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010 ハロウィンパニック

「とりっくおあとりーとー♪」


「はいはい、ほら、お菓子だぞ?」


「わーい、ありがとう、おにいちゃん」


「道中気をつけろよー」


「ああ、今日からハロウィン週間なんですねー」


「え、そうなの?」


「え、美由紀ちゃん知らなかったの!?」


「いや、だって私は兵庫県の豊岡からここに来てるから」


店長の正光と魔女などの格好をした小学生の子供たちのやりとりを見て、綾子とB子改め(くすのき)美由紀(みゆき)が対話をし始めた。

シュクレール亭があるこの町では、今週から10月31日まで【ハロウィン週間】として、色んな小学校の子供たちの仮装行列の途中でお菓子をねだりにシュクレール亭に来ている。


「だから、事務所にたくさんのお菓子が詰まった箱がいっぱい用意してあるのね」


「小学生の悪戯は可愛いけどね。去年は私もやられたよー。スカートめくりだけどね」


無論、お菓子を渡さなきゃ悪戯を仕掛けてくる小学生もいたため、今年はそれをしないように大量にシュクレール・コンツェルン本社からお菓子を頼んだという。

ただ、それに乗じてかいい大人をした人も従業員に対してセクハラを仕掛けた事もあったため、今年は女子でも下がフォーマルズボンのウェイターの衣装にしている。

今年は町内会でもいい大人からの対策は練っているようだ。

効果はあるかは定かではないが…。


「この服装もいいけど、可愛い子供たちからの悪戯が来ないのも寂しいもんだね」


「あんたはスカート捲りされたいっていうの?」


「可愛い小学生からならねー」


「酷いショタコンがここにいた…」


「ロリコンでもあるよー」


「そっちもかいっ!! はぁ、ホント綾子は…」


セクハラはともかく、小学生の可愛い悪戯がこなくなって寂しがる綾子に美由紀は手に負えないという形で額に手を当ててため息をついた。


「まっ、この調子だと、何事も無く平和でいけそうだねー」


「そうだといいんだけど…」


平和にいけそうだと自信満々に笑う綾子に対し、何かが起きそうな予感がして不安な美由紀。

直後、フラグを回収に来たと言わんばかりの何かがこっちにやって来た。


「はぁ、はぁ、はぁ…!!」


「ど、どうしたの!?」


「か、匿って欲しいんです…! お、追いかけられて…!!」


長い髪の子が匿って欲しいと言ってやってきた。

結構走ってきたせいなのか、息切れが激しい。

表情も何か恐怖を味わっている表情だった…。

誰に追われているのか…。


「要くんじゃないか! どうしたんだ、息切れしてるぞ!?」


「え…? 店長…、【要くん】って?」


「ああ、この子は水鏡要といって、女の子の容姿をしてるけど、男性で、アイドルなんだ」


「つ、つまり【男の娘アイドル】ってわけですね!?」


「綾子!!」


男の娘に反応したのか綾子は目をキラキラしたが、美由紀に一喝された。


「ま、正光さん…! じ、実は…この町がハロウィン週間だからって言って…、お、お菓子を持ってないボクに…っ!!」


「か~な~め~きゅ~ん」


「ひ、ひゃあぁぁぁぁぁぁ!!」


「か、要さぁぁぁん!?」


突然、現れた多くのファンが一斉にルパンダイブをし、要を包囲した。

そして、すぐさまに要の服に手を掛け始めた。


「ちょっ、やめっ、脱がさないでくださぁぁい!!」


「要きゅんがお菓子を持っていないのがわるいんだよ~、ハァハァ」


ファンAは涎を垂らして、ハァハァと息を荒くしながら、ゆっくりと上着を脱がし始める。

それも、ソフトに優しく…。


「だからって、悪戯していいってわけじゃないでしょう…ひゃっ、ど、どこ触って…!」


「要きゅんの身体、すべすべ~」


ファンBは要の身体をくまなく触り始めた。

