014 康弘とアイドルの少女
ある昼下がりのシュクレール亭。
そこにある客が入ってきた。
「いらっしゃいませー、って康弘さん?」
アリアが接客に乗り出したら、その客をアリアは知っていた。
「よぉ、アリアちゃん。 久しぶりだな、学校は?」
「期末テスト最終日だから朝11時で終わったんだよ。 もしかしてお兄ちゃんに用事かな?」
「ああ、正光に用事なんだ。 相談事があってな…。 おーい、入って来いよ」
「し、失礼します…」
康弘と呼ばれた男とアリアが話している所に、康弘の呼びかけで一人の少女が入ってきた。
その少女はオドオドとしている。
「康弘さん、相談事ってその子? ひょっとして…」
「ああ、俺が働いているプロダクション所属のアイドルさ。 元々人見知りをする子だから両親からそれを克服するためにオーディションを受けさせられて合格。 その後声優を中心に活動してるんだがな…」
「なるほど、それでお兄ちゃんに相談を…と?」
「そうなんだ。 正光に相談するついでにここで飯を食べようとね。 要が世話になってるのもあるからな」
「あ、そういえば要くんもアイドルだったね…」
「あれ、康弘か?」
さらにアリアと康弘が話をしていると正光が出て来た。
「おお、正光! 相変わらずまったりやってんな」
「茶化すな。 で、アリアとの話を盗み聞きさせてもらったが、相談なのか?」
「まぁな。 そこにいるオドオドした女の子のアイドルなんだがな…。 まずは注文でも取るよ」
「じゃあ、そこの大きなテーブル席に座ってくれ」
康弘とアイドルの女の子が正光に促されるままに大きなテーブル席へと向かう。
直後に康弘は大盛の牛丼を、アイドルの子はナポリタンスパゲッティを注文した。
「注文の品を待ってる間に改めて聞くが、その子に何があった?」
「端的に言えば、セクハラとかモラハラとか…数えだしたらキリがないレベルのダメージをこの子は受けたんだ」
「マジか…」
「大マジさ。 この子の担当は別の奴だったんだが、どうもそいつが化けの皮をはがして来たんだ」
康弘からの相談事…それは少女アイドルが受けた数々の被害の話だ。
彼女を担当しているプロデューサーは、見た目は茶髪のイケメンだったそうだが、アイドル生活を長く過ごすうちにそのプロデューサーの化けの皮がはがれて来たのだそうだ。
人がいない場所を見計らってお尻や胸を触ったり、ひどいときはトイレ妨害。
さらには、誹謗中傷を直接浴びせたりなどでエスカレートしていったという。
しかも、彼女の両親とはグルだったみたいで、それがエスカレートするハラスメントに拍車を掛けていた。
「その事務所社長とかは気付かなかったのかよ」
「厄介なのはそこさ。 奴はプロダクションの人間の行動も把握していてな。 それに基づいていいようにしていたらしい」
「えげつないな…」
「今回だって、偶然奴がこの子をトイレ妨害した所を見かけて奴をぶん殴る隙にトイレに行かせたくらいだ」
「なんとまぁ…。 それでどうするんだ?」
「今回、社長と話し合ってこの子と要でイベントをやる予定なんだ。 その会場をこの町の近くで行う予定でな。 そこに正光に協力してほしいんだよ」
康弘は今後の少女の為にこの町で行うイベントに協力をしてほしいと言う。
当然、要も一緒にだ。
だが、正光が腑に落ちないのはそのイベントに自分が協力をしてほしいと言われた事だ。
「社長の願いでもあってな。 今回のイベントで奴をこっそり見張って欲しいんだ」
「なるほどな。 炙り出すという事か。 で、怪しい動きをしていたら?」
「殴ってでも止めて構わないのだそうだ。現行犯でいけば警察も動いてくれるだろうし」
「確かにな。 証拠を隠滅してる以上、頼みの綱は現行犯逮捕だろうしな」
「そう、奴がどれだけ下種な事をやってきたかを知らしめる必要があるからな。 アイドルが魔法を使う事を禁止している芸能協会のルールをいい事にハラスメント行為をやってるしな」
「そうだな…。 とりあえず康弘、町内会にもこの事を相談するがいいか?」
「構わねぇ。 奴にとっての敵が多いことに越したことはないからな」
正光が今回の内容を町内会にも相談することに康弘は許可した。
康弘にとってもこちら側に味方が多くいる方がいいのだろう。 アイドルの少女にとっても。
「…と、注文した奴が来たみたいだな」
そうこうしているうちに、アリアとステアが注文の品を持ってきてテーブルの上に置いた。
「そんじゃ、いただきますか」
「…いただきます」
康弘とアイドルの少女は黙々と食事をし始めた。
(忙しくなりそうだなぁ)
正光はそんな二人を見て、そう心の中で嘆いていた…。
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