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強敵と書いて親友と読む(1)

ジュノン軍学校に入学して10日弱、少しずつ生活のリズムが掴めてきた。


動力供給のお仕事は朝3時から6時まで。最も動力消費が少ない時間帯とあって、プラタレーナちゃん、通称プラたんと私の新人2人でも何とか務まりそうだ。

魔術の勉強は9時から12時、昼食を挟んで13時から16時頃まで。19時までに夕食を摂り、地下の訓練施設で精霊感知や魔力操作の練習をして、21時までにはお風呂に入って就寝。


6時に仕事を終えてすぐ部屋に戻るとラミカちゃんが起きてしまうので、この時間を利用して学校の敷地内をランニングすることにした。

学校の裏口を出て資材小屋の横を通り、運動場の外周を回って銀杏の並木道を抜け、正門の守衛さんに敬礼してから池を1周し、多目的広場をかすめて女子寮へ。1周するだけで軽く汗をかくほどの広さがある。


「あ、今日もいた」


広場の隅で黒髪の女の子が剣を振るっている。毎朝同じ時間に、同じ場所で。

初めてその子を見たとき、私は走ることも忘れて見惚れてしまったものだ。顔立ちや体つきにではない、失礼な言い方かもしれないがそれらは地味な方だろう。

私の目を奪ったのはその技だ。鈍く光る真剣を使って左切上から右薙ぎ、反転しての刺突、そのまま手首を返して左薙ぎ、正眼の構えに戻って静止。澄んだ水が緩やかに流れるごとく一切の無駄がなく、息を飲むほど美しい。


「あの・・・」


鏡のごとく静かな水面に触れるようで今日まで躊躇っていたのだが、ついに我慢できず声をかけてしまった。


「毎日ここで練習してます、よね」

「はい。あなたも毎日走ってます、ね」


肩で切り揃えられた黒髪、同じ色の瞳。近くで見ると地味ながら整った顔立ちで、細身の身体は研ぎ澄まされた刀剣のようだった。


「綺麗な技なので、つい声をかけてしまいました。2年生の方ですか?」

「いえ、1年生です。ついこの前入学したばかりで・・・」

「そう、なの・・・?」

「うん」


控え目に笑うと少女らしい可憐さが顔をのぞかせる。怖い人かもしれないと思っていたが、こんな表情もできるのだ。


「剣術科だよね。子供の頃から訓練してたの?」

「たぶん3歳頃から、かな」

「そんなに小さい時から?お父さんに教えてもらったとか」

「ん・・・そんな感じ」


視線を外して口ごもった。何か言いにくそうな気配を感じたので話題を変える。


「寮の中に訓練施設があるのに、ここがいいの?」

「うん。森が近くて虫がいるから」

「虫が・・・?」


虫がいるから中で訓練する、ではなく虫がいるから外で訓練する?言葉の意味をしばらく考え、もしやと思い彼女の足元を見た。


「うそ!?」


蜂が、蝶が、蠅が、小さな羽虫の類までが両断されて散らばっている。あの剣舞の間に宙を飛ぶ虫を斬っていたというのか?

私は背中にかいた汗が冷たくなるのを感じた。ロット君は達人(エスペルト)になると宣言したが、この子は既に達人の域にあるのではないか?


「残酷なんだけど、いい訓練になるって言われて・・・」

「・・・」


どう考えても普通ではない。剣術科の先生達の実力は知らないが、こんな芸当ができる人がそういるとも思えない。


「やっぱり残酷だよね。やめた方がいいよね・・・」

「あ、違うの!ごめん、ちょっと考え事しちゃって」


剣の達人が肩を落とし俯いてしまったので、慌てて首を振る。

どうもこの子は違和感だらけだ。剣術という殺人の技を極めている割には殺生を嫌うようだし、これほどの域に達した者が学校で学べることは少ないはずだ。なぜ彼女はこんな所にいるのだろう?


「・・・ねえ、良かったら剣術を教えてくれない?」

「いいけど、授業だけじゃ足りないの?」

「あ。私、魔術科なんだ」

「え?それなら魔術だけを極めた方が・・・」

「私がなりたいのは、大魔術師じゃなくて巡見士ルティアなんだ。そのためには剣も使えないといけない」

「そっか。なりたい物があるって羨ましいな」

「あなたには無いの?」

「うーん・・・ない、かな」


やっぱりおかしい。これほど剣を極めた者が、自分の進むべき道が見つからないという。

もしかしてこの子は剣術が嫌いなのではないか。子供の頃から剣術ばかりやらされてきたが、本当は他にやりたい事があるとか・・・。

聞きたいことはたくさんあるが、ついさっき知り合ったばかりの相手に踏み込んだ事を聞くわけにもいかない。いずれ機会があれば話してくれることもあるだろう。


「それじゃあ、明日この時間に」

「うん。木剣も用意しておくね」


手を振って走り出した私だったが、あることに気づいて駆け戻ってきた。


「ごめん、名前を聞くの忘れてた!」

「カチュア」

「私はユイ。また明日ね!」


これが、私の生涯の親友にして終生の好敵手(ライバル)となる彼女との出会いだった。


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