15歳の学園生活(4)
日は巡り、いつしか窓の外で枯葉が踊る季節となった。
将来のために魔術を学び、仕事に汗を流し、本を読み漁り、学友とともに技を磨く充実した日々が続いているが、障害が無いわけではない。
数日前は教科書に落書きをされていた、不快だがまだ我慢できる。昨日は教科書を開いたら、その日の授業分のページがごっそり抜き取られていた。いくら何でも腹に据えかねたが騒ぐことはせず、隣の席のプラたんに見せてもらった。
だが今日こそは無理だ。私のだけでなく、プラたんの教科書のページまで抜き取られていたのだ。
「先生」
担任のベルタ先生は30代半ばの女性で、見た目通りヒステリックなところがある・・・というのが私達生徒の見るところだ。先生は私の声を無視して授業を始めようとしたが、こちらもそれを無視して続けた。
「私とプラタレーナさんの教科書が破られていました。取り替えてもらえないでしょうか」
「誰かに見せてもらいなさい」
「それは解決になっているのでしょうか?」
「授業を始めます。91ページを開いてください」
「ありません」
「はあ!?」
「91ページがありません」
「見せてもらいなさいと言っているでしょう!」
ラミカちゃんに制服の袖を引っ張られたので仕方なく座り、彼女の教科書を3人で見ることにした。くすくすという笑い声の主は見なくてもわかる、アシュリー、カイナ、エリンの3人組だ。私は授業が終わるとすぐに彼女達に詰め寄った。
「アシュリー」
「なによ」
「教科書のページ返して」
「知らないわよ。私達がやったって証拠でもあるの?」
「そういうのいいから。どこに捨てたの?」
「知らないって言ってんでしょ!何でも私のせいにしないでよ!」
やだー、ユイちゃんこわーい、などと意味のない声を上げるカイナとエリンは、一人ずつ睨みつけるとおとなしくなった。どうせ彼女達は一人では何もできない、問題はアシュリーだけだ。
「何が楽しいのか知らないけど、一生懸命生きてる人の足を引っ張るのはやめて」
アシュリーは何か言い返したようだが、捨て置いて次の場所に向かった。黙っていればいい気になるので一言言っただけだ。
彼女は立場の強い帝国からの留学生だ、先生も問題を大きくしたくないのだろう。私がただの未熟な少女なら無力感に苛まれるところかもしれないが、生憎と前世で十分に社会経験を積んでいる。大人には大人の戦い方があるというものだ。
「先生」
私は職員室に入るなりベルタ先生の元に向かい、声を上げた。
「私とプラタレーナさんの教科書が何者かに破られていた件、対応して頂けますでしょうか」
室内の視線が一斉に集まる。
「な、何を言っているの」
「聞こえませんでしたか、ではもう一度申し上げます。何者かに教科書が破られていたので取り替えてもらえないでしょうか」
「ちょっとこっちに来なさい!」
ベルタ先生は私の腕を掴んで別室に入り、扉を閉めた。
「ユイさん、あなたどういうつもり!?」
「他意はありません。教科書が破られて授業に支障が出ているので対応をお願いします」
「自分にも悪いところがあるとは思わないの!?」
「私に悪いところがあったからといって、教科書を破って良いということにはならないはずです」
「あなたは!どうして他の子と同じようにできないの!」
「先生のおっしゃる意味がわかりません」
「帝国の留学生とは仲良くしなさい!わかるでしょう!」
「留学生とはアシュリーさんのことですね?先生は彼女が教科書を破ったと思うのですね?」
先生はわなわなと両の拳を震わせているが、これが私の配慮だと気づいてくれるだろうか。私が他の先生に相談したり学長先生に直接伝えれば「問題」になってしまうが、ベルタ先生から学長なら正規ルートの「相談」で済むのだ。
「・・・もうすぐ学長が長期出張から戻ります。それまで数日待ちなさい」
良かった、先生も大人だった。
だがベルタ先生は気づいただろうか、私は徹頭徹尾「教科書を破られたから対応してください」としか言っていない。誰からどんな嫌がらせを云々、などとは一言も言っていないのだ。
だから万が一、学長から「お前が悪い!留学生の言うことを聞け!」などと言われるようなら、「教科書を取り替えてもらいたいだけですが?」と返すつもりだ。
自分の権利は主張するが、逃げ道は用意しておく。
なにしろ私の中身は嫌というほど酸いも苦いも辛いも不味いも嚙み分けた、ずるい大人だから。




