011 チャティーが目指すホワイト企業とは
今回は現実ではありえなさそうな考えも記載しているので注意。
故の「ローファンタジー」設定なのです。
ハロウィン週間が過ぎて、早1週間。
本格的に秋の彩を感じていく11月の最初の日曜の定休日。
2階のリビングには正光とアリアとチャティーがいた。
ステアは恒例の信彦とのデートだ。
「ステアちゃんも信彦君とデートするときって生き生きしてるわね~」
「まぁ、お互いが両想いなんだろうけど」
「うん、何ていうか私たちに負けない位ラブラブだもんね」
ステアのデートについて三人はそれぞれの感想を述べていた。
ただ、彼女の意思を介入することはしない。
「私たちに出来ることは二人を応援してあげるくらいだしね~。 でも、折角だし、信彦君にもバイトとして雇ってあげたいわね~」
「あいつが望むならそうしたいけどな…」
「帰ってきたら聞いてみたらどうかな?」
「そうだな、聞いてみるか。 大学のスケジュールもあるだろうし」
そして信彦のバイト提案の件に対しても、彼が望めば採用して働かせるという話でまとまった。
少しでも長くステアと一緒に居るために仕込んだものなのだが。
「そういえば他の部門の人事は大丈夫なのか?」
「それなら心配いらないわ~。 基本的に多くの人員を採用したうえで定時で上がらせる形だし。 あと、ノルマは禁止してるからみんなの自分のペースで働いてるわよ~」
「そうだね。 世界からホワイト企業って言われてるから、そこら辺りはしっかりしてるんだね。 未だにブラック企業が多いって話だし」
「…でもね、形だけのホワイト企業が多いのも…また現実なのよ」
「ん?」
チャティーが口にした形だけホワイト…というのが正光には引っかかった。
アリアもそこに疑問を感じ始めた。
「母さん、形だけのホワイトってどういう…?」
「給料はいい、残業がなく定時で上がれるとか…そう言った感じをホワイトって定義する人が多くなってきてるの」
「え? 定時で上がれて給料がいいっていうのはいい事なんじゃ?」
アリアもチャティーの言葉に突っ込みを入れざる終えなかった。
残業を強いられ、かつサービス残業の多いせいで過労で倒れる人が多いとされるブラック企業が多い中で、定時で上がれ給料や福利厚生がいいホワイト企業は魅力的に映るからだ。
「そこなのよ。 私たちの会社と他のホワイト企業とは定義のズレがあるみたいなの」
「どういうことなんだ?」
「他のホワイト企業は確かに定時で上がれる。 でも実態は、定時までに与えられた仕事を終わらせなければならない。 できて当たり前というプレッシャーを受ける事が多いみたい」
「ええ…!?」
アリアは驚きを隠せずにいた。
「全てがそんなわけがないけどね。 私たちの会社もそう。 でも、ブラックからホワイトに転職した知り合いがプレッシャーに耐えきれなくてうちに転職してきたからね」
「まじか…」
「他のホワイト企業は天才肌が多いイメージを持たれてるのも事実なの。 いくら待遇がよくても仕事の実力としっかりした人間関係が構築できなければ募るのは劣等感だけ。 結局最後はそれに耐えられずに辞めていき、最悪鬱になることもあるそうよ」
「それで、お母さんの知り合いはどんな感じで?」
「完璧な仕事を求められた上に納期のプレッシャーが焦りとなってミスを連発。 それがさらにミスを産む負のスパイラル。 相手側はしっかりとした論理で言ってくるから余計に追い込まれてくるのよ。 反論できないからね。 それが自分が他と劣ってるという感覚に囚われた結果、鬱になったのよ。 それで1か月前に前の職場を退職したの」
正光もアリアも開いた口が塞がらない。
待遇がいいからホワイト企業と言う幻想は、チャティーの言葉で砕かれたからだ。
「だから私が今でも目指し続けるのは『真のホワイト企業』なのよ。 下手にノルマを課さず、辛いと思った人にしっかり手を差し伸べ、自分自身を大事にできる環境を作り続けたい。 最終的にここで働いてよかったと思える優しい企業を目指したいのよ」
「人を多く採用するのも、そのためなのか」
「人件費はかかるけど、人を大事にしたいからね~。 まだ私の目的は道半ばだから」
副社長であるチャティーが目指す『真のホワイト企業』。
それが実現するかどうかは今のところ定かではないが…正光とアリアはいつかその想いを継いでいかなければと思うようになった。
「さて。真面目な話は終わったところで、私たちはお昼ごはんにしましょうか~」
「ああそうだね、丁度お腹がすいてたの」
「どうする? 出前にするのか?」
「そうねぇ~、クーガー・イートという出前会社を経由して牛丼でも頼みましょうか~」
こうして真面目な話を終えた三人は、本来の雰囲気に戻り、お昼は出前で済まそうと準備をし始めるのであった。
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