間違いない、こいつはエロガキだ。
夕食を頂いてしまった私はどこか雨風をしのげる場所はないかと尋ねてみたが、カイルさんとアメリアさんは顔を見合わせただけで直接的な返答はなかった。
ここカラヤ村には町外れに共同の沐浴場があるそうで、そこに連れて行ってくれるらしい。
私は身体を縮こまらせて、はいと頷いた。気付いてはいたが私の身体は汚いし服からは少々、いやかなりの匂いがする。もともと牧場の匂いが染みついていた上に、昨日は吐瀉物と血と汗と泥にまみれて逃げ回っていた。このまま明日の仕事に連れて行くわけにもいかないのだろう。
それはわかる。だがどうしてアメリアさんとクリアちゃんだけでなく、シエロ君がついて来ているのだろう?沐浴場は交互に男性の日と女性の日となっており、今日は女性の日と聞いたのだが。まあいいか子供だし、気にしている人もいなさそうだ。
それよりも恐れていることがある。脱衣場で服を脱ぐと自分に視線が集まるのを感じた。やっぱり、と借り物の小さな布で身体を隠したが、隠しきれるものではない。痩せすぎであばら骨が浮いているのはいいとして、表も裏も痣だらけで切り傷、火傷、刺し傷の痕まである。小さな村でこんな身体を見られたらどんな噂を立てられることか。
「さあユイちゃん、行きましょう。クリア、転ばないように気を付けるのよ」
「はーい!」
アメリアさんが自分の身体で私を隠してくれたのがわかる。この人は色々気づいた上で、何も言わずに助けてくれる。優しくて料理が上手で気遣いができる、素敵な大人の女性だ。
「おねえちゃん、きずだらけだね」
「うん。お姉ちゃんドジだから、すぐ転んじゃうの」
「そうなんだ。これいたい?」
「・・・痛くないけど、女の人の身体を触っちゃだめだよ?」
私が身体を洗っている間、シエロ君が隣からじっとこちらを見ている。確か6歳だと聞いたし、そろそろ異性に興味が出てくる頃ではないだろうか。自分が少女の身体になって男の子から性的な目で見られるなど、どこをどう意識すべきなのか理解が追い付かない。
「クリア、ちゃんと肩まで浸かるのよ。ゆっくり20数えてから上がりましょうね」
「いーち、にーい・・・」
アカイア冒険者ギルドのレナータさんほどではないが、アメリアさんも豊かな母性の象徴をお持ちのようだ。私がこれからどう成長してもこうはならないだろう。
そういえば自分は今のところ、男性と女性どちらにもそれほど性的な興味を感じていないような気がする。おそらく長期にわたる栄養失調のせいで15歳の今でも二次性徴が終わっていないからだろう・・・。
「いたいところ、なおしてあげるね!」
「ぴゃあっ!?」
ぼんやりとそんな事を考えていると、シエロ君に背中の傷を舐められた。
「こら!そんな事したらもう連れてきてあげませんよ!ごめんねユイちゃん」
「ごめんなさーい!」
「は、はい・・・」
この言動、このにやけた表情、無垢な子供の無邪気ないたずらなどというものでは断じてない。私は半ば本気でシエロ君をにらみつけた。
間違いない、こいつはエロガキだ。