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せっかく美少女に転生したのに不幸なまま終わってたまるか!  作者: 田舎師
3章 エルトリア巡見士
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ハバキア帝国潜入調査(5)

いくつかの魔術と密偵としての能力とを使い分けて帝都ミューズを抜け、徒歩と駅馬車の旅を8日ほど続けてルートの町まで来た。ここまで来れば追手の心配も薄れただろうか。


「ユイ君、外で食事にしようか。準備ができたら来てくれ」

「え?あ、はい」


往路や帝都では情報収集のため単独行動が多かったし、ミハエルさんも一緒だった。復路は周囲を警戒する必要があったため携帯食で済ませることが多かったのだが、そろそろ警戒を緩めても良いという事だろうか。


そういえばフェリオさんと二人で食事など初めてだ。本来ならば少々着飾りたいところだが、残念ながらそのような服は持ち合わせていない。いつもより丁寧に髪を結って、薄く化粧を施した程度だ。


事前に言われてもいる。動きやすい服装で帯剣のこと、と。

敵地ゆえ当然なのだが、敢えてそれを言ったことが気になるといえば気になる。


「ユイです。お待たせしました」

「うん。それじゃ行こうか」




ルートは硝子細工の町として知られている。

店先に並べられたいくつもの硝子の工芸品が、夕陽を受けて色とりどりに煌めいている。5年ほど前にこの地を訪れたときは、弟妹のために色違いの砂時計を買ったものだ。


フェリオさんに案内されたのは、高台にある料理店だった。

この町で作られたであろうグラスを軽く合わせて、黄昏の町を見下ろす。


「ユイ君は前にもこの町に来たことがあるんだったね」

「ええ。軍学校の友達と一緒に」

「留学生のカチュアっていう子だったかな?」

「はい。卒業以来会ってないんですけど・・・」


私は少々、いや、かなり緊張していた。

巡見士ルティアになってからは外食が多くなってはいたが、男性と二人でこんな雰囲気の良いお店に入ったことはない。


しかも相手はフェリオさんだ。殴られ蹴られ蔑まれるばかりだった私の人生を変えてくれた人。

彼は一体何を言い出すつもりだろうか。そればかりが気になってしまい、料理の味もよくわからない。子供の頃は食事に困るほどの生活だったので、何を食べてもおいしいのだけれど。




「この上は展望台になっているんだ。行ってみないかい?」

「はい。是非」


食事を終えた私達は螺旋階段を上り、展望台に出た。冷たい夜風が頬を冷ましてくれる。


白、赤、青、黄、緑。黒い布に宝石箱をひっくり返したような光の欠片が眼下に広がっていた。


「ユイ君」


不意に両肩を掴まれて驚いた。

な、何をするつもりだろうか。雰囲気の良い夕食の後で、こんな夜景が見える場所で。

私が混乱した頭で導き出した答えは、目を閉じることだった。

しかし数瞬待っても、予想した感触は来ない。




「さよならだ。後を頼むよ」




軽く両肩を押された私は、腰ほどの高さの鉄柵を越えて宙に舞った。


「え・・・?」


時間がゆっくり流れる、奇妙な浮揚感。


なぜ?フェリオさんが帝国側について、私を消そうとした?

それは無い。そんな機会はいくらでもあったし、彼は私が【落下(フォーリング)制御(コントロール)】の魔術が得意なことを知っている。ならばどうして。




答えはすぐに出た。【落下(フォーリング)制御(コントロール)】を唱え、宙返りで地面に降り立ったところに、三方から黒い影が迫ってくる。


おそらく多数の追手に囲まれており、2人での逃亡は無理と判断したのだろう。

不覚にも私はそれに全く気付かなかった。未熟さもあろうが、2人での食事にすっかり舞い上がっていたから。

フェリオさんの安否は気掛かりだが、こうなっては落ち込む暇も後悔する時間もない。


「内なる生命の精霊、我に疾風のごとき加護を。来たりて仮初めの力を与えたまえ!【身体(フィジカル)強化(エンハンス)敏捷(アジリティ)】!」


影を一つ切り裂いて、色とりどりの光の中を駆け出した。




宝石箱のような光の一つ一つまでもが忌々しい。

いや違う、忌々しいのは自分自身だ。油断し、舞い上がり、足手まといになってしまった自分が光の中に映し出されているから。


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