これもソフトタッチに優しく、全年齢に相応しくない感じで。


「こ、これは…! このままじゃ要くんが…!!」


「し、神聖なる食堂で…なんて事を…! でも、あのオーラでは…っ!!」


最早悪戯で済むようなレベルじゃなくなったファンからの要への悪戯…。

その様子に怒りを隠しきれない綾子と美由紀だが、ファンの異質なオーラに近づけないでいた。

防衛用の魔法すら使用禁止の為、要がアイドルであることがネックとなっている。

だが、このままでは、要の貞操もピンチに…。

そこに…。


「おい…」


「へ…?」


誰かの声に振り向くファンAとB。

そこには…。


「その子が嫌がっていることを平気でやる人間相手に同情も容赦もしない…! それにここは食堂だ…! 周りのお客様の迷惑にもなってるんだぞ…」


デッキブラシを片手に静かなる怒りを携え、悪鬼のオーラを漂わせる店長・正光がそこにいた。


「あ、あわわわわ…」


あまりの威圧感に、ファン達は恐怖で萎縮している。

そんなファンの襟を掴み…。


「表に来い! お仕置きという教育を施してやる!!」


「い、いやあぁぁぁぁぁ、勘弁して~~!!」


「ま、まさか、あなたがあの【丹後地方の魔神】だったなんて~~~~!!」


ファン達の悲鳴を残して、店を出た。


「さよ~なら~」


「さすが、店長…。ルール無用の人には容赦なし! …要さん、大丈夫?」


「は、はい…。上着を脱がされただけで…済みました」


その様子を笑顔で手を振り見送った綾子。

正光の凄さを尊敬しつつ、美由紀は要に気をかけた。

要は多少精神的なダメージを負ったが大した被害はなかった。


「アバーーーー、サヨナラーーー!!」


裏でファンの狂った悲鳴が上がっているが、三人は無視する事にした。

いつものことだから…と。


「あ、要くん、折角だしここで何か食べていかない?」


「そうね、後で店長に事情を話しておいてあげるから」


「そ、そうですね。じゃあ、カツカレーをお願いします」


そして、いつもの通りに要はカツカレーを注文した。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


【閉店後】


「ふぅ、疲れた…」


今日の仕事を終えて、風呂に入る正光。

今日は特に、あの教育での疲労がメインだったが…。


「それにしても、ハロウィン週間は手ごわいな…。あんな形もありえるんだから」


「そだねー、ハロウィンだしねー」


「まぁ、楽しめたらそれでいいじゃないか」


「ああ、そうだな…って、ちょっと待て!!」


何気ない会話で一瞬忘れかけたが、違和感に気付き我に返った。

そう、アリアとステアが正光と一緒にいつの間にか入浴していたのだ。

そして、二人は水着を着用していない。

つまり、裸というあられもない姿を正光の前に晒しているのだ。


「何でお前らが風呂に入ってるんだ!? それにいつ入ってきた!!」


「お兄ちゃんが入浴してすぐだよー。 だって、お兄ちゃん、私達の分のお菓子、用意してなかったでしょ? お菓子くれなきゃ悪戯しちゃうぞーってね」


「あ…!」


仕事疲れが優先してしまい、シフトに入ってなかったアリアとステアの分のお菓子を用意してなかったのだ。

普通ならいいが、よりにもよってハロウィン週間の日だ。


「そうでなくても、たまにはこうやってニーサンと風呂に入ってもいいじゃないか♪」


「そうそう♪ さぁ、お兄ちゃん、観念しようね~♪」


「い~や~!!」


闇黒になった空に…正光の悲鳴が空しく鳴り響いた。


翌日、正光はゲッソリした状態でダイニングルームに現れたとチャティーは証言していた。

それを聞いた常連客である信彦たちも「あぁ…」と何かを悟った表情をしていたそうだ。



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