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超短編集(怖)

ハロウィン無差別殺傷事件の捜査ファイル

作者: M

 10年前の10月31日

 その事件は起きた。


 人込みでごった返す交差点。

 そんな中に、ピエロのマスク、ダボダボで原色の服、ナイフを持った男が歩いていた。


 普段そんなおかしな奴が歩いていたら、皆が怪しむ。たぶん通報する。

 しかし、その日は特別だった。誰も気にしない日だった。


 ハロウィン。

 皆が奇抜な仮装をして、お祭り騒ぎをする日。


 そのピエロはナイフを振り回した。

 …そのナイフは本物だった。


 15人が殺傷された。


 犯人はナイフで切りつけながら逃げた。

 そして路地に入ると、マスクや服を脱ぎ捨てて…、消えた。


 僕はその現場に居た。


 事件は大々的に報道され、どのTV局でも犯人探しばかり報道された。

 被害者や遺族の涙が繰り返し流され、誰もが見えない犯人に恐怖した。


 2年後、僕は念願の警察官になった。


 あの事件があったからこそ警察官になったのだ。

 だから僕は、この事件について調べた。

 その情熱が認められ、去年から事件を捜査するチームに配属された。


 事件から10年目となる今日。

 今朝のニュースは当時の事件を取り上げていた。

 そして捜査に進展がないことも付け加えた。


 が、のど元過ぎれば熱さ忘れる。

 今日も仮装でうろついている若者がいる。


 足元を見ると、ガードレールの下に花束やお菓子が並べてあった。

 一時期は献花台が備えてあったが、今ではもうこれだけ。

 僕もそこに花を添え、手を合わせた。


 署に戻ると、僕は当時の証拠品を収めた箱を開く。

 返り血のついたマスクや服が当時そのままの状態で保管されている。


「お前、また証拠品を見てるのか。」


 先輩刑事も区切りとなる日が気になったのだろう。

 一緒に証拠品を確認していく。


「はい、少し気になることがあって。」


 証拠品には指紋が一切ない。また、ほとんどが大量生産で作られた既製品ばかり。

 10年前とは言え、流通が発達し、雑貨を大量に扱う店舗が各地にある。

 個人を特定できることはなかった。


「証拠品、もっと量があったと思ったが…」

「遺族へ返却されたものがかなりあります。」


 今回の目的である証拠品の防犯カメラの映像テープを取り出す。

 最新技術で更なる映像解析を行うことができるようになったのだ。


「なんだか、証拠も記憶も風化していくな。」


 先輩はため息を吐く。

 そして、窓の外を仮装して歩く人を目で追う。


「一番怖いのは、危機感の風化です。」

「本当にそうだな。」


 証拠品の箱を片付けると、僕は捜査ファイルを引っ張り出し、自分の机に戻る。

 先輩はタバコを吸いに部屋を出て行った。

 

 それを確認すると、僕は証拠品をゴミ箱に捨てた。


 …そう、僕は()()()()()()()のだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ただ事件を目撃したということではなく、彼が犯人だったんですね。証拠品が少なかったのも、今回と同じように主人公が処分していたからだったのかなと思いました。
[良い点] ああ、「あの現場にいた」ってそういう… 素顔を隠していても咎められないハロウィンは、通り魔殺人鬼にとっては最適のイベントなのでしょうね。 返り血もゾンビコスと解釈されれば、すぐには気づかれ…
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