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第5話 宿営地での激突

 迫りくる魔王軍と迎え撃たんとするラグマたち。砦では、宿営地を巻き込んだ薄氷を踏むような作戦のため総員を上げて奔走していた。一方の魔王軍もすんでのところでこれを躱しながら、囚われの将軍の待つ宿営地に着々と近づきつつあった。

 砦の作戦室にて、俺は宿営地までのルートに仕掛ける罠の設置状況を確認していた。といっても人手も時間もギリギリ、街道以外にも通行可能な経路があって…と、状況は厳しい。敵が足止めに掛かってくれるのが一番なのだが…


 そうこうしていると、山道から戻ったアーチェが息を切らして駆け込んでくる。彼女には一番遠くの炸裂弾地帯を任せていたが、本当に敵が来る前に往復できるとは…


「ほ、報告します!炸裂弾地帯の第一陣では一名が罠で負傷しましたが、敵は直ちに魔導士の魔法で一帯を爆破、迅速に埋め戻し進軍を再開しました!」


「ありがとうアーチェ、一番厄介な手を取られましたね…」


「ですが敵の狙いもよりはっきりしましたぞ。寸暇を惜しんで魔法に頼り罠を破壊したということは、目標はやはり宿営地の捕虜!まぁすなわち事態は好転していないということでもありますがな!」


「全くですね!」


「「ハッハッハ!」」


「「ハァァー…」」


 守備隊長とともにため息をつく。実際のところは今からでも籠城戦に切り替えた方が楽なくらいにはカッツカツなのだ。一般兵士には見せないようにしているが、結構ぐったりである。


「えぇと…第二陣以降の様子を見てきますか?」


「いえ、アーチェは少しでも休んでいてください。以降の罠も、同様の手法で突破されると想定して動きましょう」


「ま、敵の魔導士を消耗させただけ良しとすべきでしょうな。しかし騎馬隊が越えてくるとなるととにかく惜しい、もう少し手勢がおれば街道以外も押さえられたのですがなぁ」


 最短距離をかっ飛ばされては目も当てられないので、街道は可能な限りの封鎖をしたが、その分他には手が回らなかった。敵はどこから山越えをしてくるか?宿営地へのルートはどこが有力か?街道を敢えて外された場合、ロクに的を絞れなかった以上捕捉するのは困難だろう。


「こちらで打てる手は打ったはず、あとは宿営地がよい判断をしてくれているかですが…」


 どうにも心配だ。対策といってもそう気軽に打てる規模ではない、あるいはもっと別な方法を提示すべきだったかと眉間にしわを寄せていると、アーチェが穏やかな口調で語りかけてきた。


「…ラグマ様、狩人も一度ここ!と決めた後は腰を落ち着けて待つのみです。もどかしいとは思いますが…きっと大丈夫です!」


「うむ、信じて待つということも、指揮官の大切な役割ですからな!」


 ふたりに励まされる。彼女らの言う通り、ここまで来て焦っても仕方がない。ありがとう、と微笑んで返し、手薄になってしまった砦の防衛に意識を切り替えた。




**********




…日暮れ前、砦まであと少しの地点。我々魔王軍強襲隊は、騎馬隊の分離ポイントまで到達していた。


「想定外の妨害があったが、作戦に変更はない。魔導士は私の背に、あとの者も準備せよ。我々は山を越え閣下の救出へ向かう…それさえ成れば我々の勝利だ!残りは無謀を控え、砦の注意を引き付けることに注力するように!」


 砦に向かう部隊と別れ、案内役を先頭に騎馬隊が山へ分け入っていく。一見通れるとはとても思えなかったが、情報収集も兼ねて何度も確かめた道らしくすいすいと登っていく。道すがら、魔導士が尋ねてきた。


「更なる妨害の可能性はありやすかね?こっちは撃ててあと2、3発といったところで…」


「ある、と見るべきだ。ずいぶん手の込んだことをしてくれた…こちらの意図を察知している可能性が高い。だが一方で、山道での妨害は不完全だった。気付いた時期が遅かったか手勢が足りなかったか…何にせよ、万全の迎撃態勢は取れていないことは間違いない」


 そう、とっくに気付いていたというのなら、他にやりようはあったはずだ。敵も決して余裕があるわけではない…ここで弱気になることはないのだ。


「道中は我々の乗馬の腕で凌いで見せる、お前は目的地で大暴れする準備に専念してくれていいぞ」


「頼りになりやすねぇ隊長!さすが、部下から『ロデオやらせりゃ魔界一』だの『サーカス団からひっぱりだこ』だの呼ばれるだけのことはありやす!」


「…ねぇそれホントに褒めてる?というか私、部下たちからそんな呼ばれ方してたの?」


 作戦には全然関係ない一抹の不安を覚えながらも、夜陰に紛れて道なき道を進む。案内役が、それこそ命がけで見つけ出したルートだ。一歩一歩踏みしめながら…遂に山を越え、平地に出た。


