013 『あの会社』のその後
信彦の件から一週間。
シュクレール・コンツェルンにて正社員採用として処理され、無事にシュクレール亭で働くことになった信彦。
今はステアと一緒に3階の大部屋で住み込んでいる。
そして、精神的に落ち着くまで暫くは2、3時間の厨房での勤務となった。
もちろんステアが一緒になって彼に色々と教えながらだが。
「物覚えがいいな、あいつも」
「うん、お母さんやお兄ちゃんから聞いてびっくりしたけど本当によかったよ。 ステアちゃんもいい顔してるし」
「今月分も月給としてちゃんと手取りは保証できるしな。 今はあいつの心の傷を癒すほうに専念してもらいたいよ」
ステアが教えてる為か、頑張って働いている信彦を見て、正光とアリアは微笑んだ。
「そういえば、お兄ちゃん。 信彦さんのお父さんが自殺した原因を作った会社なんだけど…」
「ん? 何があった?」
「どうも、現社長の横暴に耐えきれず辞めた人が続出してるみたい。 しかも、多くの取引している会社が取引を辞めた事も相まって業績も傾いているらしいよ」
「ああ…、あんな社長じゃやはり会社は持たないよなぁ」
「そうだね。 しかも一部の元社員がキャルッターで告発して炎上したのも引き金になったみたい」
「あぁ…、SNSも使い方次第で怖くなるなぁ」
有体に言えば、信彦の父親を現社長のえり好みによって解雇した会社が、同じく横暴に耐えられなくなってやめた元社員の告発がきっかけで炎上。
それを危惧した多くの取引先の会社が次々と取引を取りやめる事態が発生し、業績は右肩下がりなのだろうだ。
SNSの怖さを改めて知った正光に対し、さらにアリアが話を続けた。
「それでもただでは転ばないのがあの社長らしく、その告発した元社員に対して裁判を起こしてるらしいよ」
「未だに燻るバカッターによって被害を受けたのならまだ分かるけど、不正解雇までかましてる現会社がなんで訴えるんだ?」
「自分主義だよ。全て自分の思う通りの流れを防がれたことで腹が立ったんだよ。 SNSで告発したせいでね」
「機密を流出したわけじゃないんだろ? 告発したのはあくまでも現社長の横暴の内容なんだろ?」
「そうなんだけどね…。 現社長はなんとしてもお金を搾り取るつもりらしいよ。 しかも裁判員や弁護士にお金を与えて自分有利に運ばせるつもりみたい」
「はぁ…」
正光は額に手を押さえてため息をつく。
信彦の父親を自殺に追い込んだ現社長がここまで馬鹿だとは思ってなかったからだ。
「でも、今回の裁判はお父さんが作った最強の法務部経由で元社員に優秀な弁護士を派遣するつもりだよ。 後お父さんも証人として出るみたい。 何せお父さんが作った子会社の一つがその会社との取引先会社だったらしく、社員が現社長に対する愚痴を聞いてあげてたからね」
「へぇ…」
「さらに法務部経由で探偵を雇って証拠も手にしてるみたいだから覆すと思うよ。 金で思い通りにさせない事がお父さんのコンセプトだし」
「そうなる事を祈るかねぇ」
「そうなるよ、きっと」
その時のアリアの表情は自信に満ちていた。
父親のすごさは娘が一番よく知っているというのだろうか…。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そして翌日、シュクレール・コンツェルン最強の法務部の力によって告発した社員の言うような証拠が次々と裁判中に出され、結果は原告の敗訴になったのだそうだ。
「本当に原告敗訴になったのか」
「だから言ったでしょ♪ お父さんの作った法務部は最強なんだって」
チャティーから伝言があり、現社長側の敗訴の報を聞いた正光は驚き、アリアはどや顔をしていた。
「だけどさ、これ地裁だろ? 現社長側が控訴するんじゃないか?」
「それなんだけど、お金が無くなったらしく控訴は断念するらしいよ。 要らんことにお金を使うからこうなるんだよ」
ステアが懸念した内容に、アリアが否定する。
控訴する事を断念したようだ。
それによって、破産申請法を申し立て受理されたようだ。
しかし、ドラ息子が後を継いだがために一気に会社が潰れるなんて思いもよらなかったのだろう。
「俺達はああならないようにしないとな」
「そうだね。 私たちもこの会社を盛り立てないといけないからね。 ステアちゃんと信彦さんの居場所を守るためにもね」
「私も頑張るさ。 信彦さんも頑張ってるしな」
そんな訳で、今回の件をきっかけでシュクレールファミリーの結束力が高まった。
三人ともさらに頑張ろうと誓ったのだ。
よろしければ、評価(【★★★★★】のところ)か、ブックマークをお願いします。