006 ステアの過去
ステアの過去の話です。
少し重めですが…
「今日のお休みの日はゲームなんだね?」
「しょうがないだろ? 信彦さんは今日はサークル活動で忙しいんだから」
「だからといって、ゲームばかりやってると目が悪くなるよー?」
「う…」
ステアの部屋で、ゲームをやりながらステアとアリアは会話を交わしていた。
ちなみにステアがやってるゲームは、某野球ゲームの育成モードである。
ついでに、ステアとアリアは、休日の日曜日を含めるとシフト上2連休で、今日は1日目の休みの日である。
もちろん正光も同じだが、現在は月1度の町内会の会議に出ている。
そして、シュクレール亭自体は、今日は土曜日なので絶賛営業中。
今回は、正光の代わりにこの間来たアリアの母親、チャティーがシフトに入っているアルバイトと共に働いている。
「そういえば、ステアちゃん?」
「ん、どうした?」
「ステアちゃんって…高校とかは通わないの?」
「………」
アリアから投げかけられた質問に、ステアはゲームをしていた手を止めて黙り込んだ。
そして、ステアは重々しいながらも口を開いた。
「私の両親がさ…そうさせてくれなかったんだよ…」
「え…?」
ステアの重い答えにアリアは驚きを隠せなかった。
彼女はそのまま自分の過去を話す。
「私の家族は…貧乏なのにさ、両親が働かないんだよ…。それでも親戚がいたからそこからの支援で中学までは行く事ができたんだ…。でもさ、その度に両親からの酷い仕打ちがエスカレートしていったんだ…」
「……」
余りにも重いステアの過去…。
しかし、アリアは黙って彼女の過去の話を聞くしかなかった。
ステアは話を続ける…。
「中学を卒業した時にさ、両親がいままで助けてくれた親戚との交流を断ったんだ…。それからさらに私への仕打ちが酷くなっていったんだ…。しかも、両親がそれをメシウマにしてるみたいで耐えられなかった。そして、飽きた両親は私を捨てたんだ…」
ステアの目に涙が浮かぶ…。
辛い過去を思い出してしまったからだろう。
段々と明らかにされていくステアの過去…、それは余りにも重すぎたのか、アリアは何も知らずに学校の事を尋ねたことを後悔していた。
「ごめん、ステアちゃん…。私、無神経だった…。 そんな事があったにも関わらず学校の話なんかしちゃって…」
俯いた状態で、謝るアリア。
しかし、ステアは…すぐに笑顔に戻って…。
「いや気にしないでくれよ。いつかは話そうとは思ってたし。それに、アリ姉さんとニーサンには感謝してるんだよ。3年間路上で苦しんでた私を助けてくれた上に、日本という場所でだけどこういう仕事も与えてくれてるしな」
「あ、それであの時に繋がるんだね。私とお兄ちゃんがお父さんとアメリカの旅行に出かけてたあの日に…ステアちゃんを保護したんだよね…。あの時、どうして路上で震えてるのかが分からなかったけど…」
「ま、そういうこった。ニーサンも聞いた話じゃ似たような感じだったみたいだけど」
ちょっと重いムードが漂っていたが…少しずつ二人に笑顔が戻り、
「だから、せっかく与えてくれた居場所だから、私はそれに報いるために頑張らなきゃいけないってね。今日と明日は休みだけどなっ」
「あはは、そだね。一緒にがんばろうねっ」
ムードも明るいムードに戻っていった。
その時に…
(コンコン)
「あ、はーい」
ノックが聞こえたので、ステアが反応し、ドアを開けると…。
「おーい、二人とも話終わったかー? ご飯できたぞー」
そこに正光がいた。
「あ、あれ? お兄ちゃんいつの間に帰ってきてご飯作ってたの!?」
ステアの後ろから驚いた表情のアリアが正光に尋ねた。
「30分前に帰ってきたよ。そしてすぐに料理を作ってきたよ。声を掛けようとしたけど…お前たちが何を話したかは聞かないが…雰囲気が重くてさ…」
「は、話を終えて明るいムードになるまでずっとその付近で待ってたのか…」
正光の言い訳に、唖然とするステア。
背後にいるアリアは、納得した感じで…
「うん、ごめん、お兄ちゃん…。でも、そういう時こそ思いっきりノックしてくれてもよかったのにねー。まぁ、お兄ちゃんの性格上しょうがないけど…」
「ははは…」
アリアの言葉に、正光は苦笑いする。
的を得ているだけあって、返す言葉が見つからない。
「ご飯の時間なんだろ? 早く食べようぜ?」
「あ、そうだねー。お兄ちゃんの手作り料理もなかなか美味しいからねー」
そう言って、アリアは一足先に正光と一緒に台所に向かう。
(今の私は幸せだな…。居場所も仕事も…こうしてちゃんとある…。だからこそ、私はがんばらなきゃな…手を差し伸べてくれた…ニーサンとアリ姉のためにも)
再度、心の中で今の幸せをかみ締めて、ステアは正光&アリアの後を追って台所に向かった。
彼女はひとりじゃない。
手を差し伸べてくれた人が目の前にいる。
そして、仕事場から出来た友達もたくさんいる。
だから…大事にしよう、今を…。
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