運営まで行こう」


正面にしゃがんで優しく腕に触れると、意外なほどあっさり立ち上がってくれた。運営係のテーブルまで連れて行き、背中をぽんと軽く叩く。これも意外とあっさり棄権する旨を伝え、一言注意されただけで済んだようだ。


「残念だったね。来年がんばろう」

「・・・うん」


後ろでカチュアとカミーユ君が小声で話すのが聞こえる。


「ユイちゃんって、こういうの本当に上手いよね。人の気持ちがわかるっていうか」

「んーまあね。それだけでもないだろうけど」


ユッカペッカ君を見送って振り返ると、カミーユ君が視線をそらした。


「カミーユ君、何か隠してる?」

「んーいや、彼と一度会ったことがあるよね?あの後ユイさんの話になって、それで印象が良かったんじゃないかな。たぶん」

「それだけ?それであんなに素直になる?」

「んーほら、僕達って剣術の成績悪いからさ。ユイさんも魔術科で成績は悪いけど頑張ってるって伝えたら、親近感を持ったみたいで」

「カミーユ君って、ごまかす時は『んー』って言うよね」

「うん、参った参った。その通りだよ」


カミーユ君は両手を挙げておどけて見せた。これ以上問い詰めても無駄なようだし、そんな場合でもなくなった。運営係から気になる名前が読み上げられたのだ。


「1年生ロット・レックハルト君、2年生ケネス・ルーカス君、第4試合場に入ってください」


長身の若者が立ち上がった。濃い茶色の瞳は覚悟を宿し、口元は勇ましく引き締まっているが、模擬剣の鞘を握る手はかたかたと震えていた。


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