僕と私(怠惰物語)
僕は私にこう言った、「私よ、お前は何故私なのだ?」
私は僕にこう言った、「僕よ、それは私が私であるからだ」
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僕は私にこう言った、「私よ、お前は何故意見を述べない?このままではお前の価値は下がり、無個性になるぞ」
私は僕にこう言った、「僕よ、意見を敢えて述べないことが私の存在意義なのだ。思ってても口には出さない。それが円滑なコミュニケーションのやり方だ」
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僕は私にこう言った、「私よ、なぜお前は我慢するのだ?いまお前の身体は悲鳴をあげている。休ませなければつぶれてしまうぞ」
私は僕にこう言った、「僕よ、我々は知的生命体であって獣ではない。獣は本能的に動くが我々は違う。大切なものを守るためにたとえ命の危険があっても戦わねばならんのだ。それが、私の存在意義である」
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僕は私にこう言った、「私よ、何故今の立場を捨てない?そのままその席に座っていたとしても、お前は満たされないはずだ。お前のしたいことをなぜ優先しないのだ?お前は不老不死ではないのだぞ」
私は僕にこう言った、「僕よ、お前ならば捨てれるであろう。何故ならお前にとっての大切は自分だけだからだ。私は違う。私は家族がいて、会社には仕えるべき主と、守るべき部下がいる。そして、私を信頼して取引してくれる他人がいる。それらを裏切れば、彼ら全員が路頭に迷い私自身の徳も下がるだろう。彼らのためならば、私のことなど二の次だ」
重ねて僕はこう言った、「私よ、僕には分からない。何故そんなに縛りを作るのか。僕からしたら、そんなもの生きていく上で邪魔者でしかない。皆お前を信頼しているのではない。お前の身に付けている装飾品を信頼しているんだ。お前に何かあれば、必ず皆お前から装飾品を剥ぎ取り、鮮度が落ちぬうちに売りさばいて別の私を探しに行くぞ」
私は僕にこう言った、「僕よ、お前はなんて非情なのだ。何故他人を信用しないのだ?確かに人間はそういう負の一面もある。それは歴史が証明している。しかしそれは、皆他人にきちんと徳と礼を与えていないからだ。自らを敢えて殺して他人のために働けば、必ず私の力となってくれる。私自身の価値も上がる。愛を与え合うのが、私たちの生きる意味だ」
最後に、僕はこう言った、「私よ、多分、多分な、それは錯覚だよ」
ー完結ー