「よし、飛ばすぞ!狙うは右回りだ!」


 宿営地までの経路自体は多いが、事実上取りうるルートは3つ。ド本命で最短距離の街道、遠回りだが発見されにくい左回り、両者の中間の右回り。経緯からいって街道は危険、左回りは時間がない…残るは右回りだ。


 平地に出たところへの奇襲は避けられた。問題は右回りの本線に乗ってからだ…経路上に躍り出るところまで、妨害はなかった。


「また炸裂弾はありますかね!?」


 魔導士が背中越しに尋ねる。


「わからん、あとあってもどうにもならん!踏まないことを祈っててくれ!」


「…前方、障害物!」


 案内役が叫ぶ。あれは…木の枝を積み上げた障害物に、穂先をこちらに向けた槍が突き立ててあるのか!左右の木陰からは、敵兵らしき影が今か今かとこちらを伺っているようだ。


「ま、魔導士!」


「間に合わん!跳び越せ!」


 鞭を打たれた馬が、ひときわ大きく嘶いた。この作戦のために、名馬の中の名馬を揃えた…いけるはずだ!


「跳べ!」


 地面を強く蹴り上げた巨体が宙を駆ける…眼下で月明かりに照らされた敵の兵士が、こちらに見惚れているようだった。嗚呼、今の私、超カッコいい…タンデム相手がチンピラ調の魔導士でさえなければなぁ…


「一騎ついてきません!」


 後方から叫びが届く。タイミングを失して立往生したのだろうか…敵のものであろう、『押さえろ!』の声が聞こえた。


「構うな!進め!進むんだ!」


 落伍した場合、不用意な抵抗は慎むよう命令してある。もとよりこうなることも覚悟の上での作戦なのだ…どうかせめて、無事であってくれ!


「思ったより妨害が少ない、行けそうですぜ!」


「あぁ、おそらく手が回らなかったのだろう!街道を選ばなくて正解だった…と、言ってるそばから宿営地だ!」


 眼前に、目指す宿営地の外壁が迫りつつあった。ここからはまず外壁を破壊し躍り込んだ後、兵舎の壁をぶち抜く…と同時に勇猛で知られる部下が二騎宿営地内で暴れまわり、さも大軍の一斉攻撃と思わせ混乱を引き起こす手筈だ。本来ならここでも魔法の爆発でよりそれらしさを演出するはずだったが…やむを得ない、彼らの奮闘に期待しよう。


「まずは魔法だ、頼むぞ魔導士!特に二発目は外すなよ!」


「お任せあれ…せいっ!」


 地響きとともに宿営地の外壁が崩れ落ち、突破口が開いた。


「それもう一丁!」


 景気の良い掛け声に続いて、今度は兵舎の壁が吹き飛ぶ。部下の二騎が予定通り、唸り声をあげて奥へ駆けて行った。我々は兵舎へ一直線になだれ込むのみ…そのままの勢いで飛び込み、ありったけの大声で叫んだ。


「魔王軍強襲隊総勢500名見参!!!おとなしく投降せよ!!!」


「山道の砦は降伏したぞ!!!抵抗は無駄だ!!!」


「魔導大隊も推参でありやすぜ!!!」


 無論でっちあげだが、敵とて正確に事態はつかめないはず、言ったもん勝ちだ。あとは捕虜の呼応に賭けるほかない!…のだが、土煙の先に我々が見たのは、()()()()()()()()()()()()()であった。


「ば…バカな!敵すらいないはずがないだろう!?」


 周囲を手早く確認しつつ、混乱した頭を必死に回転させる。散らかった部屋の様子からいって、直前まで誰かが…それも大勢がいたことには違いない!捕虜の情報が正しいなら別の建物に押し込まれて…いや、そもそも全体が異常に静かすぎる!丸ごとどこかへ護送したのか!?この短期間で粛々と!?移送するにもリスクが伴う、これほど早くそんな決断ができるはずが…


「隊長!暖炉の焼け残りにこんなものが!」


 考えを巡らしていると、部下が大慌てで燃え残った文書を持ってきた。火をかざし、目を通すと…


「断片的ですが…襲撃の予期と大掛かりな対策命令が書かれていやすね」


「起草者は…『筆頭勇者ブライト付き参謀 ラグマ』…!くそっ、やられた!」


 感情に任せ文書を破り捨てる。勇者に従う参謀の命令…完全に想定外だ!勇者ブライトといえば我が魔王軍最大の脅威、その腹心が最前線ではなく、こんなところで出しゃばってくるとは…!


「隊長!ですが城塞戦の捕虜は数も多い、そう遠くには動けていないはず!今すぐ見つけられればまだ可能性が!」


「…まともな魔法を撃つ力は残っていない、何よりもう夜が明ける…撤退だ!急げ!」


 残置されていたであろう敵兵が集まりだす様子もみえた。直ちに馬を駆り宿営地を飛び出す。撤収の合図に最後の魔法弾を宙に放つが…陽動の二騎がついてくることはなかった。


「覚えておくぞ…『参謀 ラグマ』!この借りはいつか返してやる!」


「そのセリフを聞くと、負けたんだなって感じがしやすね…」


 こうして、『将軍閣下救出作戦』はあえなく終わりを迎えたのだった…

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